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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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2002/5087

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その百八


 ゼファーは空で大きく左に旋回すると、そのまま『ガッシャーラブル』の城砦を越えた。目指すのは『カムラン寺院』の中庭だ。拠点とするには最適の場所だよ。それに、もう猟兵たちが戻って来ていたな。


 銀色の髪の美女と水色の髪の美少女さんが、こちらにむけて手を振っていた。母性あふれる微笑みと、愛くるしい無表情のままな。


『ちゃーくちっ!!』


 翼を羽ばたかせながら、ゼファーはかかとの蹴爪から着地を行う。石畳を体重で鳴らしながら、ゼファーは地上に戻った。すぐさま、オレたち三人は飛び降りる。休息させるためと……リエルは『マージェ』だから、矢傷の確認を行う。


「ゼファー、傷は無いな?」


『んー。あったとしても、たぶんかすりきず』


「油断はいかんぞ。毒薬が鏃に塗られているかもしれないし、呪術がかけられていることもある」


『……じゅじゅつ……にがて……っ』


 姉貴のところの小さな呪術師に操られた失態を、ゼファーは忘れてはいない。リエルのチェックを受けておくことは損にはならんな。夜の闇に紛れた戦闘とは異なり、太陽の光の下での戦いだ。


 あちらの作為を帯びた攻撃―――竜用の呪術でも使われている可能性は否定できん。ランドロウ・メイウェイも呪術師を南方の戦線から呼び寄せていた。アルノアも、呪術師の一人や二人は確保しているかもしれん。


 オレは眼帯を外す。リエルのチェックだけでも、おそらくは十分だろうが、念を押したくなった。腰の裏にぶら下げている『支配者の本』、あの毒々しいまでの呪われた人皮の本が意識に登るからな。


 ゼファーは『ドージェ』と『マージェ』にチェックされて、少し恥ずかしがっている。だが逆らわないさ。『ベイゼンハウド』では呪いに操られて、オレたちの元から盗まれてしまうところだったから。


『……だいじょうぶ、だよね?』


「大丈夫だ。矢傷はない。魔力の流れも正常だ!……ソルジェは?」


「こっちも大丈夫そうだ。『呪い追い』は発動しない」


『……のろいたいさくは、してるけど……『どーじぇ』と『まーじぇ』にしらべてもらうと、あんしんだねー!』


 ブンブンとしっぽを振りながら、ゼファーは安堵の鼻息をプシューと吐いた。


「良かったでありますな」


「無事で何よりですわね、ゼファー」


『うん!きゅれねいと、れいちぇるは、だいじょうぶ?』


「イエス」


「ええ。東側の城砦は、リングマスターたちのサポートもあったおかげで、暇なものでしたわ」


 ヒマというほどではなかったはずだ。レイチェルもキュレネイも返り血で染まっている。『諸刃の戦輪』なんて楽し気にギチギチと動いていやがるよ。ギザギザの刃のあいだにある血を呑み、肉の繊維を喰らっているに違いない……。


