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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その三十三


「……こっちだ。ホーアンさまがお呼びだ」


 ホーアンに了解を取ってきたようだな。不服なのか?……というか、オレがあまり好きじゃないようだな、メケイロくんは。


 だが、注意しておくべきことがある。今はプライベートな時ではない。軍事行動最中だ。立場や力関係を示しておく必要があるんだよ、メケイロくん。


「オレにとって無愛想なのはいいが、ドゥーニア姫には笑顔を見せろ?『新生イルカルラ血盟団』と、お前たち『太陽の目』の同盟の盟主だぞ」


「う……あ、ああ。ようこそ、お越し下さいました、ドゥーニア姫」


「フフフ。無理せずともいい。だが、歓迎の言葉、ありがとう」


「は、はい……こちらへどうぞ。ドゥーニア姫さま」


 メケイロは砂漠の戦姫に敬意を示すために、ゆっくりとかしずき、開いたドアのなかへとドゥーニア姫をいざなったよ。本来は護衛から乗り込むべきではあるだろうが―――ドゥーニア姫はメケイロの防衛体制に敬意を尽くしたいらしく、自分が一番に乗り込んでいく。


 室内の安全はメケイロが守っている……そう評価してやっているのだ。行動の一つ一つにも、それなりに意味が出て来る。戦時の大将ってのは、いつだって政治的な存在になっちまうんだよな。


 ……キュレネイとククルの存在には、オレとガンダラしか気づいていない。二人のことは、黙っておいた方がメケイロに恥をかかさずに済むか……まあ、今はメケイロの恥なんかを気にしている場合でもないんだがな。


「……ようこそおいで下さいました」


 ホーアンはオレたちを見て、柔和な笑顔を浮かべていた。魔力を感じていたし、猟兵を二人も護衛につけていたから、不安はなかったが……直に会うことで得られる感覚もある。


 口もとを緩ませていたよ、オレはね。


 ドゥーニア姫は口もとだけで笑っているように見えた。その瞳は鋭いな。交渉者の貌になっているのかもしれん。ハッタリと度胸でメイウェイさえも落とした凄腕の交渉者は、ホーアンを見つめたまま語り始めた。


「さっそくで悪いが、指揮権を譲渡してもらえるか?」


「……ほう。性急ですな」


「それが一番、手っ取り早いことだと思うのだがな。現状では、帝国軍の策に踊らされてしまっている。主力は北に、弱兵と一部の護衛だけが『カムラン寺院』に残っている。『パンジャール猟兵団』が援護しているからこそ、戦線は保てている」


 ……そうも言い切れん要素はありはするし、おそらくドゥーニア姫も気づいちゃいるだろうが、交渉ではこちらの弱点なるような材料を口にしないというのが、ドゥーニア姫のやり方だからな。


「侮辱が過ぎるぞ、ドゥーニア姫!!」


 僧兵メケイロは沸点が低い。巨人族としては珍しい熱さだったな。だが、メケイロを制するように老僧の細くなり始めた腕が彼を遮るように持ち上げられていた。


「……よさんか。ドゥーニア姫の言葉はもっともだ。我々だけでは、この状況を解決することはできない」


「しかし、そうかもしれませんが……あまりにも……っ」


「正しいコトをするときは、素早くやるのが信条でね」


「ハハハ。まこと、その通り。ガールケス殿がご存命であれば、貴方の言葉に大きくうなずいていたことでしょう」


「父上は、私よりも上品な人物であった。無礼なことを、叱りつけるとは思う。だが、私は間違ってはいない」


「そうでしょうな」


「……メイウェイと取引をした。現在の最大の敵であるアルノアを倒すためにな」


「め、メイウェイと……本気なのか!?」


「本気だ。そうでなければ、多くの戦友を殺した敵と手を組むはずもない」


「……っ」


「僧兵よ。私は勝たねばならん。だから、屈辱をも受け入れた。メイウェイも、自分の部下を死なせないためだけに、帝国に刃を向けることを誓ったのだ。戦士の覚悟だ。本気以外の何物でもない」


 迫力に圧されて僧兵メケイロは押し黙ってしまったな。砂漠の戦姫の大きな瞳にまっすぐに睨まれたままプレッシャーをかけられたなら、そうなるか―――覚悟。戦士の覚悟と僧兵の覚悟は、また少し意味合いが異なるだろう。


 神と信仰という理想のためではなく、オレたちは生き残るために理想をも棄てて、勝利を目指している。屈辱を踏み越えて、オレたちは強くなっているのさ。この覚悟は、純粋なだけの僧兵には獲得できないものではある。


 ドゥーニア姫はメケイロから視線を外し、ホーアンに近づいた。老僧は修羅場を潜ってきた経験値を使っているのか、まったくもって動揺してはいない。プレッシャーが効くような相手ではないが……かけてみて損するものでもないからな。


「ホーアン殿よ。北に向かっている僧兵を下げてくれ。そうすれば、戦闘が収まり、メイウェイに部下を説得するための時間を与えられる」


「信じているのですな、敵を」


「そうだ。よく見知っている敵だ。十数回、お互いを殺すために策を実行し合った仲だからな。我々は、お互いのことを誰よりも詳しい。メイウェイは、機会を与えれば状況をより良いものに改善するはずだ」


「帝国兵に裏切りを勧める?」


「そうだ。帝国兵の中にも、この土地に同化した者たちがいる。亜人種の妻を娶った兵士たちがな……」


「ふむ……そうでしたな」


「ホーアン殿。戦闘の中止を。北にいる帝国兵は、ここを攻めることには消極的なのだ。戦士たちを戻し、守ることに集中させろ。それで、状況は改善するんだ」


「……他に選択肢は、ありませんかな」


「ない。そうだろう、竜騎士殿」


「もちろんだ。最善を尽くすべきだな。ホーアン殿よ、真の敵は、アルノアの軍勢だ。そいつらは、やがてここに来る。オレたちは、それに打ち勝つためにメイウェイと手を組まなければならんのだ」




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