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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その五十八



 たったそれだけで、オレたちは強くなれるよ。本当にね、一緒に集まってメシを食うだけでも、ヒトっていう動物は群れとして少しずつだが強くなる。


「オレたちに決定的に足りていないのは、結束だ。そいつを少しでも強めることで、戦に臨む」


「……それで、勝てると」


「勝てるな。断言してやる。オレたちは、それぐらいのことを成し遂げるぐらいには力を持っている。とっておきの戦術もな」


 ハッタリもあるがな。強気の交渉術ってのを、使わせてもらうとするよ、ドゥーニア姫から学んだことだ。自信を持った嘘が、ヒトに一時的な強さを与えてくれるのなら、それで構わない。


 ああ、もちろん……現実に策をいくつも用意してはいるんだよ。勝つための策は、色々とな……それでも、辛い戦いにはなってしまうのだが……オレは自信を持った顔と声を作る。迷いなど、何一つない。そんな様子で、長老たちを見回す。


 笑うんだよ、獣のように。そいつが猟兵らしさってもんでもあるからな。


「オレたちは強いんだよ。全力を尽くせば、必ず勝利を手にするさ!……だが、それを機能させるためには、皆の協力だけではなく、結束がいる。一つの群れになるのだ。たとえ、望まない結束であったとしてもな。勝利し、生き残るために!」


 そのためには、何だってやる。敵の敵という理由から、敵とだって手を組む日だってある。オレは受け入れているぞ。怒りを捨てて、今は結束のために屈辱だって受け入れる。そうでなければ、仲間を救えないのだからな。


 強さを作るためには、何だってする。たとえ、自分の心に嘘をついたとしてもな。勝利し、生き残るために、それがいるなら、それを選ぶだけのことだ。


 ドゥーニア姫は、オレの短い演説を耳で楽しんだあと、腕を組み直しながらニヤリと笑う。強気な瞳がホーアンを見つめていたよ。彼女の唇が動いた。


「……ちがうか、ホーアン?竜騎士ソルジェ・ストラウスの言葉は、正しさに満ちていると思うが?」


「ええ……そうですな。勝利し、生き残る。それが、唯一の道ですね」


「ああ。そうだ!そうでなければ、誰もがあの世に行くことになるぞ!……蛇神への信仰も、『メイガーロフ』の歴史も、あらゆる文化も……全てが砂に埋もれて消え去るだろう。帝国は、アルノアは……我々の生存を認めないのだ」


「……結束。それが、我々の武器になるわけですね」


「最強の武器と言える。いいか、組織の強さは、集団の強さは、結束で倍にもなれる。少しでも信じ、少しでも疑いを捨て、少しでも長く共にいることで、お互いを疑えなくなる。結束というのは、そうやって作っていくしないものだ!」


「……ならば、行動を始めましょう!ギイル!」


 ギイルと呼ばれた若い僧兵がホーアンの前にやって来る。不安げな顔をしているな、ぎょろつく瞳がよく動いていている……緊張している。自分に与えられるであろう役目を、彼は理解しているのさ。


 緊張で張り詰めた声を若い僧兵の口は放った。


「な、なんでしょう、ホーアンさま!?」


「いいですね。食料庫を開放しなさい。そして、これから到着するであろう『新生イルカルラ血盟団』の戦士たちのために、食事を作るのです……食事番の僧兵たちに告げなさい」


「わ、私がですか!?」


「そうです。それこそが長老たちの総意であると……これは命令なのだと告げて、すみやかに行動させるのです」


「わ、わかりました。し、しかし……その、あの……め、メニューは……?」


「……そうですね……何か、リクエストはありますかな、ドゥーニア姫?」


「ヒツジの肉だ。マンサフを作れ!」


 マンサフか……ラシードが作ってくれた料理だな。この『メイガーロフ』らしい料理。ふむ。さすがはドゥーニア姫だよ。


 故郷を連想させる料理であれば、『メイガーロフ人』は結束を強めることも出来るだろうよ。


「マンサフですか……なるほど、我々にとっては伝統的な料理です」


「カレーも好きだが、先ほど食べてしまっていてな!!いいか、ヒツジの肉をたっぷりとだ!!」


「……姫の言う通りにいたしましょう。ギイル、頼みますよ」


「わ、分かりました!!皆に、そう伝えて来ます!!」


 若い僧兵は足早にこの場から立ち去っていく……ギイルはなかなか大きなストレスを抱える任務をなるだろうな……僧兵たちには気が荒いヤツも少なくないだろうし、バルガス将軍嫌いもそれなりにいるだろうから。


 だが、結束を作るために、マンサフを皆で食べるというのは上等な選択じゃあるんだ。少しぐらい怖い思いをするかもしれないが…………いや、そうだな。ギイルだけで行くよりは……。


 オレは巨人族の僧兵たちの中から、メケイロを探した。マファラ老を臨時の医務室に運び込んだ青年僧兵は、こちらの視線に気がつくと自主的に行動していた。


「ホーアンさま!」


「どうした、メケイロ?」


「ギイルだけでは荷が重い任務かもしれません。オレも、彼と一緒に行き、料理を作れと指示を出して来ます」


「……お前がか?」


「心境が変わったのです。今は、緊急事態です。少しでも、結束を強くする必要がある……バルガス将軍を恨んでいたオレが言えば、皆を説得しやすくなる……オレは、家族をあの虐殺で失っているんだ……そんなオレでも……いや、そんなオレだからこそ、皆を説得しやすくなる。命令だけでは、ダメです。心の底からの説得でなければ、強さは本物にならない」


「……うむ。よく言ってくれた。多くの仕事をさせてすまないが……頼むぞ、我が弟子メケイロよ」


「はい!お任せ下さい、我が師ホーアンさま!」


 メケイロにも色々と物語がある。メケイロは、オレとアインウルフをチラ見して、少しだけはにかむように笑っていた。無愛想な青年僧兵が、この土壇場で成長をしたようだな。戦場で笑うということは、強さでもあるのだぞ、メケイロ。




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