第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その二十六
長くの屈辱の日々、多くの敗北を喫しもしたが、しぶとく生き抜ければ、得るものもあったのだよ。あきらめあることなく、大陸全土を支配した帝国に挑む。思い返せば、なかなかに壮大な行いかもしれんが、覚悟一つで成し遂げられもしたわけだ。
となれば、思ったよりも、大したことじゃないのかもしれん。
「君は、報復を成し遂げられるさ。戦士が生き延びたとは、そういうことだ」
「……無論、リヒトホーフェンには厳罰を望む。『異教活動』をするだけでなく、あまりにも多くの実害を与えている。イース教の教えにも反するし、帝国の法にだって反する。どうして、このような暴挙を……誰も、こんな事態になるまで止められなかったのか!!」
「ヤツが強かったからだな」
「悪なのにか!?」
「悪でも、力があれば、こんなことを起こす」
「……くそっ!!」
「戦士にとって、無力であることは何よりも重たい罪だぞ。戦士が敗北してしまえば、その所属する組織が掲げた正義も殺されるのだからな。ガルーナが滅びて、帝国がのさばった。おかげで、オレたちの正義は、君らに悪と呼ばれる」
「……負け犬は、何も守れんか……っ」
「生きている。まだ、戦いを続けられることを、喜べ」
「……これほど……失っても…………いや、そうだ。そうだな。失ったからこそ、戦わねばならんのだ!!」
負け犬になった戦士の覚悟というものには、詳しいよ。何よりの当事者だから。
「こちらの知っている情報を提供しよう。君にオレが期待するのは一つ。リヒトホーフェンと『寄生虫』の脅威を排除するための協力だ」
「……その点については、合致している。協力しよう」
「ありがとう。では、マルド・メロとハリートビー廃鉱について、君に教える」
「……ああ。話してくれ」
一つの冒険の物語を、『カール・メアー』の剣士に伝えた。ドワーフに対する非道な所業に対しては、大して表情を変えなかった彼女であるが、帝国兵や傭兵に対して『寄生虫』が使われたことには、敏感に反応する。
「やはり、『寄生虫』は……ヒトを支配するようになったのか。メロどもだけでなく、リヒトホーフェンを、『寄生虫』を投与された者を……操れる……ッ」
「そして、マルド・メロが残した、全てを書き換える『究極の聖餐』とやらが気になる。君は、これについて、何かしらの解釈が可能だろうか?」
「邪教のことなど、知っているとでも思うか?」
「君の信仰心を試しているんじゃない。怒るなよ」
「……ふん」
「協力しようぜ。互いの信じる『正義』の敵が、リヒトホーフェンだろう」
「……邪教のことなど、知らないが……『聖餐』とやらについての情報は、得ている」
「誰かを生贄に捧げることで、新しく、罪に対する罰の力を生み出す」
「そのようなところだ。だが、単に、これは罰するだけの力だとは思えん。少なくとも、リヒトホーフェンが求めているのは違っているようだ」
「……『変異』させることが、望みだとも……」
「ああ。新しい『法則』というもの、あるいは『掟』を、この世界そのものに刻み付ける力を、生み出せるようだ……これは、似ていると思わないか?」
「似ている?……何にだい?」
「悪神『ゼルアガ』の一体により、我々、ヒトからは第四属性『氷』の力が、奪われたのだ」
「……世界を、その『侵略神/ゼルアガ』が、書き換えてしまった……『変異』させたと」
「似ているだろう?『蟲の教団のギルガレア』が支配する領域においては、罪を犯せば悪神の罰が与えられるという。その新たな『絶対の法律』の運用を、『蟲の教団のギルガレア』がしているのだ。例えば、この土地では『『炎』の属性の魔力をヒトが感じ取ること』が罪だとされたら、どうなるのだろうかな?」
「『炎』を感じ取ろうとすれば、『ギルガレア』が襲ってくるの?」
「それ以上のことも起こせるのかもしれない。第四属性『氷』のように、そもそも感じ取れなくなる……『ゼルアガ』には、世界の法則を変えてしまう者もいるのだ。事実、過去にいたから、私たちは『氷』を感じ取れん。つまり……ただの罪と罰というよりも、『新たな法則のもとに、世界を書き換える』……そういう災厄なのかもしれんと言うのが、我々の解釈だ」
「マルド・メロも、似たようなことを言っていたな。連中の目的は、『世界を変異』させること……あるいは、革新させるとも」
「おぞましいことだな。『ゼルアガ』との契約で、この世界から、再び何を失わせる気でいるのか……」
「メロどもは、医学的な使い道も本心で考えていたようだが、リヒトホーフェンは……違うだろうな。あの研究者どもより、ずっと狡猾で、行動力と執念の深さがある。派手に犠牲者を出すことも厭わん」
「我々も含め、『ゼルアガ』の『生贄』にされているのかもしれんな……」
「笑えんね」
「もちろんだ。世界を、『ゼルアガ』に再び喰われるのかもしれんのだから……」
「やっぱり、『ゼルアガ』なんだね、『ギルガレア』って?」
「……ソルジェ・ストラウスの妹よ。少なくとも、私たちはそう考えている。疑問があるのか?」
「ううん。よく分からない。『ゼルアガ』どもって、みんなヘンテコだから」
「え、ええ。ヘンテコ、ですよね……っ」
「どうして、『呪われた血』の青年が落ち込む?」
「い、いえ。気にしないでください……」
『アリアンロッド』に対しては、どうにも複雑な感情を抱いているようだな。
「……『ギルガレア』が『ゼルアガ』であれ、もしも、違っていたとしても、私たちにとっては脅威だ。可能であれば、この世から排除したいと願っている。その点に、そちらも相違はないか?」
「まあ、『ギルガレア』と戦うことについては楽しみでもあるが……あくまでも、リヒトホーフェン側の……『蟲の教団のギルガレア』を排除したい。だが、どこにいるかも分からん。標的とするのならば、この神々の力を悪用している男だろう」
「現実的には、そうなるな。リヒトホーフェンを、仕留められれば、多くの問題は解決してくれそうだ……邪教の悪に、私の剣が届けば良かったのだが……」
「オレの竜太刀で斬ってやるさ」
「敵に、頼るのは、好ましくはない」
「それでこそ、戦士だ。さてと、もう一つ、質問していいかな?」
「何だ?」
「『蟲の教団』の『聖典』とやらが、諸々の発端のようだ。こいつを、排除すべきだと思うのだが。何処にある?」




