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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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2012/5092

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その百十八


「……め、メイウェイ大佐だ……っ」


「死んでないじゃないか……っ」


「ど、どうして、今ここに……っ?」


 アルノア軍の若い兵士どもはランドロウ・メイウェイに視線を集めている。


 空気を読むのが苦手な男であるギュスターブは、突撃の機運を邪魔されてイライラしているが、叫び出すのをマルケスが止めていた。しぶしぶと言った表情を隠すことはないまま、我がドワーフの友人殿は突撃のための体力を練るために呼吸を整えておくことにしたようだ。


 メイウェイは自分に注目が集まりつつあることを確認して、語り始める。


「これから『第六師団/ゲブレイジス』の騎兵たちは諸君らに突撃を敢行することになるッッッ!!!マルケス・アインウルフ将軍が帰還した今、我らの突撃の冴えはかつてのそれと同じだろうッッッ!!!バヌーサの戦場も、エルドアの荒れ野の伝説を思い出せッッッ!!!」


 ……オレは知らないが、『第六師団/ゲブレイジス』とマルケス・アインウルフが作った伝説のことなのだろう。メイウェイの部下として、この土地で育てられてきた若者には、ベテランたちから何度となく聞かされた自慢話なのかもな。


 最強の騎兵たち。


 そいつらにこれから突撃されることになる。矢の尽きかけている弓兵などがな。結果など目に見えている。騎兵に蹴散らされて大勢が戦死するだけのことだ。


 諭すように脅している。いや、より正確な表現をするのであれば―――。


「―――説得しているのだな、あの男は」


「部下を死なせたくないのさ。メイウェイは」


「うむ。だからこそ、死にかけているのに、こんな場所に突入した。長らしい責任感だな」


「……死なせたくないものだ。部下の死など……誰しもが見たくはない」


「……ああ」


 リエルの小さな手がオレの肩に置かれていた。矢を持たないから、置き場所に困っているんだろうな。あとは、少しばかり、さみしさを感じているのかもしれない。オレたちの仲間だって、この戦でもうとんでもない数が死んでいるのだからな。


「―――私は部下であった諸君らに、死を望まないッッッ!!!だが、私たちと戦えば、これから大勢が死ぬだろうッッッ!!!だからこそ、告げてやろうッッッ!!!今すぐに降伏するか、武器を捨てて退却する者は、追撃して殺すことはしないッッッ!!!死にたくなければ、戦場から去れッッッ!!!」


 ……部下の命を助けるための、最後の仕事だ。メイウェイはそう叫んだあとで、吐血もした。


「……っ!!大佐……っ!!」


「……くそ……っ。もう少し、言葉を続けたいのだがな……っ」


 背後でうめく男を見て、砂漠の少女は意志を固めた。無数の敵対する兵士をにらみつけながら、彼女もまた訴えた。


「私と同じ『メイガーロフ』の人間族よッッッ!!!……この戦に貴様らの正義はあるのかッッッ!!!この戦に命を奉げる価値などがあるのかッッッ!!!死にかけても、裏切られても、それでも貴様らを救おうとするメイウェイ大佐と、卑怯な簒奪者ごときでしかないアルノア……そのどちらの言葉を信じるべきなのか、どちらが正義なのか、犬死にする前にもう一度よく考えろッッッ!!!」


 演説としてはまともりのない主張であったが、それでもミシェール・ラインハットという少女の本心だったな。泣きながらの訴えだ。彼女も、かつて仲間であった者たちにも、今でも仲間である者たちにも死んで欲しくはない。


 そうだ。これから死んでいくアルノア側について『メイガーロフ』生まれの人間族の若者らは、犬死にするのさ。


 それは、やはりみじめな終わりだった。誰しもが自分の命には特別な価値を与えてやりたいものだ。この戦場に……アルノアに仕えて死ぬことに、彼らは満足などできないだろう。


 裏切り者になってまで目指した報酬……帝国市民になる?


 それがアルノアごときに仕えて死んでまで欲しいものとは思えんな。とくに打算的な若者にとって、死後の市民権など無意味すぎるさ。


「……ゴホゴホっ!!」


「メイウェイ大佐っ……もう限界です。貴方を死なせられません……退きます!!アインウルフ将軍ッ!!あとは、お任せいたしますッッッ!!!」


「ああ!!メイウェイを死なせるな!!」


「了解です!!」


 メイウェイを連れたミシェール・ラインハット軍曹が、馬を走らせて戦場から去っていく……メイウェイを狙う弓兵はいなかったな。若者たちはともかく、ベテランは射る可能性があったはずだが……ベテランどもの矢も、尽きかけているわけだ。


「……効果的な演説であったな」


「ああ」


『ほんとだ。てきが、にげてくっ!!』


 弓兵の群れから離脱者が激増していたよ。コソコソとせずに、思い切り全力で逃げ去る者が即発している……。


「い、いやだああ!!」


「死んでたまるかあああ!!」


「どうせ、し、市民権なんて、アルノア伯爵はくれないんだろ!?」


 全員が逃げ出すわけではないが、一割近い逃亡者が出ようとしている。ああ、十分な数だ。動揺は連鎖するものだからな。もう隊伍を組むのにも困る。お互いの顔を見合うヤツらもいるし、内心にある逃亡への希求がヤツらを後ずさりさせていたよ。


 騎兵の突撃と対決するのには、その後ろ向きな姿勢はサイアクだった。ランドロウ・メイウェイは最高の仕事をした。


 マルケス・アインウルフは槍を持った右腕を戦場の空に掲げる。ギュスターブは牙を剥く。楽しみな時間が来たと悟っていたのさ。


「『第六師団/ゲブレイジス』、突撃するぞッッッ!!!敵兵を、殲滅するッッッ!!!」




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