第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その一
第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』
そうだ。メイウェイと組むことには、わだかまりがありはするが……勝つための手段はそろいつつある。焦土作戦と、地の利……メイウェイとの協力で手に入るであろう『ガッシャーラブル』の城塞と、十分とは言えないものの戦力。
足りないものは多いが、いつものことじゃある。
『みえたよ、『どーじぇ』、どぅーにあ!』
ゼファーの声が砂漠のなかを歩く、『新生イルカルラ血盟団』との邂逅を告げる。オレたちは帰って来た。
「さっそく仕事に入るか?」
「頼む。さっきの手順の通りに」
「了解した。竜の威風を君に貸してやろう。ゼファー、彼等の周りをゆっくりと飛んでくれ」
『らじゃー!』
「……あ、あの!ソルジェさま、自分が先頭であるよりも、ドゥーニア姫さまが先頭にいた方が伝わりやすくないでしょうか!?」
ちょっと困った顔になっているカミラが、こちらを見つめて来ていたよ。困った顔を見るのも楽しいことだが、そんな意地悪を満喫している場合でもないか。
「カミラ、ドゥーニア姫と交替してくれ。リーダーが三番目から話すというのも、カッコ悪いからな」
「そうっすよね!な、なんだか、自分、変な緊張をしてしまったすよう」
竜の背の先頭にいれば、当然ながら『イルカルラ血盟団』の全員から注目されるただろう。姫さまに任せるべきポジションじゃある。
「では、ドゥーニア姫さま。自分と場所を交替しましょう」
「どうするの?貴方のダーリンに腕を回しながら位置を替えるってこと?」
「ええ!?そ、そんなことしなくても大丈夫っす。自分の力で、一瞬でチェンジっすよ!」
「え?」
「『闇』の翼よ―――』
カミラが第五属性、『闇』の力を解き放つ。カミラの影が翼を広げた竜のように大きく視界を走り抜けていく。愛しい気配がオレを包みながら流れて行き、ドゥーニア姫をやさしく抱きしめるのさ。
「な、なに!?』
一瞬の早業だったな。『闇』に呑まれて影へと変化したドゥーニア姫とカミラは、その位置を交換していた。オレの目の前に、砂漠の戦姫の背中が見えたよ。日焼けした褐色の肌が健康的な美しさを持っているな。
「ソルジェさまー」
カミラの声が右の耳元から聞こえていた。オレの背後を取ったカミラは、その豊かな胸を押しつけながら、オレの耳に口づけしてくる。姫さまの美しい背中をのぞき込んだことに、ちょっとぐらいプンスカなのだろうか?
オレの最愛の妻はカミラとリエルとロロカ先生だけなんだがな。
胴体に回した細い腕でギュッと抱きしめて、リスさんみたいに膨らませた頬をオレの耳に、もっと柔らかな二つの物体を背中に押しつけてくる、やわらかくて気持ちいい。
嫉妬など不要なのにな。どれだけオレがカミラを愛しているかは、このやわらかな二つの物体がよく知っているはずなんだが……。
「な、何が起きたんだ……?」
間違いなく目をパチクリさせているであろうドゥーニア姫が、疑問を口から放っていたよ。驚かせてしまったのか、彼女の長い脚はゼファーの首を絞めるようにしているな。
「オレの最愛の妻の一人であるカミラが、特別な魔術を使って君と自分の場所を入れ替えてみせたのさ」
「そ、そうなのか……しかし、『風』も『雷』も『炎』の魔力も感じなかったが?」
「オレの妻なのだぞ?驚愕に値する力を持っているものさ」
「はい。自分、ソルジェさまの妻ですから!」
「……『パンジャール猟兵団』の猟兵ってことか。シロウトのような気配も感じていたのだけど……認識を改めよう」
『かみらはね、とってもつよいよ?』
「え、えへへ。ゼファーちゃんに褒められちゃいましたっす!」
「事実だからな。カミラは、とても強い、オレの妻に相応しい女さ」
左腕をカミラの腰に回して、最愛のカミラ・ブリーズを持ち上げる。夫婦だから、体の動きを合わせるのも得意でね。カミラの長い脚と腕も、オレの願望に応えるように動いてくれる。オレはカミラをお姫さま抱っこにしてみたよ。
「ソルジェさま……まだ太陽に見られているっすよう?」
「愛し合ってる夫婦だから、真っ昼間からいちゃついてもいいのさ」
「ですよねー」
イタズラっぽく笑ったカミラの唇が、オレの唇を奪う。やわらかな唇を囁くように動かして、熱い舌を絡めるように動かして、愛を形にしてみたよ。
「……竜騎士は昼間っから積極的ってことね」
どこか呆れるような顔になりながら、ドゥーニア姫はストラウス家の夫婦愛の強さを評価してくれていたよ。カミラの名残惜しげな動きから解放された唇をニヤリと歪ませる。
「新婚なんでな。いつでもラブラブなんだよ」
「はい。自分たち四人夫婦は、新婚なので、ラブラブっすう……」
火照った顔と潤んだ瞳でそう言われると、場所も弁えずにいちゃつきたくなる。だが、オレだって生殖本能だけで生きているわけじゃない。
背後にガンダラもいるしな。見ちゃいないが、きっと呆れ顔だろうさ。その後ろにいるラシードやアインウルフも。
空気を読める賢いカミラは、オレの腕のなかで身をよじり、オレの脚の間に帰還する。
「あ、あの。時間をお取りしましたっす。で、では、お仕事の方を再開しましょう」
「ハハハ!……愛にあふれた楽しい仕事場かー。ちょっとだけ緊張感が緩んだ。ソルジェ・ストラウス、そういう作戦だった?」
「いいや。愛ってのは計算じゃなく衝動的なものってだけだよ」
「砂漠の愛は駆け引きだけどね。でも、また一つ気が楽になったのは事実よ」
苛烈な烈女の仮面を作ることも、かなり心を磨り減らしちまうらしいからな。大仕事の前には、やはりヒトはニヤリと顔を歪ませておくもんだ。砂漠の戦姫は、空を見ている。ニヤリと笑って、太陽を浴びて、力強い仮面を作るのさ。
「オレたちの愛は多くの人々に力を与えるな。ガンダラ、呆れ顔は止めてくれよ」
「呆れてはいませんよ。効果的な作戦だったようで」
「いいえ。ガンダラさん、ただの本能的な衝動のラブっすから。そこ、大事なとこっすよう?」
ポニーテールをリズミカルに揺らしながら、オレのカミラはそう語った。そうさ、本能から来るってところは、大事な要素だな。理性が利かないぐらい、ラブラブってことなんだよ。
「……了解しました。団長とカミラの衝動的な愛は偉大なことですな」
褒められているっていうのに、どこか、額面通りに受け取ることが出来ないときもあるものさ。皮肉ってのは、そういうものだ。
ムダに呆れられないように、マジメに仕事に励むとしよう。
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