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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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1979/5086

第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その八十五


 走っているさ!!


 急いでいるさ!!


 それでも、分かることがある!!


 ランドロウ・メイウェイの傷は深い―――致死性なのか!?そうかもしれない、そうかもしれないからこそ、焦って、急いで、殴りかかるんだよッ!!


「貴様ああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 竜太刀を抜くよりも、殴りかかったほうが早い……その考えに従って、オレは引きつった顔でメイウェイに剣を突き立てている男を、ぶん殴っていたッ!!


 ドゴオオオオッ!!


 指の骨が軋むほどに強い、手加減のない暴力を打ち込んだ。その男の頬骨が折れ、体が砂漠の冷えた空気のなかに飛んでいく。


 力なく、その男は砂漠に倒れていた。


「わああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!?」


 パニックになったミシェール・ラインハットが、長剣を抜き放ちながら走り、砂に沈んだ男に剣を振り落とした……だが。


 ザシュウウッッ!!


 鋼は砂に落下していた。怒りと混乱と……そして疑問に揺れる瞳で、ミシェール・ラインハットは裏切り者を見ていた。涙があふれていく。若い瞳に……それは、裏切り者を斬れなかったことへの悔恨などではないのだ。


「……どうして……どうして、あなたがあっ!!」


 疑問をぶつけていたな。若さに震える声で……オレは想像がついているんだが、それでも今は―――メイウェイの容態の方が気になった。


「……ぐうっ!?」


 揺れる男に、オレは腕を貸した。支えるようにしながら、そのままゆっくりと砂漠にメイウェイを座らせる。


「大佐あああああああああああああああああああッッッ!!!」


「そ、そんなああああああああああああああああッッッ!!!」


「ど、どうして!?どうして、こんなことに……ッッ!?」


 砂漠に戦士たちの叫びがあふれる。凍てつく時間は過ぎ去って、今はただメイウェイの負傷に戦士たちは驚き、嘆き、困惑していた。


 メイウェイに駆け寄ってくるが……混乱する彼らにまともな処置は出来そうにない。だからこそ、指示を出させてもらうとするよ。


「おい!!医者はいるなら、呼んで来い!!」


「……っ!!は、はい!!」


「エドワード先生を連れて来るんだ!!」


 戦士たちの一部が動き始める。だから、オレはメイウェイに集中するとしよう。砂に背中をつけた男の腹には、まだ剣が突き立てられているままだ……痛々しいが、無闇に動かすこともリスクだった。


 とりあえず、顔を歪め、脂汗に表情を濡らす男に質問する。


「意識はあるな、メイウェイ」


「……ああ、もちろんだ……ッ。それほど、深手では、ない……ッ」


 起き上がろうとするバカがいたな。大した根性だが……止めさせてもらおう。オレは手でメイウェイの動きを制するように、その上半身を砂に押し付けていた。


「動くんじゃない。剣の刃が、ムダに肉を斬る……大きな血管でも斬れば……本当に死ぬことになるぞ」


「……惜しい命ではないんだ……っ」


「ああ。お前は、この戦で死ぬ気だったんだろう」


 死相ってのは出ていたよ。疲れ果てて憔悴した顔だ。ヤケクソなヤツが浮かべる顔。だが、戦士としては間違いでもないし、気持ちは理解できる。


 失いすぎた。自分が人生をかけて築き上げてきたキャリアも、手に入れた地位も。アルノアのせいで、全てが台無しだった。忠誠心だってある男だ。帝国に反することは、本意ではなかった。


 歯を悔しそうにむき出しにしながら、歯の間から血をもらすが……それは自分を刺した男への怒りゆえの貌ではない。こうなった流れにこそ、ランドロウ・メイウェイは不満を持っているのだ。


 ……理解している。自分に剣を刺した男の理由をな。


「……ザック……っ」


 歪んだ貌でメイウェイは、裏切り者を見ていた。裏切り者は……空を見ていた。まだ明ける時間が遠い、星のいる空をザックと呼ばれた男は見ていた。


 その瞳を涙であふれさせながら……。


 ここまで聞こえるほどの歯ぎしりをしたあとで、裏切り者ザックは語るのだ。


「……しかたが……しかたが、なかったんだあああッッッ!!!」


「そ、そんな言葉を、吐くなッ!!」


 少女は若い声で、裏切り者を罵ろうとした。剣を構える……近くにメイウェイの部下の戦士たちがいるが、彼女を止めることはない。どうすべきなのかが、誰にも分からない。そうだ、剣を構えたミシェール・ラインハット自身にだってな。


 振り下ろすことはない。


 剣を構えたまま、耐えている。思い出しているのかもしれないな。あの地下の通路で殺した同胞のことを……生き延びるために、殺した。自分と仲間たちを死に導かないようにするため、一人の仲間を殺したのさ。


 だから、彼女は目の前にいる泣いている裏切り者を殺せなかった。罪に穢れていない指であれば―――すでに、鋼による処刑を完了していたのかもしれない。


「……た、大変だああ!!な、何人かが、隊列から離れていく!!?」


「……う、裏切り者が……まだいたんだ……ッ」


 メイウェイの軽装騎兵の一部が、離脱していく。南東に向かって走り去る。アルノア軍と合流するつもりだ。敵討ちというような行いではない。


 ザックという男と、計画していたのか。それとも、この状況で仲間たちに見切りをつけた突発的な行動なのか。動くタイミングとしては、半々だとも感じる。計画的な動きとしては、バラバラで統制が取れてはいないからな。


 生き残ろうとして、必死になっているだけだ。


 自分たちが生きる道を模索している……アルノアにつくことを望んだようだが、それは許されない行いだ。


 逃げた男たちも古強者だからこそ、分かっているだろう。


「射殺せええええええええええええええええええええッッッ!!!」


 軽装騎兵の部隊長の一人がそう叫び、逃げ去る男たちに向けて矢を放った。矢が次々に当たり、裏切ろうとした男たちが落馬していく。


 メイウェイは、その様子を悲しそうに見ていた。


「……最悪な状態だ……ッ。私としたことが……油断した……ッ」


「しゃべるな。傷に障るぞ……」


「……かまわんさ……ッ」


「いいや。生きるべきだ。最悪な状況と言ったが、お前はまだ生きている。死なない限りはな、本当の最悪ではない……」


「……気休めだな……ソルジェ・ストラウス殿……」




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