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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その二十


 ヒトは、やはり正しいと信じられる行いが大好きな生き物ではあった。戦いの多い人生を歩んでいるオレだけに、色々と『悪人』と遭遇することもあったがね。どのクズ野郎どもも、自分が本当に悪であるなどと、思ってはいなかった。


 邪悪なレヴェータでさえ、自分が『正しい』と信じて疑ってはいなかったのだから。


 良くも悪くも、『正しい』と信じられるからこそ、ヒトは全力を出せる。極悪人でさえ、そいつの世界観のなかでは悪の自覚なんてないのだ。ただ必死に生きているだけでもあった。恐ろしく、そして、迷惑なことにね。


 純度が高くなり、容赦もなくなり、ただひたすらに突き進めるからこそ、被害が大きくなるのだが……。


 ……ジャンはリヒトホーフェンの異常な熱意を、自軍の兵に『寄生虫』を植え付けるという見境の無い行動と、その先にあるであろう破滅を、ヤツにとっては『正しいコト』だと感じているようだ。


 少なくとも、破滅と引き換えにしてでも、得られるものがあると……リヒトホーフェンは疑っていないのだろう。


「も、もちろん。ぼ、ボクの勘なんですけれど……っ」


「戦場にいる猟兵の勘は、外れるものじゃない。お前が確信を得られるような感覚を得たというのならば、信じておけ。何かしらの正しさが、そこにはあるんだ」


「は、はい……っ」


「んー。『アリアンロッド』かー……やっぱり、『ゼルアガ』なのかな、『ギルガレア』って?」


「いきなり、現れたからな。こちらに干渉しなければ、感じ取れもしないのが『侵略神/ゼルアガ』だ……『火烏の軍勢』を使うことで、オレたちに干渉したから、見えたのかもしれん。これまでも、意外と近くで見張っていたのかもな……」


「お、『お母さん』と、同じところはありますよね……っ。き、きっと、アレも『ゼルアガ』なんです……ぼ、ボクは、ひょっとして、アレに影響されて、り、リヒトホーフェンのことを……あの、その、な、何て言うべきなのか……っ」


「落ち着け。混乱もあるのかもしれん。リヒトホーフェンは、おかしな『寄生虫』で人を殺し、人体実験をする狂人だが……ヤツ自身は、『侵略神/ゼルアガ』ではない」


「で、ですよね……っ」


「……ではない。だが、『ギルガレア』は……二つ、いるんだったな」


 南のエルフの信じる『ギルガレア』と、『蟲の教団』側の『ギルガレア』が……。


 ジャンは、もしかして、後者の『ギルガレア』を感じ取っているのだろうか……?


 リヒトホーフェンの行動に、ジャンが『アリアンロッド』との共通点を感じられる理由は、ひょっとして……ヤツの近くにも、『ギルガレア』がいるからなのだろうか……?


「……す、すみませんっ!い、いきなり、変なハナシをしてしまって!!その、あ、あの。深く、考え過ぎないでください。ぼ、ボクの、ただの勘なので……根拠とか、ないんです」


「考えても分からないコトではあるよね。ジャンの勘は、すごく気になるけれど。注意しながら、今は行動した方がいい!」


「ああ。その通りだな。どうあれ、遠からず……遭遇すべき敵とは、遭遇を果たすだろう。『オルテガ』は、目の前にあるのだからな」


 結局のところ。


 すべきことは変わらない。


 帝国軍だろうが、『侵略神/ゼルアガ』だろうが、リヒトホーフェンだろうが……敵対した者の全てを倒してやるだけだった。


 目的と戦術があることは、作戦に応じて行動出来ることは、救いだ。迷っていても、行動方針は明瞭でいられる。


「偵察に戻るぞ。沈黙していた『オルテガ』に、何か動きがないかを探る。『ルファード』軍が近づいているのだ。籠城戦をするにしても、偵察や妨害工作を試みるかもしれん」


『『おるてが』のまわりを、さぐってみようね!』


「ぼ、ボクも、嗅覚で……っ。ちょっとでも、貢献します」


 こうして、我々は偵察を再開した。夜は深まり始めて、迷宮都市の街並みをより深く黒い青が呑み込んでいる。


 灯りはほとんど消されていて、酒場の騒ぎもありはしない。夜警の帝国兵が真夏の夜には相応しくないほどの重武装で巡回をしていた。威圧して、市民を黙らせておこうというわけだよ。


「……城塞に配備された敵の数も、増えているな。弓や、投げ槍も配備されている。燃料が入っているのだろうな。樽も、数多く並べられているぞ」


「それは、覚えておくべきだよね。上空から火矢を撃ち込んで、火事にさせたい!」


『もやしたい!』


「ああ。敵の備品も使いこなすべきだからな」


 地図に、偵察した情報を書き込んでいく。敵兵の数も、装備から推察できる戦術の傾向も。敵は、籠城戦を狙っているのは明白だった。城塞には、矢だけでなく、投石用の石まで運び込まれている。


 原始的な攻撃手段ではあるが、頭上から石を投げつけるという行為の破壊力はかなり高いものだ。むろん、矢のように何百メートルも飛ぶものじゃない。城塞に接近して来た敵へ浴びせるための、接近戦用の備えだった。


 それをする覚悟ある、というわけだよ。


 『オルテガ』の街並みを旋回しながら偵察を続け、地図への書き込みを続けて十数分後……ジャンの優れた知覚が状況の変化を悟っていた。


「だ、団長。ち、血のにおいが……します。『オルテガ』の内部から、ち、血のにおいが漂ってきています」


「戦いが、あったのかな?」


「ふむ。どれぐらいの量だ?」


「十数人とか、多くても数十人……こ、小競り合いの、大きめなもの……って、か、カンジなんですが……っ」


「どのあたりからなの?」


「ま、街の東側です……そ、その血のにおいの一部が……そのまま、じょ、城塞の近くまで……動いて……」


「逃げているんだ!」


「帝国軍か、リヒトホーフェンが、内部の潜在的な敵に対して、襲い掛かったのかもしれんな……」


「ど、どうしましょうか?そ、その……み、見つけられると思います。逃げ出した方々を」


「援護しよう。敵の敵ならば、こちらに合流してくれれば、情報を得られるかもしれん」




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