 だが、手傷を負わなかったのは事実だ。


「無事で何よりだ」


「ええ。ククルも無事を確認していますわ……ほら、あちらに」


「ソルジェ兄さーん!!」


 我が妹分ククル・ストレガが元気よく走って来ていた。カタパルト部隊に絶妙な指揮を与えてくれていたからな。前線には出ていないから、戦闘での負傷はないはずだが―――。


「ククル。無事だったな?」


「え?はい、裏方……みたいなものでしたし」


「大型の兵器を使っていたからな。現場での事故はつきものだ」


「は、はい。実は、何度か壊れそうになったり、張り詰めていたロープが計算外のところで千切れたりはしましたが、私は無事でした」


「そうか。よくやった。次の突撃には、お前も前線に出てもらうことになる。無事であったことは兄貴分としてうれしいのはもちろん、団長としてありがたい」


「は、はい!がんばらせていただきますね、ソルジェ兄さん!」


「ククルちゃん、頑張ってねー。ミアは、突撃は苦手だから、『ガッシャーラブル』を守るから――――――お兄ちゃん」


「どうした、ミア?」


「……道具袋の中に、元気なお魚さんがいる……?」


 魚を押し込んではいないが……心当たりは十分すぎたな。


「ああ、戦場で血が流れ過ぎたから、反応しているのかもな」


 人皮の本を、オレは取り出していた。手の中で暴れやがる……。


『ほんが―――』


「―――あばれてるねえ?」


「イエス。変であります」


「呪われた品ですわね」


「君の戦輪と同じ気配を感じさせる動きだよな」


「私の『諸刃の戦輪』は、もっと狂暴そうに蠢きますわ」


 微笑みながら言われると、リアクションに困ってしまうな。しかし、反論の余地もなかったよ。


「……『古王朝のカルト』の品だ。ヒトの生き血に反応するシロモノなんだが、戦場の風に含まれる血でも反応したのかもしれんな……あるいは」


「あるいは?なんだと言うのだ、ソルジェ?」


「いやな……この戦場で『古王朝のカルト』の呪術を使おうとしているヤツでもいるのかもしれん……」


 その考えが正しければ―――オレの『呪い追い』は完成に近づく。そうすれば、少なからず視界に変化が現れるかもしれんと期待したが、『呪いの赤い糸』を紡がれることもなく、やがて『支配者の本』はその動きを鎮めていった。


「ふむ。死にかけのエビみたいで気持ち悪いから、焼き払うべきだぞ」


 女子の言葉は正しくて率直だった。


「イエス。リエルの言う通り、その不気味な呪われたモノなど、焼いてしまうであります」


「蛮族らしく書物を焼くっていうのもガルーナ人らしくていいし、オレだってこんな不気味本をコレクションする趣味はないんだが。敵サンの欲しがっていたものだからな……後々、エサに使えるかもしれない」


 言い訳めいた雰囲気になったが、それは事実ではある。それに、化粧した牛の神さまも夢に出てきたせいか、今すぐこの邪悪な本を処分するという気持ちにはならなかった。オレは行動力のあるレイチェルあたりに、邪悪な呪いの本を焼かれる前に袋にしまい込んだ。


「……『古王朝』……」


 ククルが反応しているな。


「『メルカ・コルン』は『古王朝』に詳しいのか?」


「はい。少しは……星の魔女アルテマも研究していましたから。私が継承した記憶のなかには、それなりの知識があるはずなんですが……」


「はずなのに。ククルちゃん、思い出せないの?」


 ミアの素朴な指摘に、ビクリ!とククルは身を震わせていた。


「い、いえ。あ、あのその、そ、そのうち、きっとですね……っ!?」


「……まあ、今は『古王朝のカルト』はどうでもいい。戦の準備に集中するぞ」


「うん!」


「は、はい!」


「イエスであります」


「む。ソルジェよ、クライアントの登場だぞ」


「お姫さまと……ガンダラとカミラもいますわね」


 馬に乗った三人と、『新生イルカルラ血盟団』の精鋭騎兵たちがオレたちに近づいて来ていたよ。


「なかなかの名演説だったぞ、ドゥーニア姫。空元気ではあるが、士気は上がった!」


「それが狙いの演説だったから、効果としては当然。それで、そなたの猟兵たちは貸してもらえるんだな?」


「もちろんだ。騎兵に乗って、そこにいるガンダラと……レイチェル・ミルラ、キュレネイ・ザトー、そしてククル・ストレガが参加する。オレとリエルはゼファーで突っ込むぞ。ミアはお留守番……ラシードもそうだが、後方支援を残すべきだ」


「……ラシード…………ああ。なんとも相応しい役目だ。保険にするため、あえて誘いはしなかった」


 もしものことを考えてはいる。不測の事態に備えるために、ベテランを残しておくべきさ。ラシードの経験値ならば、まったくもって問題がない。


「『太陽の目』も、後方待機か?」


「一部を除いてな。彼らは、私たちの戦術には不慣れだ」


「なるほど。蛇神の僧兵は馬には乗らないか……だが、結果的には悪くないな。この街を守ることに彼らは長けている。粘ってくれるさ」


「背中を任せる……僧兵たちを信じているよ。街も私たちも守ってくれる。そうなる方が、敵の意識も分散できる。とくに『彼ら』からは目を離しておきたいからな」


「マルケス・アインウルフの騎兵たちも必ず動く。動くために、マルケスは仲間を煽っていたからな」


「……彼らのことも信じよう。魔王殿が、信じているのだから」


「そうしてくれていい。アルノア軍の意識は北に誘導できるさ」


「……プラン通りか」


「問題はない。こういうときは、一気呵成に攻めて決めるべきだな……では、先行してくれ。ガンダラ以外の猟兵は、第二波以降だ。十数分だろうが、しっかりと休ませてもらう」


「半ば徹夜だ。そなたたち、十数分の猶予しかやれないが……頼んだぞ」


 猟兵たちはうなずいたよ。皆、戦が好きな連中でもあるからな。好戦的な微笑みを浮かべているのさ。



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