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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その七十一


 身重の未亡人を背中に乗せて、ゼファーは可能な限りやさしく空へと舞った。オレは彼女に背中を貸しつつ、前から来る風避けとなる。ラシードはその巨人族の長い腕を使って、未亡人の夫の代わりになる。抱きしめるように彼女のことを守っていたよ。


 空へと上がったゼファーが選んだのは、低空飛行だ。地上からそれほど高くない場所を選ぶ。背中に乗せた5人の疲れた人々を驚かせないためにだった。


「……蛇神よ……私と、私のお腹の子をお守りください」


 ……疲労とお腹の子への心配が先立ち、空を楽しむ余裕は彼女にはないようだった。それは少し残念なことではあったが、しょうがないな。空の楽しさを知るにも、心の余裕はいるものだ。


 ゼファーは空を教えてくれることは選ばずに、ただ最短距離を飛びぬける。『ガッシャーラブル』へとたどり着くために要したのは、数十秒ほどだよ。彼女が怖がって目を閉じつつ、オレの背中に指を立てるようにしているあいだにすべては完了していた。


 城砦を飛び越えて……ゼファーは『カムラン寺院』の中庭に降り立っていた。僧兵たちがあわただしく駆けつけてくる。


「サー・ストラウス!」


「どうなさいましたか?」


「安心しろ、べつに緊急事態というわけではない。孤立していた者たちを運んできただけのことだ……」


 そう言いながら、オレはゼファーの背から飛び降りる。彼女のための『階段』となるためにな。腕を使って、妊婦を下ろす……僧兵たちも状況を察したのか、オレよりも巨大な体を使って手助けしてくれたよ。


「ご婦人、我々につかまってください」


「ええ、ありがとう。『太陽の目』の僧兵さんたち」


 僧兵たちのことを、竜の背にいるラシードは黒塗りの眼鏡越しに見つめていた。そして、『カムラン寺院』のことも見回すように頭と視線を動かしてもいたな。


 虐殺者だ。王命とはいえ、かつて『太陽の目』の僧兵とその家族を殺したのだからな、ラシードは。その罪への自覚は重いだろう―――だからこそ、この場にいる今を不思議に感じているのかもしれないな。


 ……だが、砂漠の古強者は感傷にひたることを望まない。実利を目指す合理的な戦士は僧兵たちに過剰なまでの補助を受けながら、『カムラン寺院』へと向かう戦友の子を腹に抱えたご婦人の姿を見ていたよ。


「……ありがとうね、サー・ストラウス、竜くん!そして、ラシードさん!」


『ばいばーい!』


「元気な子を産めよ」


「……達者でな。安心してくれ。『新生イルカルラ血盟団』は、必ずや勝利する」


「……ええ。夫の分まで、戦ってくださいな」


「もちろん。バンディルに……古くからの仲間たちに、この戦いの勝利を奉げる」


 ラシードの戦友の妻はにこやかに笑う。砂漠の巨人族の女性は、感情表現が豊かなように思えるな。大きく横に開いた口のなかに白い歯を輝かせていたよ。


 産科の知識はないんだが……なんだか彼女なら元気な子を産んでくれるように思えたね。


 そんな感情を胸に抱きつつも、オレはゼファーの背にいる残りの疲れ果てた人々を下ろす作業を行っていたよ。マルケス・アインウルフも……背は少しばかり足りなかったが、ギュスターブ・リコッドもその作業に参加していたな。


 ……なんだか、この組み合わせも不思議な面々ではある。元・帝国軍の将軍に、鎖国していたドワーフの王国の戦士、死んだふりをして新たな名前のもとに生きる亡国の将軍……賢い犬みたいに大地に下あごをムニっと押し付けてくれる竜の背に、ぼろぼろに疲れ果てた避難民か。


 ついさっきまでは、このむさ苦しい絵面のなかに聖なる妊婦さままで参加していたわけだからな。なんとも、風変わりなメンバーであったよな……。


「何か面白いことでも見つけたのか、サー・ストラウス?」


「ん。なんでもないさ、ギュスターブよ」


「そうか。それで、これからどうする?」


「ゼファーによる見張り及び、今みたいに孤立している連中をピックアップしていくぞ。少しでも早く非難を完了させたいからな……お前も、そういう作業をしたい気持ちになっているのではないか?」


「よくわかるな!……サー・ストラウスは返り血を浴びているけどさ。オレは、戦ってないからムダに体力が余っている!……助けてやりたい。疲れているヤツらを……まあ、オレたちというか、ゼファーが運ぶんだが」


『ん。ぼくが、がんばるけどー、みんなも、がんばってるよー』


「……そうか。竜に認められたぜ!」


「ギュスターブ、マルケス。乗れ」


 男たちはうなずいて竜の背に乗る……ゼファーは再び空へと帰り、『新生イルカルラ血盟団』を見守りつつ、避難が遅れている人々をピックアップしては『カムラン寺院』に運ぶという、地味だが有効な仕事を実行していった。


 ……けっきょくは、その行動を5回ほど繰り返したころ、オレたちはその作業を終えることにした。


 これ以上は、こちらの休む時間が削られるし……『太陽の目』の僧兵たちか、あるいはドゥーニア姫が手配してくれたのか、『ガッシャーラブル』の住民たちで作られた、『ピックアップ部隊』が稼働し始めたからでもある。


 ロバに引かせた荷車の部隊だよ。『ガッシャーラブル』への避難が遅れている人々を、彼らが回収してくれている……問題はないさ。オレたちは、戦に備えて休むべきだ。


「……ソルジェ、ゼファー、お疲れさまだな!」


『あー。『まーじぇ』、おつかれさまー!』


 『カムラン寺院』に降り立ったオレたちにリエルが駆け寄ってくれたよ。お利口さんだったゼファーを撫でている。ゼファーは『マージェ』の指に幸福を感じながら、金色の瞳を閉じていた。


 疲れが癒される瞬間だったな。


「……リエル。君も疲れただろ?」


「うむ。矢を撃ちまくったからな。だが、その甲斐はあったぞ。こちらの戦力を多く守れた……他の男どもも、ご苦労だったな!こっちに来い。中庭の一角に、私たち『パンジャール猟兵団』用のテントを設置したぞ……そこなら、人目を気にせず話もできるだろう」


 リエルが指さす先には、羊毛の布で作られた簡易なテントが並んでいた。若い僧兵たちが建てたようだな……。


「いい感じのテントだ。皆、さっそく移動して、少しばかり休むとしようぜ」



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