第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その九十五
『竜吠えの鏑矢』の二発目が放たれる。
がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!!
今度はアルノア軍の騎兵へと目掛けての軌道だった。弓兵たちが慌てて矢を放つ……誤射することはなかったが、十分だ。ムダな矢を撃たせるだけでも、この戦術には大きな意味がある。
『敵の矢を消耗させる』のも、今夜の戦いのテーマだからな。
『おもしろいように、だまされてる……っ。ぼく、あんなこえじゃないのに……っ』
「なかなかお前の美しい歌声を真似するのは難しいことだよ、ゼファー。それに、騙されるのはお前ががんばってきたからでもある」
『え?』
「オレたちは姿を現す度に、『歌と共に攻撃して、アルノア軍に被害を与えてきた』からな。ヤツらには、そのときの恐怖が染みついている。必ずや、対応して上空に矢を放たなければ、手痛い損害を負うとな」
だからこそ、見えもしない夜空の闇に向けて長距離射撃を放っているんだ。オレたちの襲撃は、ヤツらのパターンを誘導している。おかげで、ムダな矢を放っているな……。
まだまだ、ムダな矢を放つことにもなるぞ。
『第六師団ゲブレイジス』の騎兵たちと、アルノア軍の騎兵どもはにらみ合いの状況となっていた。突撃なんてものは連続で何度もやれるものじゃない。お互いにな。そして、このにらみ合いでも地理的な有利は作用することになる。
『第六師団ゲブレイジス』は『ガッシャーラブル』に近い、北東の丘の上にいる。にらみ合っているこの状況でなら、矢を放つことも可能だ。
そして、その矢がより遠くに届くのは、より高い位置にいて、しかも北から吹く風の加護を受けている『第六師団ゲブレイジス』の軽装歩兵たちだった。
それには気づいているヤツだっているだろうが、それでも、アルノア騎兵も、騎兵の背後にいた弓兵どもも、射られたのと同等なレベルには矢を放っている。当たらないさ。ギリギリ届く範囲で撃っているからな……ムダな矢を消費させたわけだ。
敵の矢が届くのだから、こちらの矢も届くという考え方は間違いではない。直感的にはな。だが、ときにはこういうこともあるものだ。
地形や風向きを意識して戦うっていうことは、基本ではあるが……戦場ってトコロは不思議でな。集団になると、個人でやれたことも、理解していたはずの方針も狂っていく。若い兵士が多いことの弱さでもあるな。指揮系統に依存して、バカをしやすい。
失敗の履歴が少ない戦士っていうのは、こういう失態も犯す。もちろん、夜の闇が晴れたら、こんな間違いを堂々とはしないだろうがな。
……だからこそ、今のうちに細かな工作は行うべきだ。
「ゼファー、戻るぞ。リエルとミアを回収して、作戦を実行する」
『らじゃー!!』
ゼファーは夜空を翼で斬り裂くように踊り、『ガッシャーラブル』を目指して降下していく。城砦に近づくと、リエルとミアが反応してくれた。二人とも高速で走りながら、城塞に近づくオレたちに接近してくれる。
「いいな!絶対に、間違って撃つんじゃないぞ!!」
「そだよー!!ゼファーもお兄ちゃんも、味方なんだからねーっ!!」
そういう声かけって大事だよ。戦場って場所は誤解に満ちているからな。
「わ、わかりましたー!」
「撃たないようにします!!」
エルフの弓兵たちは、宝石眼の王族エルフさんの言葉に忠実だった。若い男たちだが、エルフ族の掟は知っているようだった……盗賊だろうかな?地元の窮地になら、山から下りてきて手伝うぐらいには常識を持った不良どもなのかもな。
まあ、なんだっていい。
『とうちゃーくッ!!』
ガシイイイイイイイイイインンンッ!!
『ガッシャーラブル』の高すぎるほどではない城塞の最上部に、爪を突き立てるようにしながらゼファーは着陸していたよ。
「行兄ちゃん、ゼファー、おかえりー!!そーしーてー、らいどおーんっ!!」
ミアが軽やかに黒い風に化ける。宙を舞うミアのことを、オレは抱きとめるのさ。竜鱗の鎧にぶつかってケガをしないようにな。
「えへへ!ナイスキャッチ!」
「お兄ちゃんの義務だからな!」
兄妹は顔を見つめ合いながら、ストラウス系のスマイルでニヤリと笑うのさ。
「二人とも、無事だな?」
「無事だぜ」
『ぶじだよ、『まーじぇ』!』
「それならば、よしだ!」
矢筒を抱えたリエルもゼファーに飛び乗り、オレの背中の後ろについたよ。いつもの定位置って感じだな。ワクワクして来たぜ。
「ゼファー、行くぞ!!」
『うん!!』
蹴爪で城塞を蹴りつけてゼファーは素早く空へと舞い上がる。ゼファーは翼をしならせるようして空を叩き、加速と上昇を続ける……すぐに戦場の空へと戻ったよ。選り取り見取りだ……オレも、ゼファーの背に備えていた弓を取り、矢をつがえる。
リエルとミアはとっくの昔に射撃体勢を完成させていたよ。
「分かっていると思うが、ククルの放つカタパルトの弾には撃たれないようにするのだぞ?あれは山なりの弾道だから、耳を働かせておけば必ず位置を把握できるのだ」
『わかったー、ぼくは、そのおとをききながら、やにあたらないたかさで、そらをとぶんだね!!』
「うむ。それでよい。攻撃については、我々、三人に任せればいい。『炎』は温存しておけ……この戦は、長丁場になる……必要以上に体力を使うべきではないのだからな」
「……そうだ。さてと、オレたちの射撃の技巧を見せるとしよう。ターゲットは分かっているな?」
「若い未熟者!」
「……それ、キュレネイが流行らせているのか?……まあ、間違いじゃない。アルノア軍の若手を選択的に射殺していくぞ」
体力の続きそうな若手を始末して……体力が切れそうで環境に不慣れなベテランどもは残しておく……もちろん、ベテランを絶対に射殺さなくてはいけないわけではないがな。あくまでも臨機応変にだ。
『てきに、ちかづくよっ!』
「ああ。攻撃を開始するぞ」
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