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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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1997/5086

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その百二


 爆炎が地上を焼き払う。帝国兵どもが金色の煌めきに呑まれていった。数十人の帝国兵が爆破で死に、それよりも多い数の帝国兵が火傷を負っただろう……死亡はしなくても、手傷を負わせれば十分だった。


 多くは望めん。これ以上の高望みは、オレたちを孤立させかねないからな。死ぬことは許されんのだ。死ねば、これ以上、戦えないのだから。


 鉄靴の内側を使って、魔力と体力を消費したゼファーは、少しだけ呼吸が乱れている。ゆっくりと頭をうなずかせて、戦場の空を旋回して『ガッシャーラブル』の城砦の内側へと向かうのさ。


 『カムラン寺院』の中庭に、ゼファーは着地する。オレたちの拠点のテントがある場所だよ。翼を羽ばたかせながら、その場所に降りる……。


 オレたちは素早くゼファーの背から飛び降りるよ。三人合わせれば、それなりの重さになるからな。少しでもゼファーの体力を回復させてやりたいのさ。ちょっとだけでも、効果はある。ミアの言う通り、猟兵ならば有効な戦術を積み重ねて効果を深めるんだよ。


 ゼファーはぶるぶると身震いをした。やさしげな深い息を使って、オレの顔に風を送ってくれたよ。焦げた香りをする竜の息だ。たくましさと強さを感じる。だから、笑顔になるんだよな、竜騎士さんは。


『ふううう……ちょーっと、ひとやすみーっ』


「ああ。翼を休めておけ。目も閉じて休ませるんだ」


『うん……ぜんりょくで、やすむ……っ』


 ゼファーはそうつぶやいて、金色の瞳をギュッと閉じる。


 リエルは行動してくれていた。


 僧兵の巨人族の男を捕まえて、注文する。


「矢はあるか?」


「は、はい……わずかしか、ありませんが……30本なら、すぐに用意できます」


「30か……それだけか?」


「残念ながら、城塞の上の戦士に優先的に供給していまして……職人たちが作ったばかりのものです」


「しょうがない。有効に活用する。寄越してくれ」


「ただちに!」


 王族の気品というか迫力というのがあるのか、リエル・ハーヴェルの言葉に僧兵たちは従っていた。若い筋肉質な脚が中庭を駆け抜けていく……。


「お兄ちゃん、リエル!私たちも栄養補給っ!!」


 ミアがテントの中からフルーツを持ってきてくれていたよ。バナナだな。食べやすいから、こういう忙しいときには最適だ。すぐに食えるし、腹持ちもいいしな。


 寒い上空で戦い続けてきて、体力が失われつつある。モグモグとバナナに噛みつくのさ。メシを食べると体温ってものは上がるようにできている。そういう本能がヒトの体にはあるのさ。


 夜明け前の最も冷える時間帯だから、小柄なミアは冷えるはずだ。自分で分かっているからこそ、毛布に身を包んでもいる。そして、タタタタタ!とその場で素早く腿上げをして、リエルにくっついた。


 体温の高い森のエルフ族から暖を取ろうとしているのだろう。リエルにとっても、温かいからその抱き着きは体力温存に有効だったよ。オレも抱き着いて混ざりたくなるが……客だ。


「ソルジェ・ストラウス、いるな!」


 ドゥーニア姫がやって来た。馬に乗ってな。護衛を引き連れて颯爽とだ。彼女はオレに訊いてきたよ。


「戦況はどうなっている?」


「プラン通りではある。一番キツイ時間帯に入っているな……だが、それも込んで予想通りではある」


「そうか。大勢の死傷者が運ばれてきている……」


「敵はその4倍は死んでいるさ」


「……なかなか、割り切るのは難しいものだ。毎度のことだがな」


「ヒトの命を割り切りすぎるのも、良い指導者だとは思わん。ヒトの死を背負う度量がなければな」


「たしかに。それで……何か報告すべきことはあるか?」


「ん。そうだな、メイウェイが重傷を負った」


「な、なに!?」


「心配するな。マルケス・アインウルフが将軍として復帰した。オレたちの仲間として」


「……っ!!……そ、そうか……っ!!」


 数秒のあいだに納得するあたりは、さすがはドゥーニア姫か。先んじて相談しておいてよかったな。結果論だが……。


「問題はなく機能はしている。戦術の質は変わっているかもしれないが、ベテランらしく対応してはいるよ」


「それなら気にしないでおこう。陣中見舞いを出すような余裕もないんだからな」


「さて。そっちも報告はあるかい?」


「とくにはない。順調にシビアな展開になっている……が。東側がほとんど攻撃されていないんで……休息は出来ているぞ。反撃のための戦力がな」


「攻め込まれつつも、『攻撃しているからな』」


 そうだ。この戦いの本質は防御ではない。敵を攻め疲れさせつつ、反撃の機会を待つ『攻撃』の戦略の中にある。


「矢が尽きつつある。『良いことでもあるな』……なかなか、気持ちのいいものではないが」


「シビアだが、仕込みになる。アルノア軍は肌でも誤解するさ……ベテランどもは気づく。矢の雨のゆるみには、とくに敏感に笑っているだろうよ」


「ソルジェ・ストラウスよ。『誘い』に出てくれると思うか、アルノアは?」


「出るさ。『第六師団』が……メイウェイの騎兵たちがいるからな。この猛攻を作るためには、あちらも余力がほとんどなかった。戦力の補給も、そう多くは期待できない状況にあるんだ。休むしかなくなる」


「……最後は勘になるか」


「戦というものは、そんなものだ。だが、そうなるように誘導はしてきた。期待して待つとしようぜ。敵の致命的な失策をな」


「失策をしなければ……?」


「しないことが失策にもなる。このまま攻め続けるのならば、熱さに負けてくれるさ。じきに日が上がる……凍える砂漠の夜は終わり、灼熱の朝日がヤツらを焼いてくれる。気候に耐性がある若手どもを、オレたちは狙って殺してやった。それに……定期的に攻撃しているカタパルトの影響も出るさ」


 こうしている間にも、戦場の空をレンガの散弾が飛んでいく。朝になるほど、気になっちまうだろうさ。闇が晴れて、空から飛んでくるレンガの群れを目の当たりにするようになればな。


「……うん。それならば、仕上げに備える」


「ああ。アルノア軍が休んでくれたら、君らの出番だ」


「楽しみだ。アルノアの首を落とす瞬間がな。ではな、猟兵!しっかりと働けよ!」


「君のためにお膳立てはするとも。もう一仕事してくるぜ、ゼファーに乗ってな」




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