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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その四十二


「……そういうことだ。アルノアの騎士よ、貴様の相手は彼がする。オレは、そこにいる老僧の治療をすることにしよう」


「させると思うかい?」


「その問いかけには答える必要はないな」


「どうしてだ?」


「選択の権利は貴様にあるわけではないからだ」


「……ッ」


「いざッ!!参るぞッッ!!」


 奇襲を仕掛けてもいいし、三対一でぶちのめしてもいいんだが、戦士の誇りを優先させちまうという悪癖がオレにもある。アインウルフにもな。


 僧兵メケイロは正々堂々の力勝負を望んだ。戦場の容赦のない卑劣さからは、あまりにも遠い行いだったな。正面から敵に挑む。一対一、プライドに歪んだ行いだ。


 ……合理的ではなかったとしても、巨体と強靭さを併せもつ巨人族の僧兵が放つ突撃には、大きな拘束力がある。


 突き出された巨大な槍。それを操る腕は長く、肩幅も広いが……『太陽の目』の僧兵たちが用いている槍術には独特の癖もあるな。メケイロは、まだ肩を入れていない。槍のリーチはまだ伸びるのだ。二段構えの突撃。半端な回避運動では、肩を入れる動作で生み出された槍のリーチに捕まることになる。


 まるで、攻撃的な毒蛇のようだ―――さすがは、蛇神ヴァールティーンの僧兵か。コブラを飼いならし、研究し、その動きを武術の哲学として取り入れているのだ。


 この動きには、少なからず弱点もある。使いこなせなければ、強い槍術の流派でもないだろう。他流に劣る部分は、どの流派にもつきものだがな。オレが『太陽の目』の槍術を使えば、普段の7割ほどの力しか出せんだろう。


 練度が足りないだけではない。欠陥が多い―――人間族が使うには、だがな。


 オレでは加速も威力も足りない槍になるが、巨人族ならではのリーチと、体重が生み出す威力が、変則的な蛇の槍の欠点をカバーしてしまう。巨人族の達人が振るうことで、この槍術はようやく完成されるのだ。


 メケイロは、未熟な部分もある若い僧兵ではあったが、この突きの動きに関して言えば、十分な完成度を練り上げることに成功していた。


 ……どういうことになるか?


 コブラのように伸びて飛びかかる突きから逃げるためには、全力のバックステップを踏まなければならない。


 人間族のサイズであれば、そうする他に逃げ道はないんだよ。接近することで間合いを潰すことはリスクになる。肩を使っていない槍は、いきなり石突きを使ったかち上げ式のカウンターを入れて来ることもあるからだ。


 騎士は跳び退いた。全力でバックステップを刻み、間合いを取る。ヤツの筋肉の付き方と装備の質からも分かるように、そのスピードは速い。メケイロの突きからは全力で逃げれば、当たることはないだろう。


 しかし、壁に近づくことになるな。追い詰められてのインファイトになれば、体格差がモノを言う。巨人族の一流の戦士に対して、その選択がどれほどに愚かなのかは言うまでもない。


 僧兵メケイロも、それを知り尽くしている。逃げる者を、ジリジリと追い詰めて、必殺の槍を放つ。それが、『太陽の目』の槍術を成立させている哲学だ。


 さすがは僧兵。若干の弱さも含む槍術ではあるが……巨人族の体で使えば、その弱点は消え去る。こだわりを無くせば、メケイロもより強くなるかもしれないが、それは本懐ではないかもしれんな。


 蛇神の僧兵は、蛇神の槍術を使って敵を倒すべきなのだ。それは、他人が口出しできるような隙間は存在しない、完成された生きざまではある。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」


 蛇神の槍は暴れ、アルノアの騎士はその回避に全霊を費やす。


「これは……なかなか、やるね……ッ」


「貴様らに殺された仲間たちの仇だ……ッ!オレが討ち取るぞッ!!」


「……いい気概だよ、亜人種のくせにね」


 ……メケイロはいい動きをしているが、相手もかなり強い。ステップワークだけで、このそう広くはない宝物庫のなかを逃げ回ってみせている。壁に追い詰められることを避けているわけだな。


 そして、連続的な攻撃には勢いの欠ける瞬間がどうしても来るものだ。メケイロの槍の動きが鈍るのを見計らうようにして、アルノアの騎士は軽量化した剣を差し込むように使う。


「……ッ!!」


 メケイロは反応していたな。半歩だけ跳び退くように下がり、石突きでのカウンターを用意する―――だが、放てない。間合いは見切られている。打ち据えるにはわずかに足りない距離、そこにアルノアの騎士は止まっていた。


 メケイロから見れば少し左側に位置取ったことも大きい。メケイロのカウンターは、この位置関係では当たらん。下手に動けば、後の先を取られてアルノアの騎士が狙っているように、メケイロの左手首が斬り落とされるかもな。その直後、攻め立てられて致命傷をもらう。


 ……技巧だけなら、敵サンの方が上だな。だが、それだけが戦いを決めることはない。腕力、リーチ、体重、それらにおいてはメケイロの方が優れている……自分の不利を見極めて、冷静さを保てるのならば、そう簡単には負けはしないさ。


 デカい相手に勝つってのは、かなり難しいことだ。


 ……さて、メケイロと敵サンが睨み合ってくれているおかげで、マファラ老への道が開いているな……メケイロの援護はアインウルフが買ってくれている。オレは、彼の命をつなぐ努力をするとしよう。


 マファラ老のそばに座り込むと、まずは声をかけてみる。


「……意識はあるか、マファラ老?」


「……誰じゃ……」


「オレは『新生イルカルラ血盟団』の傭兵だ」


「……血盟団ッ」


 その言葉には恨みや怒りが伴うのだろう。ガミン王と、彼に忠実であったバルガス将軍のせいで。


 マファラ老の体が動き、白い眉の下にある白内障気味の瞳が敵意を込めてこちらを向いた。ギョロリとしてその目は、老蛇のように濁っているが、粘り気のある殺意を伝えてくる。


「勘違いしているな。『新生イルカルラ血盟団』だ、バルガス将軍は昨夜、死んだ。今は君らとの因縁のないドゥーニア姫が率いている。オレは、彼女のための剣だ」


「…………そうか…………バルガスめ……ッ。死んだところで、許せるものではないが」


「当然だな。死んだぐらいで仲間や家族を虐殺された痛みが消えるはずがない。オレには痛いほどに分かるよ」


「……貴殿は……」


「ソルジェ・ストラウス。帝国の裏切りで滅びたガルーナの最後の竜騎士だ。マファラ老よ、傷の手当てをしよう。ここで敵の剣で死ぬことには、何の意味もないだろう」



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