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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その八


 カレーを包んだナンを呑み込むように食べ終わる。腹いっぱいって程じゃないが、満腹感は後から追いついてくるんじゃないかと予想している。あのカレーは濃密だったからな。栄養価は高いはずだ。


「慌ただしい食事じゃあったが、美味かった」


「口に合ったなら何よりのことだ。やはり、砂漠の行軍にはカレーがいい」


「『メイガーロフ人』の格言なのか、ドゥーニア姫よ?」


「そうじゃない。あくまでも、個人的な意見。でも、壺入りのカレーなら砂嵐の中でも食べられるから、オススメだと思うのよね」


「……もぐもぐ……砂嵐の中で、カレー……?」


「そう。カレーの壺を二人一組ぐらいで囲んで、砂があまり入らないようにしてカレーを貪ればいい」


「……そ、それは、ワイルドっすね……」


 細い目をしながらの感想だった。カミラはその壮絶な光景を頭に浮かべているのだろう。激烈な砂嵐に包囲されたなか、壺からカレーを取り出しては吸い込むように食べていく戦士たち……なかなかの光景だ。ワイルドを通り越して悲惨さを放っているように感じるね。


「砂が入らないようにするの、とっても難しそうっすよ」


「完全には無理だな。あきらめが肝心だ」


「……砂、カレーのなかに入っちゃうんすね。それを、モグモグしちゃうと、奥歯にジャリジャリってコトになりそうっす……」


「なるぞ。もちろんな」


「……わー。砂漠、やっぱり、ハードっすよ」


「飢えるよりマシじゃないか」


「そりゃそうだが」


 感心するような、その大変さに同情しちまうような。『イルカルラ砂漠』を旅することは、かなり困難を強いられることでもあるわけだ。


「団長」


 あっちのディナーも終わったのだろうな。ガンダラが姿を現していたよ。


「何だ?」


「ちょっとした作戦を思いつきました。私ではなく……彼らのアイデアですが」


「ほう。どんなコトを思いついたんだよ?」


「帝国軍を混乱させるんです。ゼファーでアルノア軍を後方から襲撃して、北西に移動する」


「北西っすか?……どうして?」


「そちらの方角には、昨日までは『イルカルラ血盟団』の拠点の一つがあったじゃないですか、カミラ」


「はい。そうですね……あ。もしかして、まだそこにドゥーニア姫さまたちがいるように見せかける?」


「そういうことです。実際は、誰もいませんがね。そうですね、ドゥーニア姫?」


「ちゃんと退避させているぞ。拠点を探して見つけ出せたとしても、誰もいない……敵を誘導してくれても一向に構わない場所だな」


「ムダに偵察させてやりましょう。アルノア軍に、少しでも多くの混乱をもたらすことが出来るかもしれません。もちろん、行動するかどうかは団長の判断次第ですが」


「オレがガンダラの持って来たアイデアを断ることは少ないさ。それに、ドゥーニア姫も期待してくれているようだしな」


「期待しているぞ。わずかでも、アルノア軍の動きが遅くなれば、逃げ切りやすくなる。それに、砂漠を走らせる距離が増えれば、わずかでも疲れさせられる」


「スタミナを潰す。焦土作戦と同じく、地味ですが有効な作戦ですわね」


「……だが、こちらも疲れ過ぎることは懸念だ。ソルジェ・ストラウス、ゼファーやお前たちは大丈夫なのか?」


「多少は疲れているさ。カミラたちほどじゃないが、連戦している」


「そうだろうな。ならば、敵に姿を見せるだけでも―――」


「―――それはダメだな。ちゃんと、敵を十数人は殺しておくよ」


「……竜の炎は、魔力を大量に使いそうだが?」


「使うな。それでも、一撃は入れて来る」


「理由があるのか?」


「ちゃんと攻撃して殺しておけばな、竜の姿を空に見る度に怯えてくれるようになるからだよ」


 姿を隠すことのメリットは消えた。こちらの存在はバレてしまっている。ならば、より深く恐怖してもらおう。いつでもいきなり殺される危険があるのだと、思い知るといい。


「……心理戦も仕掛けるわけか。やるな、『パンジャール猟兵団』」


「戦争のプロだからな。恐怖を与えて、敵をコントロールするってのも、猟兵の哲学の一つなんだよ」


「では、団長。あの二人と共に行って来て下さい」


「ああ」


「自分たちは?」


「休んでいてくれ。カミラは浄化騎士団とも戦っているんだからな」


「でも……」


「カミラ、猟兵は休むことも仕事の内ですわ」


「……っ!は、はい。そうでした。ガルフさんにも、言われていたっす!」


「休むと言っても、外交は大事だ。オレたち猟兵が仲間だということを、幹部たちにも伝えておきたいしな。ガンダラ、愛想良くやれよ」


「私としてはいつだって社交的なつもりですがね」


 無表情のポーカーフェイスは自覚症状がないらしい。まあ、愛想良いガンダラなどを実際に目撃すれば、かなり気持ち悪いだろうがな……。


 カミラとレイチェル、綺麗どころに愛想は担当してもらうとしようか。


「それでは、行ってくるぜ」


「お気をつけて!」


「……ラシードを挟むようにして下さい」


「分かってるよ、ガンダラ」


 ……心配性でマジメな巨人族の副官殿のアドバイスだ。聞いておくことにする。ガンダラは、まだアインウルフを完全には信用していないのかもしれないな。敵の敵、という認識だ。


 まあ、その認識こそが正しくもあるわけだからな。オレはアインウルフが今になって裏切るような男だとは、まったくもって考えちゃいないわけだが……それでも理性的に行動した方が危険は少ない。


 カミラを安心させることにもつながるしな。


 こちらをじーっと見つめてくる愛しのヨメの頭を、二秒間だけナデナデした後で、オレは砂を尻尾の先でペシペシ叩いて遊んでいるゼファーのもとに向かうのさ。オレのお供をしてくれるベテランたちは、すでにゼファーの側に立っていた。


 ……いい機会だな。この二人とも話し合っておきたくもある。ガンダラは、おそらくその時間も作ってくれたということだろう……。




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