第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その二十八
「気に入らん態度もあるが、負傷した女性を荒野に向かわせるのは騎士道に反する。どこかに向かうのであれば、竜で送ろう」
「……竜には、乗らんよ。情報ももらった。ハリートビー廃鉱でのこと、ゼベダイ・ジスのこと、もう一人のメロのこと……多くを知れた。これらを報告すれば、『蟲の教団』への弾圧も作れる。邪教の術を、広めないように出来る。情報提供には、礼を言う。協力は、十分だ」
「行く当てがあるのか」
「当たり前だ。この事態を想定していたわけではないが、本山との連絡くらいいつでもつけられる。サポートしてくれる部隊も、いるのだ」
「あくまでも竜の力を借りないと」
「『カール・メアー』の教義に対して、潔白でいたいのさ」
「頑固者め」
「リエルの……森のエルフの秘薬で、元気になっているから大丈夫だよ」
「森のエルフの……そうか」
「そこまで差別してくれるなよ。ヒトの命を救うための知恵だ。宗教が救えるのは心だが、戦場で命を救うのは医学だ。大昔から、死を遠ざけようと多くの者が努力して作り上げた力まで、混沌のせいにして嫌うべきではないぞ」
「……受け入れるさ。血のなかに、すでに融けたものは、どうにもならん。女神イースが除けとおっしゃるのならば、この胸でも裂いて、血を出すさ」
狂信者ではあるよ。彼女は、もしも、女神イースの命令を夢のなかででも見れば、口にしたことを実行に移してしまう気がするぜ。
「ではな、魔王」
それでも、立ち去ろうとする彼女は弱々しさがある。体力的な消耗もあれば、精神的な疲弊もあるだろうさ。誰もが、それほど頑強になれるわけでもない。
「ジャン!『巨狼』になり、彼女の脚となってやれ!」
「は、はい!!』
「……何の、真似だ?敵の力を、これ以上、受け取ると思うのか?」
「一度は、乗っただろう?それならば、もう一度だけ乗れ。こちらに送らせてくれないのならば、力尽くに竜へと乗せて、君の向かうべきところに運んでやるぞ」
「……ちっ!」
「選ばせてやる。オレは、女性に対して寛大な男なんだよ」
「傲慢な魔王だ」
「どっちがいいの?」
「……狼を、選ぼう」
『で、では、ぼ、ボクの背に、乗ってください……っ』
「『呪われた血』まで、飼いならす魔王か」
「ジャンは大切な『仲間』だ。『パンジャール猟兵団』の猟兵だよ。飼いならしているわけではない。悪態をつくのが、君らの仕事でもあるまい」
「……つきたくもなる。戒律を、破ることにはなれていないのだから。だが、それでも、生きねばなるまい。世界を……完成させるために尽くすのが、『カール・メアー』の使命」
ジャンの背に乗ると、彼女は北を見た。
「北に、向かってくれ」
『は、はいっ!了解しました!そ、それでは、団長!す、すぐに彼女を届けます!!』
「ああ。しっかりと送り届けてやれ。『パンジャール猟兵団』の名に懸けて、彼女に安全を与えてやろうじゃないか」
『イエス・サー・ストラウス!!で、では!!』
抱きついてくるように絡む夏の夜風を貫いて、ジャンは北へと走って行く。馬の倍ほどの速さに、スピードを抑えながらね。とても、紳士的なスピードだと思うよ。
「さて、と」
「…………っ」
見つめたのはイース教の若い尼僧たちだ。オレが手術した尼僧は、疲労が限界に達したのか今は眠っている。しかし、呼吸は穏やかで、出血も止まっていた。
「もうしばらく休ませれば、彼女も動かせそうだ。そうすれば、竜で運ぼう。どこか、運んで欲しい場所はあるかな?」
「…………で、では、ここから4キロ東にある、修道院に……友人たちが、そこにいますので。必ず、匿ってくれるはずです」
「そうか。頼るべきは友人知人と血縁だ。そこに、君らを送る。竜で送ることになるが、あの『カール・メアー』ほど、文句はあるまい?」
「は、はい……彼女が、その、失礼な態度を取ってしまって、申し訳ありません」
「君が謝ることじゃない」
「そうだよー。あいつが、意地悪なだけだもん」
「いいえ。彼女は、私たちのことを、命懸けで守ってくれましたから……やさしい女性ではあるのです。信仰心も深く……表現の形と、目指すべき形は、私たちと異なってはいますが……」
「命懸けで守ったことには、敬意を持てる。『カール・メアー』の教義には、腹が立った」
「それは、私も思うことはあります。彼女たちは、苛烈ですし……『血狩り』を、私たちも好んではおりません……ですが、彼女は、仲間のためにがんばれる方です。戦士、なのだと思います」
「自分の所属集団の『正義』を執行する者ではあるだろうね」
「……はい」
「君にも、情報提供を求めてもいいかな?」
「え、ええ。答えられることでしたら、何なりと」
「君たちは『カール・メアー』に協力して、リヒトホーフェンや『寄生虫』、『蟲の教団』について調べていたのかい?」
「そうです。帝国からの命令でもありましたし、拒めば、教会を奪われることにもなりかねない事態でしたので……」
「ひどいヤツら!」
「強引さには、困りものでしたが。彼女は、その振る舞いにも謝罪をしてくれました。マジメな方ではあるのです」
「『カール・メアー』なだけか」
「そ、そうですね。良くも悪くも、『カール・メアー』としては、理想的な尼僧なのだと思います……私たちを、命懸けで守ろうとしてくれたことは、忘れません」
「あいつのせいで巻き込まれたって、思わないんだ?」
「ええ。許すことも、イース教なのです」
「……ふーん。イース教って、よく分からなくなる」
「多くの宗派がありますので、一言で説明するのは困難ですが……誰かを呪いたいわけではありませんよ。日々の暮らしを、善き方向に導くために、信仰を実践したいだけなのです」
「お姉さんは、良いヒトだって思う。あいつは、あんまり良いヒトじゃないと思う」
子供の素直なジャッジは、いつだって正しいと感じられるよ。あの『カール・メアー』の女性は、やはり厳し過ぎる印象だ。
「……それで、質問の続きをしてもいいかな?」
「は、はい。どうぞ」
「『オルテガ』の市民は、どうしている?」




