第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その十六
「敵襲だああああああ!!」
「迎撃しろ!!」
……迎撃しろか。勇敢なことだ。
ギュスターブの新技の犠牲になった帝国兵は怯えた声を放っていたが、この場にいる帝国兵どもは若く血気盛んだった。人間族第一主義に燃える若い帝国兵ということなのだろうか?……メイウェイの話術でアルノアの正当性への疑問を抱いてもいると思うが。士気は高い。
だからこそ、偵察という危険な任務につけているのかもしれない……志願者かもしれないな。アルノアに……いや、帝国軍に忠節を誓っていることを体現することで、この混沌とした状況でも出世したいと考えているのか、あるいは自軍の士気を維持しようとしている献身的な兵士かもしれない。
好印象だがな。
残念だが、死んでもらう以外にはない。
全滅させることで、北西部の情報をアルノアに伝えないようにしたいからな。狼煙はやがて煙を吐き出さなくなる……そうなれば、この場所を見つけることは出来なくなるさ。やがて空も暮れ始めることだしな。
……オレとギュスターブが仕事を成す裏で、ベテランたちは動いていたよ。
「はあああああ!!」
ラシードは巨人族らしい体躯から槍を放ち、馬上の敵兵を突き殺していた。
「ぐふう!?」
断末魔の悲鳴をあげる敵兵を、ラシードは乱暴に馬上から地面に叩きつける。その衝撃を使い、貫通していた槍を抜き放つ。ラシードは怯える軍馬の手綱を掴むと、そのまま馬をブン取っていたな。
『イルカルラ血盟団』らしい戦い方なのだろう。馬を盗むか。有効な戦術だな。馬にまたがったラシードは、訓練された軍馬を意のままに操り、敵の軽装騎兵に向けて突撃を狙う。
「オレたちの馬を盗むか、『イルカルラ砂漠』に巣食う、害虫があああ!!」
「国を盗まれたことへの意趣返しだ」
「ほざけ!!……人間族に、高度な社会性を持つ帝国人に導かれてこそ、この未開の土地に文明は咲くのだ!!」
「傲慢なことだ」
馬を突撃させながら、ラシードは槍を投げ放つ。帝国兵も槍を投げようと構えていたが、こういう状況になれば、早撃ち勝負だ。先に投げたヤツが勝つ。ラシードの放った槍は、帝国兵が腕を振り下ろすよりも先に帝国兵の胴体を貫いていた。
砂漠における奇襲攻撃の見事さを、ラシードは見せつけてくれるよ。串刺しになった敵兵に近づいていくと、ラシードは振り抜く前に力を失い、地上へとだらりと垂れた腕が持つ槍に長い巨人族の腕を伸ばして奪い取っていた。
武器を奪う。馬と槍を、素早くな。個人的な戦闘能力では、オレやギュスターブには大きく劣るところはあるだろう。ラシードは若くはないからな。だが、砂漠での戦い方はオレやギュスターブよりもはるかに上手いと来ている。
……ベテランの技巧を見せてもらうことは、本当に経験値を底上げしてくれるぜ。
その点では、アインウルフも見事なものじゃある。騎兵に正面から走って近づくと、槍の一撃をギリギリのところで躱していた―――そのまま槍の側面を長剣の斬撃で斬り落とす。帝国兵の片腕ごとな。
「ぎゃああああ!?」
「甘い動きだ。馬上槍術は、強さと威力もあるが、隙も大きいものだ。注意したまえ」
「か、語るんじゃねえ!!」
「すまないね。いい馬に乗っているというのに、宝の持ち腐れとなってしまっている。そこが少しばかり勿体なく感じてしまうのさ」
「ぐうう……っ」
片腕を無くした帝国兵は、それでも投降することはない。ナイフを抜き、馬から下りた。
「……戦うか。そこまで、アルノアに忠誠を誓うのか?……あの男は、『ラクタパクシャ』を作り、帝国市民を含めて民間人を多く殺している悪人なんだぞ?」
「……うるさい!きっと、閣下には思し召しがあるんだろうさ……メイウェイ大佐と違って、伯爵閣下は亜人種を贔屓などしない。亜人種を追い出し、オレたち人間族のための土地と文明を広めてくれる」
「亜人種が憎いか」
「ヤツらは脅威だ。人間族を脅かす……低い文明の愚かさと、その汚らわしい見た目で、血を汚しもする……」
「彼らにも君にも、同じ色の血しか流れていないぞ」
「……っ!!お、おぞましいことになあああ!!」
腕から大量出血しながらも、帝国兵はアインウルフに挑む。アインウルフは、静かな動作で突きを放ち、剣の切っ先で敵兵の喉を貫き、頸椎を突いて、頭を振らせていたよ。即死するよりも先に脳震とうが来る。突撃を仕掛けられた時には、適したカウンターだな。
「……おぞましいか。そうか……私は、そうは思えないのだがな……帝国は、どんどん私の知らない姿へと変わり果てていくようだ」
感傷的になっている場合でもないことを、マルケス・アインウルフは理解している。馬の扱いに長けた紳士は、主を失い、戸惑っている軍馬に視線を向けていた。
舌と歯を使い、チチチと音を奏でていたな。
軍馬をその音と、おそらくはアインウルフの身振りにより、安心を得ていた。アインウルフを帝国軍の『仲間』と判断したらしく、自ずとアインウルフの前に駆け寄り、アインウルフの手に鼻を撫でられ、その背中を許していた。
「いい子だぞ」
「ヒヒン」
……殺した敵の馬に懐かれるとはな。さすがの一言だ。調教で培われた馬への合図を悟っていたらしい。耳で盗んだのか、それとも、想像を超えるベテランの経験値が成せる他の技巧が働いているのかは不明だ。
馬の扱いに関しては、やはり天下一の男かもしれん。メイウェイもかなりのものだろうが、メイウェイを超える馬術の経験値を持つのが、ヤツの師匠であるマルケス・アインウルフということだ。
……さてと。感心している場合でもないな。オレも目の前にやって来て、馬から下りた剣士の相手をしてやろう―――こいつは、少なくとも、この集団の中では一番の腕前を持っている。指揮官ではないようだな……そして、その品の良い顔から思うこともある。
「貴族か?」
「……帝国の騎士だ。アルノア伯爵に使えている……」
「アルノアの懐刀の一人か。偵察に出て来るとはな」
「望んだのさ。私は、兄をお前たちに殺されたからな」
「仇討ちか。だが、オレは『パンジャール猟兵団』だ。残念だが、『イルカルラ血盟団』のメンバーではないぞ」
「……分かっている。だが、お前たちだろう?伯爵のシャトーを襲撃したのは。手際が良すぎたと聞いている。バルガスの部下の犯行でなければ……お前のはずだ、竜騎士」
「ああ。君らの留守を襲って攻撃した。来るがいい。オレは、君の挑戦を受ける義務があるようだ。騎士道に則り、君にオレを殺すための機会を与えよう」
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