第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その九十二
『第六師団』は槍による攻撃を選んでいた。弓の活躍が目立つ軽装騎兵といえども、剣と槍も標準装備だ。巨大な槍ではなく、細身で振りやすい槍だな。スピードが身上の軽装歩兵らしい……弓を選ばなかったのは、その間合いではなかったからだ。
メイウェイの立てていた当初の間合いは崩されている。あまりにも接近を許していた。夜間での射撃は精度に劣る。当たらなければ、馬上で次の矢を放つよりも先に、敵の騎兵に間合いを詰められてしまう。そうなれば、装備を交換している間に撃破される。
その不利よりも、高低差を利用して獲得できる突撃の速さを好む。
……もちろん、指揮官の趣味を反映していもいる結果でもある。マルケス・アインウルフの戦い方とは、メイウェイよりも攻撃的だ。
馬上で巧みに槍を振り回し、敵の騎兵を突き崩していく……馬の上でも身軽だな。馬上で槍術限定だけで戦えば、オレよりもマルケスの方が強い可能性はある。帝国の若い兵士どもでは、当然ながら相手にならん。
長い腕に槍のリーチを合わせている。だが、それ以上だ。騎馬の脚が生み出す間合いを把握している。自分の馬はもちろんのこと、敵対している相手の馬の動きさえも把握しているようだ。それでしか納得できないほどの精度で、槍が敵兵を貫いていく。
突撃してくる敵の右から攻め込んだからな。攻撃力勝負になる。どっちの槍が先に届くかの形に引き込んでもいる……敵の後続に挟まれるよりも先に、駆け抜ければ、この攻撃力勝負は最良の形になる……。
早撃ち勝負で有利なのは、当然ながらより速さを帯びているほうだ。少し疲れ、想定外のマルケス・アインウルフの登場に混乱している騎兵の槍よりも、加速してトップスピードに近い速さを帯びている『第六師団』の騎兵たちの方が有利だった。
それに高さから来るリーチの有利もあるわけだ。交差する鋼は、より高い位置にある方が強くもなるし、リーチも得る。多くの要素が、マルケス・アインウルフの突撃には働いているわけだ。
……計算しているのか。
それとも、本能に騎兵戦闘の哲理が染みついているのかは判断が出来ないが―――マルケス・アインウルフという男は、騎兵と騎兵の戦いでは負けるように作られてはいないようだ。
跳ねるように疾走する軍馬の上で、体を躍らせ、長い腕で巧みに槍を操る。リーチと精度て圧倒しながら、敵騎兵の頭に次から次に鋼を叩き込んでいく。重傷を負わせ落馬させる。馬はノーダメージだな。ヤツらしい。
「貫くぞおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「アインウルフ将軍に続けえええッッッ!!!」
最初の接触、早撃ち勝負で若輩者どもを倒した古強者たちは、そのまま西に抜けること目指す。そこが敵の弱い場所だからな。彼らにも当然ながら、マルケス同様にその駆け抜けるべき道は見えていた。経験値のおかげだな。
騎兵たちはとにかくマルケスを追うように走りながら、敵に槍を浴びせていき、もちろん時には槍の撃ち合いに敗北した。レートの問題だ。『第六師団』の槍の方が、敵をよく撃ち抜けた。それでいい。十分なことだ。
突撃は被害を増大させる戦術だ。自軍にも敵軍にもな。戦士の命が戦場に喰われることは必然的な定めである……悲しいが全員は救えん。だが、より多く先に殺すことで、運命は少しだけマシな方へと転がるのだ。
仲間の命を守るために、ある意味では最善の消耗を『第六師団』は選んでいた。自らの命を奉げることに、十分な価値のある行いだ。
『……すごい!あいんうるふにつづいて、みんな、はやくてつよい!』
「そうだ。彼らには突破する必要がある」
『え?』
「敵の遅れている連中に攻め込まれると、槍を持たない左側から攻められることになるからだ」
『はんげきが、できない!?たいへんだ!!』
賢いゼファーはオレが多くを語らなくても理解してくれる。『ドージェ』はそれが誇らしいから、ニヤリと微笑むんだよ。
「そうだ。だからこそ、彼らは駆け抜ける……敵を斜めに貫いて、西に出る必要があるんだよ」
『にしにぬけたら……あ!そうか……おいかけられても……』
「そういうことだな―――」
「―――グラーセス王国の戦士も、ここにいるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
戦場の空にギュスターブ・リコッドの猛りが響いていた。見事な突撃と疾走を見せる『第六師団』の騎兵たちには、さすがにわずかばかりの体重差だけのアドバンテージでは追いつけない。
馬上で二刀流の剣を操りながら、敵の群れのあいだを荒々しく突破していく。ギュスターブには不慣れな仕事ではある。敵の馬の首ごと、敵を斬り捨てているな。荒々しくスマートさには大いにかけるが、あの威力は敵を恐れさせ、仲間を勇気づけていた。
「いいぞ、ドワーフの兄ちゃんよ!!」
「やるじゃないか!!」
「だが、遅れるなよ!!敵を殺すよりも、突破することを優先するんだ!!」
「分かっている!!お前たちの最後尾には、置いて行かれないようにする!!オレは、グラーセス王国最強の勇者だ!!」
歌う誇りと鋼の残酷を用いて、ギュスターブは返り血まみれになりながらも、その力ずくの行進を持続する……いい動きだ。彼もまた、若い騎兵の槍ごときに遅れを取ることはないのさ。
『第六師団』の動きに圧倒されていた、アルノア軍の騎兵どもの後続部隊に動きがある。
「突撃しろおおおおおおおッッッ!!!」
「ヤツらの背後を取れええええッッッ!!!」
「引退間際の連中だッッッ!!!そう長くは体力がもたんッッッ!!!」
……闇が認識を妨げたか。高低差に隠れた『第六師団』の後続には、アルノア軍の後続騎兵は気づけていなかった。闇の中で数を数えることは難しい作業だ。
悪い判断ではない。不正確な数に怯えるよりも、チャンスに飛びつくという行いはな。だが……全員がその行動に積極的になれるとは限らんぞ。
「ま、待てええ!!」
「北に、敵の影があるぞおおッ!?」
「『イルカルラ血盟団』だあああああッッッ!!!」
……正確には、『自由同盟』の戦士たちだがな。ギュスターブと共に来た、我々の仲間たちが、次から次に松明に火をつけていた。闇の中では、それがほぼ無人のものだと判別することは難しい。
元々、オレたちが植えつけ続けた警戒心。それが、突撃しようとしていた敵どもの動きに制動をかけていく。『ガッシャーラブル』に『新生イルカルラ血盟団』がいるはずだ……という理性よりも、目の前で揺れる炎の実在に一部の敵兵どもは真実を感じたらしい。
戦場での迷いは、混成部隊の動きから連帯感を奪い取るものだよ。実際に、マルケスたちの背後を取ろうと行動した敵騎兵の数は、かなり減っていた。チャンスだった。ある男の名誉回復のためにはな。
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