第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その四十一
「騎士道は生きているよ。私の『正義』は、閣下のための剣であることだ」
「意見の相違を感じるな」
「まあ、そうだろうね。君は、野良犬だろう?……ソルジェ・ストラウス」
「オレを知っているか」
「有名だよ。辺境の各地で、次々と帝国軍を倒している傭兵がいる……ガルーナを落ち延びた騎士らしいという噂だ。モンスターに乗る、野蛮な男だと」
「モンスターではない、竜だ」
「……同じことだと思うが」
「全くもって違う。竜は、オレたちのようなヒトよりも、はるかに崇高な存在だ」
「空を飛べるから?」
「賢く聡明だからでもある」
「そうなのか。是非、話してみたいものだ」
「そいつは止めておけ」
「どうしてだい?」
「帝国人は喰らうように教えている」
「……所詮、人食いのモンスターか」
「下等生物は、肉として消費する。それもまた尊さの証明ってものだろう」
下等生物という蛮族にしては知恵を使った悪口を使ってみたんだがな、この暗殺者くんは全くもって反応しちゃくれない。冷静さを失わない。集中力とリラックスを適度に混ぜている。
ムカつくな。余裕をもった美形の男など、大陸の全ての酒場で安酒をあおっている男たちは大嫌いだ。
暗殺者は長剣をビュンと振った。刀身の中央がくり抜かれて、軽量化を企図した剣……そして、柄を長くすることにより重心を手前に近づけているか。振り回すことに特化した剣だな。
ディフェンシブなタイプか……こちらの戦いを見られてしまったことは、厄介かもしれんな、少しは手傷を負わされるかもしれんな……っ!!
……ムカつく美形の顔はオレを見て微笑む。ああ、それだけでムカつくよ、コイツは大した美形野郎だ。
「テメー、何を笑っていやがる」
ガラの悪い蛮族の言葉だった。知性の配合量が低すぎて、どうにもダサいと思うが、本音だからしょうがない。
「いいやね。亜人種たちを率いているという噂は、本当だったんだな……と感心しているんだよ。人間族なのに、ね?」
「……オレを率いているとでも言うのか?」
僧兵メケイロのプライドを傷つける言葉になってしまったのかもしれない。メケイロは死体から槍を引き抜いて、オレの隣りに立つ。
「そうだろ?」
「……違うな。オレは、『太陽の目』の僧兵だ!……共闘は、しているが……」
「策に従ったね。君は、ソルジェ・ストラウスの言葉に従い、行動を曲げた……蛇神の七大戒律を破るのに、相応しい場所かな?」
「……ッ!!」
汝、蛇神の前で嘘をつくなかれか。敵を、『太陽の目』の組織哲学まで詳しく調べているようじゃないか。まあ……正直、言うと、そこまで想定してオレは指示を出した。僧兵が嘘をつかない……コイツらはそう予想すると思っていたよ。
「オレは……ッ」
「信仰を曲げたんだね?……それは、まるで奴隷のようじゃないか」
「……ッ!!」
「ふん。メケイロ、安い挑発に乗るもんじゃないぞ。コイツはオレたちの連携を乱そうとして話術を使っているだけだ」
「……そうだが」
「それに嘘などついちゃいない」
「なに?」
「お前はオレの言葉に従っただけだ。嘘をついているとすれば、オレかもしれんが、オレは蛇神の信徒ではない」
「……詭弁だよね、それ?」
「いいや。ただの真実だよ。オレたちはチームだ。戦術を使っただけのこと。それに、貴様らがオレの見え透いた即興の罠に完全に引っかかっちまったのは、『太陽の目』の僧兵たちが、貴様らがコソコソと観察してた時間の全てにおいて、蛇神ヴァールティーンの教義に対して忠実だったからだ」
「……竜騎士」
「メケイロ。考えてみろ?……お前は嘘などついちゃいない。ただ勇敢に命を賭けた。あの戦術が100%成功する保証など、オレにだってなかったのだからな。場合によれば、お前は殺されている」
「……だが」
「戦場で命を張る。それがどれほど蛇神を楽しませる勇敢さなのかは、オレよりも蛇神の信徒であるお前の方が、よく知っているだろう……」
「……ああ。そうだな」
メケイロは笑顔になる。戦士は、そうでなくてはな。迷っているのは戦場ではない。
「詭弁にほだされるか」
「それほどオレもバカではない。あとで師に訊ねてみればいいと理解しただけのこと。ダメならば、採風塔の凍える試練で償う」
「ホーアンはそういうの許すと思うがな」
「オレは僧兵だ。僧兵は、そう生きるものだ。戦いが終われば、信仰にのみ生きる」
「ククク!そうすればいい」
「……そういった詭弁を使って、亜人種を騙して操るのかい?」
「いいや。素直なだけだ。オレは、アタマが悪いもんでね。心のなかにある真実しか、口にすることは出来んのだよ」
「……なるほど。嫌いなタイプだよ」
「だろうな。オレも、貴様のことが大嫌いだ」
「やるかい?」
「ああ。殺してやろう―――」
「―――いいや、ソルジェ・ストラウス。ここは、オレにやらせろ」
……言い出すと思っていたがな。
「メケイロ。ヤツは、そこそこ強いぞ。襲撃者の中でも、トップだろう」
「だからこそ、オレが仕留めたい……ここは、オレたちの『家』だ」
「……『家』か」
何とも重たい言葉だな。分かるんだよ、故郷と家を焼かれたことがあるオレには、その痛みのことがな。メケイロは、戦うことを望んでいる。仲間たちを殺されたこと、そして、自分の『家』が土足で踏み荒らされたことを怒っている。
「オレの方が、確実に勝てるんだがな」
「……温存しておけ。アルノアの本隊との戦こそ、お前の力が要るはずだ」
「……そうだがな」
「やらせてやるといい、ソルジェくん」
「マルケス?」
アインウルフがヤツらしい雄壮なアドバイスをくれたよ。戦士としてのノリを理解するヤツのセリフだな。
……さてと、どうするか。いや……答えは決まっているか。オレは優先すべきことがあるな。アインウルフも、それに気づいているのか。
そうだ。
応急処置に対しては、この中で猟兵であるオレが誰よりも優れている。オレでなくては、この場所にいるマファラ老を助けられんだろうな……視界のなかに、見つけている。床に横たわった巨人族の老人だ。黄色い僧服からにじみ出すように赤い血が流れていた。
「君が助けるべきだ。私は、僧兵メケイロくんのフォローをするよ……もしもの時にはだがね」
「助力はいらん。オレが、オレだけの力で倒す。僧兵たちを斬った礼を、オレの槍で知らしめてやる」
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