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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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1984/5086

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その九十


 鉄靴の底で砂を踏みながら、今にも泣き出しそうなミシェール・ラインハット曹長とザックという裏切り者のところに歩く。


 裏切り者のザックは……オレを涙があふれた瞳で見上げてくる。


「……お前が、オレを殺すのか、ソルジェ・ストラウス……」


「罰を与えなければならんからな」


「……そうだ。そうだな…………オレは……」


「私が、私が斬るわ!!」


 少女は剣を振り上げるが、そのまま振り下ろせはしない。オレが手を差し伸ばして邪魔したからだ。オレの腕ごと斬るほど、暴走してはいない。それに、実際にそれを試したところで、『竜爪の籠手』は切り裂けないがな。


「……どうして、邪魔するのよ!?」


「君がこの男の血などで穢れる必要はないからだ」


「……私は……もう、とっくの昔に穢れているわよ」


「いいや。そんなことはない。君は間違ってはいない。戦場では、色々なことが起こるものだ」


「……そんな言葉で、私は……納得できない」


「しなくてもいい。今は、君の納得に付き合ってやる時間ではない」


 竜太刀を抜き、ザックに突きつける。


 古強者であるザックは、顔の多い傷をしていたな。何度も死線をくぐって来た男は、殺意に怯えることはない。それどころではないという顔をしていたな。今のヤツは……運ばれていくメイウェイを見ている。


 老医師と兵士たちに連れられていく。殺し損ねた獲物を見る目ではない。ただ、悲しそうに涙で輝いていたよ。


「……オレは依頼を受けたぞ、メイウェイからな」


「……ああ……殺すんだな」


「……違うな」


「……え?」


「メイウェイは首を横に振った。その意味は、お前を殺す権利を、オレには委ねないということだ」


「……じゃあ、どうするんだよ」


「責任は取ってもらうぞ。ザック。今の戦況の悪さはよく理解できるな」


「……ああ」


「当然だな。だからこそ、君は衝突を回避して、仲間たちを生き残らせようとした」


「……そうだ。そのつもりだった…………」


「勝手なことを!!」


 若い娘が牙を剥き、靴底で荒野を荒々しく蹴りつける。ザックは、ただ顔をしかめるだけだったな。


「……お前に仕事をくれてやるぞ、ザック」


「……仕事?」


「分かっているな。裏切り者のお前には、もはやここに居場所はない。だが、今はわざわざ使える戦力を処分している暇はない」


「まさか……オレに……」


「出撃しろ。武装して、マルケス・アインウルフの背後を守るために、ただ一人で敵に向かって突撃するのだ。戻ることは許されん。不帰の旅だ。20人殺して、そのまま礎となれ」


「……機会を与えてくれるというのか」


「そうだ。死ぬ機会をやる。名誉回復ではない。ただ、お前を有効な戦力として消費するための冷酷な判断に過ぎん」


「それでも……ありがたい」


「……ソルジェ・ストラウス。それで、いいの?……ザックが、また裏切るかもしれないじゃない……」


「そんな評価の男なら、メイウェイも死を望んだ。それに、マルケス・アインウルフが殺している。君もな」


「……それは」


「死ぬことを恐れてはいないな、ザック。あの場所でメイウェイを襲えば、生きて戻れる保証はなかった。貴様は、仲間のために行動したというのは事実だ」


「……間違ったけどな……」


「いいや。一人の男が『家族』を犠牲にするような選択をしなければ、この状況はくつがせなかった。貴様は、大したことをやってのけたんだよ」


 心意気は買う。裏切り者だとしても、その理由は仲間を生かそうとした。この不利な戦いを、そもそも始まらせないことで。アルノア軍に降伏するところだったが……マルケス・アインウルフが姿を現して、自分の『家族』を危険に晒す選択をして、救ってくれた。


 ……オレは、内心ではかなり怒ってはいる。マルケスは、この選択に必要なかったリスクを背負うことになったんだからな。だが、それでもなお、殺さなかった。この男の戦歴と実績を信じた。


「マルケスが信じた。ならば、オレも信じてやる。メイウェイが許した。ならば、オレも許そうじゃないか。あとは、この少しだけ救済の色合いを帯びた道を、選ぶかどうか。全ては貴様次第だぞ、ザックよ」


「……戦わせてくれるなら。死んでみせる……最悪に近いことにはなるだろうが……オレは、特攻してやるよ。少しでも、マシな戦況を、皆に与える」


「なら、いい。立ち上がれ。自分の馬に戻り、後続部隊の隊列に戻れ。仲間たちの冷たい視線を浴びながら、特攻してみせろ」


「……ああ」


 ザックは立ち上がる。体についた砂を払うこともなく、迷うことなく自分に近寄って来ていた愛馬へと向かうのだ……甘い判定?そうだと思うが、しょうながい。傭兵に意思決定権というものは、そう多くはない。


「……これで、いいの……?」


 迷える若者は素直な口でそうつぶやいた。


「いいかどうかは、あの男の死にざま次第になる。役に立って死ぬか、無様に死ぬかは、もはや、全てはあの男次第だ。メイウェイやマルケスは、役に立つと判断しているのだろうがな……」


「……私は、斬れなかった。斬れなかった私には、何も言う権利はないわね」


「それでいい。あの男のことは、気にする必要はない。君は、メイウェイの護衛についていろ」


「私に命令するの?」


「命令するさ。ついさっき、オレはメイウェイに雇われた男だし、この戦の作戦立案者の一人でもある。軍曹、さっさと持ち場に行け。メイウェイの盾として、彼を必ず守り抜いてくれ。君ほど信用できる者を、他に知らないんだよ」



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