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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その六十


「……さて。団長。そろそろ、『彼』が来る頃ではないでしょうかな」


 オレの賢い副官1号であるガンダラが、懐中時計で時間を計りながら語りかける。


「お喋りしているあいだに時間が経ってしまったか……」


「喧騒が消えていますな。さすがは、帝国軍と言うべきか。規律の正しさはあるようだ」


「どういうことですかな?」


「メイウェイがこちらに来るということさ、ホーアン殿」


「……っ!!」


 その言葉に対しての反応は予想から外れてはいない。僧兵たちは緊張と、そして納得を手に入れていたよ。


「我々と同じく、『新生イルカルラ血盟団』と組んだからですな……」


「ああ。それに、親アルノア派の帝国兵どもを『ガッシャーラブル』の外に追い出す作業が完了したからだよ」


「その時間が、早かったと?」


「褒めたくもないが、事実として帝国軍という組織は、よく訓練されている。メイウェイの提案に、敵は良くも悪くも従ったのだろう……命を奪われない代わりに、『ガッシャーラブル』を去れとな」


「……追放された彼らは敵と合流する」


「良い風に考えろ」


「できますか?」


「可能だ。疲れて傷ついた敗残兵を抱えることになる。死傷者の姿を身近に見るほど、兵士の士気は一般的には落ちるぞ」


 ヒトは敗北やら、死者や死傷者を見れば、次は自分が物言わぬ死者になるのではないかと怯えがちだ。あくまでも、『一般論』だがな。


「貴方は、一般では無さそうだ」


「そうだ。つい最近まで、オレの価値観が変わっていることに気づけなかったが、今は理解しつつある。多くの男が、オレよりもかなり臆病者だ」


「豪気というよりも、正直なのですね、貴方は」


「そういうことだ。ホーアンよ、顔を借せ。メイウェイのところに行こう。こちらから出迎えてやるとしよう。ヤツも、『カムラン寺院』の深くに入る勇気はなかろうし……こちらの僧兵も帝国兵を信じられんだろうからな」


「……メイウェイの兵とまでは、絆は不要と?」


「信じていればいい。裏切らずにアルノアと戦う者たちだとな。それで十分だ」


「信じる……蛇神への信仰は、疑いなく行えるのですが……」


「ヒトを信じるのは勇気がいるさ。神と違って、不確かさもある。だからこそ、信じつつも距離感を置けばいい」


「そうしましょう。では、皆、私はメイウェイ大佐を出迎えに行く!……サー・ストラウスの指示には従ってくれ!彼の言葉は―――」


「―――私の言葉と同じだからな!!」


 同盟の盟主であるドゥーニア姫が良いタイミングで存在感を主張していたよ。目立ちたがり屋……でもあるかもしれないが、彼女は戦略的にこういった振る舞いを行うんだろうな。


 盟主として主導権を奪われたくない―――出しゃばっている?……いいや、違うね。『太陽の目』の長老たちという、完全には『新生イルカルラ血盟団』を信じられない指導者たちの睨みを利かせておくことは、指揮系統の確立に有益だとでも判断しているのさ。


 指揮系統はシンプルな方がいいからな。


 どうしてか?……ヒトがヒトに仕事を依頼したときは、必ず予想とは異なる成果に帰結するからだ。


 指揮系統というのは、劣化が必然。多くの介在をはさむことにより、理想からはどんどん狂っていくものだ。『太陽の目』の長老たちには協力はして欲しいが……ムダに指揮系統に参加してもらっても困る。


 彼らが無能というわけではない。戦において、指揮系統の人数は少ない方が理想的に動けるんだよ。とくに、こういった『防御に見せかけての攻撃の戦』をするときにはな。攻撃とは、精密な連携がモノを言うんだ。


 シンプルな指揮系統による、『迷いのない連携』こそが最良なんだよ。


「では、行こうか、ソルジェ・ストラウス。臆病者のメイウェイを、こちらから出迎えてやりに行こう」


「……そうするとしようか、ドゥーニア姫」


 ニヤリ!……ガルーナの野蛮人と砂漠の戦姫は同じような笑顔を見せ合って、この場から移動を開始する。ガンダラとホーアンもあとに続いたよ。大物ぶろうじゃないか?……実際のところ大物だから、長老たちに格の違いを見せつけておいて損はない。


 演舞場から抜け出したオレたちは、コソコソと話し始めるよ。


「……なかなか上手な演説であったぞ、ソルジェ・ストラウス。私の交渉術を学べたか」


「参考になったよ。頭じゃ理解していたことが、それ以上に実践できるようになった。学びとは、マネから奥義に達するな」


「無敵の猟兵たちの魔王に参考にされたなら、光栄というものだ」


「色々なところで言いふらしても構わんぞ」


「ハハハ!」


 どういう意味の爆笑だったかは追求しないことにする。


「だが、しかし、いいハッタリだったぞ?」


「不誠実だったか?」


「いいや……素直さなど、駆け引きには不要なこともある……素直さで得られる結束もあるが、それを作るには、今の我々と『太陽の目』のあいだには交流の履歴が乏しすぎるからな」


「……色々と、気を使わせてしまっているようですね」


「いいえ。ホーアン殿のせいではありませんよ。誰も悪くはありません。なので、交渉術を使いこなして、より良い結束をデザインしていけばいいのです。本格的な外交や交流などは、戦後処理のハナシですよ」


「そういうことだ、ホーアン殿よ。オレたちは、まずはアルノアとの戦を乗り切らねばならん……細かい政治的な争いは、後回しにしてな」


「……我々は、僧兵らしからぬことに関与し過ぎたのですよ」


「どういうことでうかな?」


 ガンダラは意外と聞き上手だ。賢いから多分、相手の話したいことの内容なんて想像がついているのにね。いや、だからこそ、なのかもしれん。


 ホーアン殿との『会話』は、オレたちに有益なのだと計算しているのかもな。『仲良くなりましょう作戦』の一環として。


「治安を帝国軍に任せてばかりはいられませんでした。本来は、この国の軍隊がすべきような治安維持や、もめ事の解決にも『太陽の目』は関与し過ぎた……」


「それは有り難いことだろう。自警団のような組織があれば、住民たちには心強かったさ」


「……本分ではありません。我々は、世俗とは本来、もう少し距離がある立場であったはずです」




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