第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その七十九
クールなガンダラは無表情のままビジネスを続行する。
「こちらに来てください。ああ、着替え中の方はそちらを優先してください。40分後には戦いが始まるかもしれませんが、余裕はあります」
「この『ガッシャーラブル』は城砦に守られてるもんね、ガンダラちゃん!」
「そうです。『ガッシャーラブル』の外にいるメイウェイの騎兵隊はともかく、『新生イルカルラ血盟団』の戦士および我々は、最初から突撃することはしない」
「うむ!城砦の上から射撃してやるぞ!!あるいは、ゼファーの上からだ!!」
「ええ。リエルとミアには、上空からのけん制をしてもらいましょう……あまり矢を撃つわけにもいきませんからね」
「む。『そういう作戦』であったな。大丈夫だ。私が、『数少ない矢』を有効に活用してみせるぞ」
「頼みますよ。無駄なく一つの矢で一つの命を……と、注文をつけるのは、間違いですな」
「私は一つの矢で一つ以上を目指せるぞ」
「ガンダラだって、知っているさ」
「ええ。知っていますよ、リエル。あなたは一本の矢で鳥を三羽まとめて射貫くことだってやれるのですから」
「……うむ。正直、角度次第だから、毎回それほど上手くはいかぬが……外すことはない。今回は、いつもとは逆の方針で、『弱い者から射殺せばいい』わけだしな」
「ククク!……そうだぜ、リエル。とくにお前は、そういう戦い方をしてもらうことになるな……夜が明けてからは、また別の哲学が行くがな」
「……どーいうことだっけ?」
ミアがオレの腹に背中を預けるようにして訊いてくるよ。お兄ちゃんは、やさしく黒髪を撫でながら語るのさ。
「アルノア軍を構成するのは、アルノアが呼んだ援軍と、メイウェイを裏切って敵に回った若手の兵士どもだ。どちらが強い?」
「んー。若輩者など、たかが知れておーる!……という法則からすれば、援軍の方が強そうだよね」
「そう。兵士としての強さがあるのは、この熟練した連中だ……だが、この連中には致命的な弱点と呼べるものがあるよな」
「……うん。環境に慣れていないはず!……メイウェイの警戒に引っかからないレベルで速さと早さがある進軍をしてる。昼間の砂漠の暑さにも、『ガッシャーラ山』の夜の寒さにも慣れていないはず……っ」
「疲労があるのさ。そして、朝になってからの彼らは、暑さに悶えることになるだろう」
『メイガーロフ』の自然環境は強烈だな。一朝一夕では、さすがに慣れることはない。アルノアの援軍どもは有能な傭兵がメインだろうが……環境の変化には、体がついては行かないもんだよ。夜通しの移動をさせられた後では、当然な……。
「つまり、時間が経過するほどに、古強者たちの体調は崩れやすくなります」
「風邪を引く者もあらわれるだろうな」
「ええ。この寒さですからな……旅に慣れた傭兵と言えど、全員が体調を保てはしませんよ。それに……少しばかり、『意地悪』も考えていますからね」
「おー。ガンダラちゃんの意地悪……っ。強烈そう!」
「私は善良な行いを好みますが、敵に対しては意地悪なところがありますからな」
「……どういうことをするんだい、ガンダラさん?」
準備体操したあとで、カミラが用意してくれていた夜食用の種なしパンをかじっている男は大きな口をモグモグと動かしながら質問だ。ギュスターブに視線を向けながら、ガンダラはヒントを口にする。
「この街には、たくさんの樽がありましてね。ワインの抜けた樽も、たくさんあります」
「樽を、どうするんだい?」
「……風邪を引かせるために使うんですよ」
「……風邪?……ふむ。そうか、何となく分かったぞ……」
「そうですか。それは良かった。説明に時間を割くほど、大した策ではなかったですからね……」
樽には色々なものが入れられるが、風邪を引かせるために使う方法は多くはない。たしかに、地味だが……悪くはない。城砦を有効活用することができるな。
