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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その三


 先頭の馬車の御者台に座ったまま、警戒しながらも夕暮れを追いかける。東の空が、暗がりの青を始めたころ、海岸線を進む『ルファード』軍が見えた。道のずっと先にだが、ようやく合流することが叶いそうだと安心する。


 もちろん。


 猟兵らしく、油断はしない。ガルフ・コルテスの教えの通り、緩みそうなときこそ、逆のことを考えておくんだよ。これが罠であれば、とね。ゼベダイ・ジスは、叩き上げの軍人で、ポーカーフェイス野郎だ。こちらを『無視』してみせたのも演技に過ぎんさ。


 戦場は、嘘つき野郎も強いからね。


 しっかりと、こちらも備えておかなくてはならん。


 ……魔眼を使う。『望遠』の力で、地上からも周辺を警戒した。敵影は見つからないが、油断しないための心理操作を己に施せたのだと、前向きに考える。眼帯をもとに戻し、腕を組み直しながら背筋を伸ばして、強い鼻息を空に吹いた。


「……ストラウス卿よ」


「ん。座席を、軋ませてしまったか」


 馬車の中から聞こえたドワーフの声に、少し反省する。彼らには休息が必要だった。オレ以上にな。


「起こしたとすれば、すまん」


「……いや。かまわん……なんと、いうか」


「気になることがあれば、吐くといい。答えられる問いには、答えてやるぞ」


「……問いではない。礼を、言っておきたかった……ありがとう」


「どういたしまして」


「……アンタは……どうして、人間族なのに……帝国と戦っているんだ?」


「帝国の裏切りで、故国と一族を滅ぼされたからだ」


「……なかなかに、キツイな」


「安心しろ。故国ガルーナは、取り戻す。一族は、ヨメたちに産ませて再建するとしよう」


「……剛毅な男じゃある。英雄というのは、みんな、そうなのか?」


「小物ではないだろう。器は、大きくありたいものだ」


「……真似できそうにない」


「する必要もないぞ。それぞれの使命を果たせばいい。あるいは、願いのままに全力で進めばいい。オレは、欲しい『未来』のために、背負った『過去』のために、戦っているだけに過ぎん」


「……辛くはないのか?」


「負け続けていたときはな。だが、ゼファーが……竜が、オレの人生に戻ってくれてからは、勝利しか知らん。楽しいものだ。今日は、君らを助けられた。また少し、欲しい『未来』に近づけたぜ」


「……おかしな英雄サマだ」


「まあな。もう少し、寝ていろ。前線に、向かうつもりなんだろう?」


「……もちろん。オレは、動ける。死んでも、帝国人は許さん。あとで、武器もくれ。一番槍だって、務めてみせるぞ」


「考えておく」


「……死なせる気で、使えよ。約束だ。オレは……報いてやろう。呪毒のなかを駆け抜けた男に……勝利をくれてやる……」


 戦士というものは、律儀なものだった。不器用さもある。すぐに、命を捧げたがりもした。だが、同じような思想の者からすれば、心地よさがあるぜ。


 誰かに仕える。


 あるいは。


 何かの大義に仕える。


 それは、また、戦士の喜びでもあるのだ。


 ……寝息に戻ったドワーフは、夢の世界で体力の回復を追い求める。少しでも、戦の役に立つために、全力で休んでいた。


 奴隷としての労働と、マルド・メロの実験台にされた彼らは、疲弊している。弱っている。最前線で使える戦士は、少ないのが現実だが……戦いは、戦闘能力だけが決め手ではない。


 十分な休息が取れたら、聞く必要があった。


 奴隷とされたドワーフたちのなかに、ハリートビー廃鉱へと来る前……『オルテガ』にもあったリヒトホーフェンの邪悪な拠点……第九師団の亡霊に与えた『巣箱』を研究していた施設を、知っている者がいないかを。


 情報も、大きな力である。


 『巣箱』を放棄したとはいえ、『オルテガ』にある拠点は、リヒトホーフェンにとっても重要だろうよ。こちらが知るべき情報も、そこにあるかもしれない。『蟲の教団』にまつわる何かが、そこにあれば……。


 ヤツの狙いを、より読めるだろうから。


 ……可能であれば、ヤツの動機も知るべきだ。


 それを知れば、予想がつく。どこまでの邪悪を許容するのか、どうして、ここまでの狂気を実行に移したのか。マトモな貴族の『仮面』をかぶっていられるのならば、それをつけ続けても良かったのにな。


 想像力が、ヤツを追いかけていこうとしているのだが……追いつかん。


 こういうたぐいの敵は、狂気に支配されていることが多い。


 だが、狂気や怒りというものには、起源があった。痛みがあるから、心は壊れる。あるいは、自ら壊せる。


 ……愛を失った、『人魚』があの海よりも深い復讐心を抱けたように。


 ならば。


 リヒトホーフェンを、壊した痛みとは…………。


「……娘が死んでいる」


 オレに娘はまだいないが、妹はいる。いた。セシルが、いたのだ。奪われたから、帝国を滅ぼそうとしている。身近な者の死とは、それほどに重たい。人生の全てを導くような宿命を刻みつけるほどには。


 リヒトホーフェンの娘と、恋人であったゼベダイ・ジスが『寄生虫』を受け入れたのも、同じ痛みが起源だったのだろうか……。


 だとしても。


 それは、あくまでも起源だった。


 行き着く先ではない。


 求めるゴールは、何処にあるのか……。


 マルド・メロが欲していた、全てを書き換える『究極の聖餐』……とやらが、望みなのだろうか。娘を失った父親は、何を書き換えたいと願うのだろう。


「死者は、生き返らんのだぞ」


 だからこそ、オレやレイチェルは、戦っていた。

 



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