第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その百七
戦士たちの歌を浴びせるのさ。下がる敵兵どもの背中に、ざまあみろと叫ぶのは心地よさを伴う行為だったよ。
ゼファーも楽しそうに鼻息をプシューっと鳴らしていた。緊張感を失うほどではないが、敵のほとんどが引き上げたことで、少しは余裕が生まれてはいた。
「ふー!!」
我が妹、ミア・マルー・ストラウスが長い溜息で体に入れていた力を解き放ちながら、お兄ちゃんの胸元に背中をダイブさせる。
「疲れたな」
「……よゆー!……でも、ちょっとは眠たいっ」
「無理もない」
13才の体で、スリングショットを撃ち続けるのは、かなりの疲労を伴うさ。いたわるために右腕を揉んでみたよ。
「きゃははは!く、くすぐったいよ!!」
「……若いな」
若いというか、幼い体はマッサージをくすぐったく感じてしまうものだ。きっと、凝り固まった大人の筋肉とは質が違うんだろうな。
ミアは身をひねるようにして、オレのマッサージから逃亡してしまったよ。なんか残念だが。首に恋人エルフさんの腕が絡んできたから、そっちを揉む。
「……気持ちいいかい?」
「……う、うむ。くすぐったさ半分だ……」
「半分は気持ちがいいか。まあ、大人の女性としてオレの指に揉まれ慣れているからな」
「そ、そうだけど、そんなことを言うでない!?」
「たぶん、指の付け根は気持ちいいだろ」
リエルの右手の母指球を揉んでみた。親指の付け根をそういうと解剖学の教科書で覚えた場所だな。矢を射るために酷使していたその場所は、疲れが溜まっているのさ。
「むう……こ、これは、なかなか……っ」
『『まーじぇ』、きもちよさそう!』
「ゼファーは、私が首をもみもみしたげるね!」
ゼファーの首に上半身を倒しながら、ミアは手だけじゃなく腕全体を使ってゼファーの首の付け根を揉んでいた。
『あははは!くすぐったい!』
仔竜の首は疲れ知らずのようだ。くすぐったそうではあるが、何だか気持ちよさもあるようだがな。アーレスは、もっと目を細めていたっけ…………ふむ。緊張がゆるみすぎているかもしれない。
オレは戦場を見た。
戦死者は……少なくない数が出ているな。『第六師団/ゲブレイジス』との戦闘があった『ガッシャーラブル』から北西部は悲惨なものじゃある。どちらの騎兵もかなり大勢がやられていた。
……アルノア軍は可能なら『第六師団/ゲブレイジス』を破って、『ガッシャーラブル』の北側にも回り込みたかっただろう。複数の方角から攻めることで、こちらの対応力をパンクさせたかったわけだが……マルケス・アインウルフはそれをさせなかった。
マルケスは、生きているな。
ドゥーニア姫の鬨の声を気に入ったのか、それとも士気を保ちたいからか。槍を振り上げながら、生き残った騎兵たちを鼓舞するために彼らの周りを走っていたな。その近くに、ギュスターブ・リコッドもいる。
嬉しそうに空へと向けて歌を放っているようだ。ドワーフらしいな。戦い抜いたようだ。戦友も作っていた。共に戦い続けた元・帝国人の騎兵たちだ。肩を組んでいるよ。
貴重な光景だな……ギュスターブの存在は、『第六師団/ゲブレイジス』と『新生イルカルラ血盟団』の絆をつなぐものになるだろう。勇者は、戦いの最中に絆を作るものだ。ギュスターブは、グラーセス・マーヤ・ドワーフの名誉に相応しい働きをしたか。
今夜の祝杯のときに、たっぷりと自慢話を聞いてやるとするさ。
「戦場を見ているんだな、ソルジェ」
リエルに気づかれた。
「ああ。マルケス・アインウルフたちの騎兵を見ていた」
「消耗が大きいだろうな」
「そうだ。彼らもだが……アルノアの騎兵どももな」
「うむ。死屍累々だな。直接、戦力が衝突したから、双方に被害が拡大したか。よく貢献してくれたな」
「おかげで、『ガッシャーラブル』から戦士を出さなくても済んだからな」
「ドゥーニア姫が率いる本隊か」
「そうなる。『彼ら』が来ているのなら……長くは休まんだろう。これから、すぐに出撃することになる……」
「ふむ。敵を休ませてやるほど、甘くはないわけだ。敵は……対騎兵の迎撃の陣を敷いているな。弓兵を広げた陣の両翼に配置して、中央には騎兵……防御に優れているぞ」
「後出して即応するための陣だ。不用意に突撃は出来んが……」
「こちらの有利になるわけだな!」
「そうだ。守ってくれる形を取った。物見の塔の偵察兵が、ドゥーニア姫に伝えている。動きがある……オレたちも、戻るとしよう」
「偵察は十分か?」
「ああ。敵兵の騎兵を削れた。こちらの兵は『第六師団/ゲブレイジス』以外の消耗はそれなりだ。城砦の守備要員がかなりやられてはいるが……問題はない。包囲している敵戦力も少ないんだ。十分に突破できるし、フォローも可能になる……マルケスも、動いてくれる」
「マルケスか」
「元・帝国人を親しく呼びすぎているかい?」
「……いいや。お前が認めたなら、それでいい。ガルーナの竜も許している」
竜太刀に触れながら、リエルはそうつぶやいた。ドワーフみたいに鋼の言葉を聞いたわけではないだろうが……リエルになら、アーレスの声は聞こえるさ。ストラウス家のヨメなんだからな。
それに、アーレスは美女に弱い。
「……さてと。『ガッシャーラブル』に戻るぞ!!」
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