第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その九十一
ミシェール・ラインハット軍曹は……うなずいた。
「分かった。自分でも、大佐を守ろうと考える気持ちに、揺らぎはない。『メイガーロフ人』の人間族にチャンスをくれた人だから」
「守れ。君は、そういう戦いにこそ向いている」
「……そうなのかな」
「歴戦の傭兵がそう評価しているんだ。自信を持て」
「……分かった。守る。私より先に、大佐が死ぬことはないわ」
「安心しろ。君たちのところまで、敵が来ることはない」
「……ええ。勝つんだからね。私たちの『第六師団』は」
その一員であることを誇りに思いながら、ミシェール・ラインハット軍曹は移動を始める。メイウェイのそばに向かって……。
オレもすべきことをしよう。ここでの役目は果たした。ゼファーに顔を向けると、ゼファーの方からも歩き始めてくれる。
ゼファーの瞳は、オレだけじゃなく戦場を見ていた。そうだ。今から戦いが始まる……『第六師団』は迫りくるアルノアの騎兵たちの前で止まり、陣形を完全に作り上げていた。
「……空から見るぞ」
『うん!!』
ゼファーの背に乗る……それと同時に、ゼファーは翼を羽ばたかせつつ大地を蹴った。技巧よりも本能から来る動きを使い、ただ急いで空高くへと昇ったのだ。楽しみにしているのさ……。
気持ちは分かるに決まっているだろう。ガルーナの竜騎士、ストラウスの剣鬼は戦いが大好きだからな。
……アルノア騎兵たちは浮かれている。メイウェイの騎兵隊が混乱していると勘違いしていたからな……だが、上空から見るとそう単純ではないことが分かる。
アルノア騎兵どもの中にも、隊列のスピード差がある……弱っている馬は後ろだな。そして、慎重に行動しようとしている騎兵も後ろだ。若く砂漠になれた騎兵ども……メイウェイが育てた若い騎兵どもが前に出てきている。
……足並みの乱れの原因は、正規兵と傭兵の混成部隊でもあるからだ。ヤツらはモザイク状に動いてしまう。指揮系統にも乱れがある……傭兵稼業の同業者としては、反省すべき点をゼファーのくれる空の視座は教えてくれているな。
いくら『個』の強さがあろうとも、あれだけバラつきが生まれてしまえば、軍勢としての強さを生み出すことは難しくなる。
マルケス・アインウルフの『第六師団』は、冷静ににらんでいる。おそらく、ギュスターブあたりが質問していることだろう。さっさと突撃しないのかよ?……四十路のイケメンは微笑むさ。
見切る時間を楽しめ、友よ。
敵の切れ目が見えるだろう?突き刺し崩すべき隊列の弱さがな……。
『第六師団』は矢じりのように尖った陣形だ。騎兵が走りやすく、突撃のために適した形になっていた。
その先頭に、オレの予想通りにマルケス・アインウルフはいる。頃合いだと判断したのだろうな。槍を握った右腕を高々と上げる……。
「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!この、マルケス・アインウルフに続けええええええええええええええええええッッッ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「格の違いを見せつけるぜえええええええええええええええッッッ!!!」
戦士たちの歌が夜を震わせていた。アインウルフ。その言葉を聞いて、敵は怯えたか?恐怖よりも困惑したのかもしれない。嘘だと思ったのか……あるいはマルケス・アインウルフの声を知る者もいて、その動きを固めてしまったのか……モザイクに見える敵の動きが、さらに崩れる。
敵の左翼が遅れているな。そして、前後の集団が分かれている……マルケスの目は馬の動きを見抜くのだろう。
先頭の騎兵が駆け抜けるのは、突撃してくる敵の右翼側だ。その前後に出来てしまった隙間を目掛けて矢じりのように尖っていた騎兵たちの隊列は、突撃の群れに変化した。マルケスは左に反るような軌道で馬を走らせる……。
最良のコースだな。東と北が高いこの場所では、ああ走ることが最速を産む。古強者たちは、誰もがそれを分かっているのだろう。『第六師団』の前方部隊は槍を構えたまま、マルケスに続いた。
馬をトップスピードにしながら、敵の最前列よりやや後ろを目掛けて、マルケスは突撃していく!!
「ハハハハハハッ!!騎兵の戦いの神髄というものを、見せつけてやろうッ!!」
そうだ。だからこそ、オレもゼファーも援護はしない。マルケス・アインウルフの戦いを見せてもらうためだし、その強さを敵に見せつけるためでもある。
竜の援護なしでも、どれほどの威力があるのかを知るといい。メイウェイ負傷を知り、オレたちだけを気にしているアルノア兵もいるのだからな……。
怖いものを、二つにする。
竜と、『第六師団』。そいつがそろって、アルノア軍に襲いかかるという事実を、ヤツら自身に知ってもらおうじゃないか。
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