「あ。そうだ、ご報告するタイミングを逸していましたが」
我が妹分が小さく挙手しながら会話に参加してきたよ。ククル・ストレガほどに賢い女子が報告を忘れるということはない。ちょっとオレたちをリスペクトしすぎているから、タイミングを逸していたんだろう。
『下』だと考えているギュスターブの質問のあとだから、話しやすいのかもしれない。
「家具職人さんたちの協力を得て、『カタパルト』が完成しました!」
「おお、間に合ったか!」
「はい!4基も完成しちゃってます!『大穴集落』のドワーフさんたちも協力してくださったので、作業がとてもはかどった聞きます!……さすがは、ソルジェ兄さんの作戦です!」
「……『カタパルト』か。攻城兵器で、城の内側から外に攻撃するってわけか」
ギュスターブの言葉にオレはうなずいた。
「そうだ。『アリューバ海賊騎士団』仕込みの、小型で高性能のヤツだよ」
「そういえばさ、弾は何を投げるのー?」
「壁を崩して、適当な石の弾を作っています!……この国は設計技術が高度じゃないですか?『レンガ』についての法律が厳格で、規格が一定なんです。材質とか、大きさとか、重しのかけかたとか……法律と伝統で定義されています」
「うー……むずかしー単語を、深夜には聞きたくないよう……っ」
「あああ、ご、ごめんなさい、ミアちゃん!!え、えっと、この街のレンガって、どれも驚くぐらい『同じ』なんです。だから、計算しやすいんですよ」
「……じゃあ、弾丸として、使いやすいってこと?」
「はい。重量と角度と形状から、私が弾丸として使用可能なセッティング方法などを計算しました!気象条件も『メルカ』に似ていますから、読みやすいんです。もちろん、試射にも成功!誤差、ほとんどありません」
「さすが、ククル!!『メルカ・コルン』なだけはあるね!!ルクちゃんも、鼻が高いって寝言してるよ、きっと!!」
「えへへ。長老は、褒めてくれるかもですね!」
「ルクレツィア以外だって褒めるぜ、さすがだな、ククル。お前の賢さには、兄貴分として誇らしくなる」
「ソルジェ兄さん、う、うれしいです!!」
花が咲いたみたいに明るい顔になってくれる。兄貴分としてうれしいね。じーっと見つめていたら、顔を下に向けてしまったがな。恥ずかしがり屋さんめ……。
「きょ、兄妹合作のお仕事です……が、合作とか……もうコレって……は、はしたないレベルで、仲良しですよ……」
「はあ?はしたないって、何を言ってるんだ?」
「うわああ、ど、ドワーフさん!!乙女の独り言を聞いたりしないでください!!」
ギュスターブは理不尽な怒られ方をしている気もしたな。だが、年頃の義妹を持っている空気読むのが苦手な男は、年頃乙女に理不尽に怒られることに慣れているのかもしれない。一言多いはずの男なんだが、無言のまま耐えていたな。
「と、とにかく!この国の優れた建設技術と、ソルジェ兄さんの策のおかげです。有効な攻撃が可能なはずです!」
「そうか。なら、ククルにその指揮を任せるように、ドゥーニア姫に進言しよう」
「い、いいんですか?」
「使いこなせる者がいない兵器だ。経験と熟練に頼れない分、お前の賢さで上手く使いこなしてくれ。問題ないよな、ガンダラ」
「ええ。想像していた以上に使える兵器になるかもしれませんからね」
「ガンダラ、一筆書け。オレとお前の連名で、ドゥーニア姫あてにククルに『カタパルト隊』の指揮権を与えるとな……こっちの作戦も把握している。臨機応変に動いてくれるさ。チームを与えてもらえるようにしようぜ」
「了解です……さて、ならばククルには移動してもらいましょう。この手紙を現場の『新生イルカルラ血盟団』の戦士に見せれば、上手く取り計らってもらえるはずですよ」
「は、はい!!では、不肖ククル・ストレガ!が、がんばらせていただきます!!」
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