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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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2001/5087

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その百七


 戦士たちの歌を浴びせるのさ。下がる敵兵どもの背中に、ざまあみろと叫ぶのは心地よさを伴う行為だったよ。


 ゼファーも楽しそうに鼻息をプシューっと鳴らしていた。緊張感を失うほどではないが、敵のほとんどが引き上げたことで、少しは余裕が生まれてはいた。


「ふー!!」


 我が妹、ミア・マルー・ストラウスが長い溜息で体に入れていた力を解き放ちながら、お兄ちゃんの胸元に背中をダイブさせる。


「疲れたな」


「……よゆー!……でも、ちょっとは眠たいっ」


「無理もない」


 13才の体で、スリングショットを撃ち続けるのは、かなりの疲労を伴うさ。いたわるために右腕を揉んでみたよ。


「きゃははは!く、くすぐったいよ!!」


「……若いな」


 若いというか、幼い体はマッサージをくすぐったく感じてしまうものだ。きっと、凝り固まった大人の筋肉とは質が違うんだろうな。


 ミアは身をひねるようにして、オレのマッサージから逃亡してしまったよ。なんか残念だが。首に恋人エルフさんの腕が絡んできたから、そっちを揉む。


「……気持ちいいかい?」


「……う、うむ。くすぐったさ半分だ……」


「半分は気持ちがいいか。まあ、大人の女性としてオレの指に揉まれ慣れているからな」


「そ、そうだけど、そんなことを言うでない!?」


「たぶん、指の付け根は気持ちいいだろ」


 リエルの右手の母指球を揉んでみた。親指の付け根をそういうと解剖学の教科書で覚えた場所だな。矢を射るために酷使していたその場所は、疲れが溜まっているのさ。


「むう……こ、これは、なかなか……っ」


『『まーじぇ』、きもちよさそう!』


「ゼファーは、私が首をもみもみしたげるね!」


 ゼファーの首に上半身を倒しながら、ミアは手だけじゃなく腕全体を使ってゼファーの首の付け根を揉んでいた。


『あははは!くすぐったい!』


 仔竜の首は疲れ知らずのようだ。くすぐったそうではあるが、何だか気持ちよさもあるようだがな。アーレスは、もっと目を細めていたっけ…………ふむ。緊張がゆるみすぎているかもしれない。


 オレは戦場を見た。


 戦死者は……少なくない数が出ているな。『第六師団/ゲブレイジス』との戦闘があった『ガッシャーラブル』から北西部は悲惨なものじゃある。どちらの騎兵もかなり大勢がやられていた。


 ……アルノア軍は可能なら『第六師団/ゲブレイジス』を破って、『ガッシャーラブル』の北側にも回り込みたかっただろう。複数の方角から攻めることで、こちらの対応力をパンクさせたかったわけだが……マルケス・アインウルフはそれをさせなかった。


 マルケスは、生きているな。


 ドゥーニア姫の鬨の声を気に入ったのか、それとも士気を保ちたいからか。槍を振り上げながら、生き残った騎兵たちを鼓舞するために彼らの周りを走っていたな。その近くに、ギュスターブ・リコッドもいる。


 嬉しそうに空へと向けて歌を放っているようだ。ドワーフらしいな。戦い抜いたようだ。戦友も作っていた。共に戦い続けた元・帝国人の騎兵たちだ。肩を組んでいるよ。


 貴重な光景だな……ギュスターブの存在は、『第六師団/ゲブレイジス』と『新生イルカルラ血盟団』の絆をつなぐものになるだろう。勇者は、戦いの最中に絆を作るものだ。ギュスターブは、グラーセス・マーヤ・ドワーフの名誉に相応しい働きをしたか。


 今夜の祝杯のときに、たっぷりと自慢話を聞いてやるとするさ。


「戦場を見ているんだな、ソルジェ」


 リエルに気づかれた。


「ああ。マルケス・アインウルフたちの騎兵を見ていた」


「消耗が大きいだろうな」


「そうだ。彼らもだが……アルノアの騎兵どももな」


「うむ。死屍累々だな。直接、戦力が衝突したから、双方に被害が拡大したか。よく貢献してくれたな」


「おかげで、『ガッシャーラブル』から戦士を出さなくても済んだからな」


「ドゥーニア姫が率いる本隊か」


「そうなる。『彼ら』が来ているのなら……長くは休まんだろう。これから、すぐに出撃することになる……」


「ふむ。敵を休ませてやるほど、甘くはないわけだ。敵は……対騎兵の迎撃の陣を敷いているな。弓兵を広げた陣の両翼に配置して、中央には騎兵……防御に優れているぞ」


「後出して即応するための陣だ。不用意に突撃は出来んが……」


「こちらの有利になるわけだな!」


「そうだ。守ってくれる形を取った。物見の塔の偵察兵が、ドゥーニア姫に伝えている。動きがある……オレたちも、戻るとしよう」


「偵察は十分か?」


「ああ。敵兵の騎兵を削れた。こちらの兵は『第六師団/ゲブレイジス』以外の消耗はそれなりだ。城砦の守備要員がかなりやられてはいるが……問題はない。包囲している敵戦力も少ないんだ。十分に突破できるし、フォローも可能になる……マルケスも、動いてくれる」


「マルケスか」


「元・帝国人を親しく呼びすぎているかい?」


「……いいや。お前が認めたなら、それでいい。ガルーナの竜も許している」


 竜太刀に触れながら、リエルはそうつぶやいた。ドワーフみたいに鋼の言葉を聞いたわけではないだろうが……リエルになら、アーレスの声は聞こえるさ。ストラウス家のヨメなんだからな。


 それに、アーレスは美女に弱い。


「……さてと。『ガッシャーラブル』に戻るぞ!!」




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