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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その九十三


「では、行こう」


 オレはゼファーの背から降りて、騎士の義務として姫君に手を貸すのさ。


「すまんな」


 砂漠の姫君は気高さとワイルドさが織り交ぜになった声と態度で、オレの手を支えにしながら砂漠へと降りた。


「では、行こうか」


 先陣を切って歩きたがるのは、彼女らしいリーダーシップの表れかもしれない。オレとガンダラは顔を見合わせると、護衛の任務を果たすためにドゥーニア姫の左右について歩いた。オレは彼女の右側を守り、ガンダラは左側を守る。


 護衛を引き連れるように、背の高いドゥーニア姫は鼻歌まじりに砂漠を歩く。慣れた足取りだ。オレは、その足運びをしばらく観察していた。魅力的な長くてしなやかな脚を見つめているわけじゃなく、その動き方と指の使い方なんかを見ている。


 ……もちろん、美しい脚にも興味はあるがな。ふわりとした生地の民族衣装に包まれた長い脚に、引き締まったヒップは素晴らしい美的な造形ではある。だが、砂を歩くための躍動にこそ、惹かれるものがある。


 砂を弾むように踏む。すべる砂を乗りこなすみたいな動き。オレもマネしたいところだが、体重の差のせいでアレンジがいるだろう。リズムを盗み、膝と骨盤の動きを真似る……砂を踏み込む足の裏に、今までになく砂を掴むような感覚を得る。


 悪くない動きだ。


 砂漠を歩くための動きは、砂漠の民からこそ学ぶべきかもな。骨盤を動かして踏み込むか。縦に走ることには向きそうだな。ドゥーニア姫の得意な技巧を放つためには、いい動きか。横の動きはやはり弱めか。


 砂漠を歩く美しい戦姫の脚を見て、オレは何度かうなずいた後、敵の姿を見た。


 メイウェイたちも、三人でこちらに向かって歩いて来る。


「三人で来るとは、オレたちも舐められたものだな」


「対等な取引を行いたいのでしょうな」


「メイウェイらしいことだ。アイツは、見栄っ張りではない。だが、負けることを嫌うのだよ。それに、今日はたくさんの怯えたギャラリーがいる」


「力を示したいか。オレたちではなく、部下に」


「竜騎士の戦いに、ビビっているようだ。メイウェイのベテラン騎兵どもが、あれだけ落ち着きのない動きをしているのは、珍しい……今にも馬を突撃させてしまいそうだ」


 視線の遙か先に並ぶ古強者の騎兵どもは、馬の背に乗ったまま、こちらをじっと睨んでいた。


 たしかに、落ち着きがない。馬は、その場でくるくると回っている。西から鋼のにおいが流れて来るせいか、馬どもが落ち着いていないし、それを御するための余裕が兵士どもにはない。


「彼らも迷っているのでしょう。帝国軍との争いを、望んでいたはずもない」


「望もうが望むまいが、どうあれ手遅れよ。私たちとしては恫喝するには、いい状況だ。利用させてもらおう」


「頼りになる姫さまだ」


「まあね……ランドロウ・メイウェイ!!そこにいるだろうな?」


 熱気に揺らぐ砂を踏みつけながら、ランドロウ・メイウェイは大きくうなずく。焦げ茶色の猫毛の髪。日焼けした精悍な顔立ちの男。ランドロウ・メイウェイがオレたち三人を見回すように鋭い視線を走らせた後で、その口を開く。


「そうだ!!ドゥーニア姫よ!!私は、ここにいる!!来てやったぞ、君らの申し出に応えてな!!」


「ハハハ!!そうか、腰抜けではなく、良かったよ。昨夜は、バルガスの一騎討ちの名乗りに乗らなかったというからな!!」


「一騎討ちの伝統は、帝国軍にはない。私は、戦場で死ぬわけにはいかない身だ」


「それは誰しもが共に思うことではある。戦場で死んで英雄になっただけでは、成し遂げられぬこともある」


「同意見だ。ドゥーニア姫よ……君は、『自由同盟』と手を結んだのか?」


「いいや。私が雇ったのは『パンジャール猟兵団』だけだ!!……あくまでも、この国のことは、この国に住む者の手で取り戻したいからな」


「良い判断だ。『自由同盟』には、『ハイランド』などの野心的な傾向を見せる国家もある。君の故郷を、奪われないように慎重に動くべきだぞ」


「オレの前で『自由同盟』の悪口を言わないでくれるかな、メイウェイ殿よ」


「……赤毛で片目。ガルーナの竜騎士か」


「そうだ。さっきの戦いは、見事ではあった。敵ながら、それは褒める」


「貴殿もな。あの戦場を支配していたのは、短い時間ではあったが、君たちだった。おかげで、我々は反逆者に正当性を与えるような戦いをしてしまった」


「脱線しないでくれるか?……私との交渉の時間だぞ」


「……そうだったな。それで、ドゥーニア姫よ。何を企む?」


「メイウェイ、アンタは帝国の敵となったな。アンタだけでなく、アルノアに逆らったアンタの部下共々に」


「……沈黙で誤魔化すことは、君には出来ないか」


「当然。私は、竜騎士ソルジェ・ストラウス殿を雇っているのだ。知らぬことなど、私にはない」


 ……感動するほどのハッタリだな。眉一つ微動だにさせることもなく、そんな風に言い切れる態度には感心する。


 メイウェイに通じるのか?……そいつは分からない。だが、賢いヤツってのは、ムダに考えてしまうこともある。オレたちも、アルノア・シャトーを探って、アルノアが傭兵を雇い、『ラクタパクシャ』を編成していたことの証拠をメイウェイに送り届けている。


 『パンジャール猟兵団』は、ずいぶんと前々からこの土地に介入していたと考えてくれるかもな。いくらか離れている距離が、オレのポーカーフェイスを補強してくれるだろうことに期待する。あとは高度な知性が勝手に深読みしてくれることにもな。


「……君らが何を知っているのかについては興味がある」


「大切な手の内は教えはしない」


「そうだろうね。君は、そういう戦い方だ。兵力が少ない時でも攻める。意外さの影に本性を隠すような用兵を好む……だが、そろそろ兵士も尽きつつあるはずだ。バルガス将軍は君に新たな組織と結束を継がせるために、『メイガーロフ武国』の兵士たちと共に、我々に特攻したな」


 バレていたか。驚くようなことじゃない。知恵の利くヤツってのは、そういうものだ。予想だけで、現実の世界にどこまでも似た状況を頭のなかに再現することが出来てしまうのさ……。


「君たちは、戦力が無いはずだ」


「ハハハ!!……それはお互いサマだろう、メイウェイよ」


「……否定はしないよ。『ガッシャーラブル』の兵力と合流したとしても、アルノア伯爵の軍勢には劣るだろう」


「そうだ。私たちも、貴様たちも、同じような状況で、同じ敵を持つ」


「……ああ。認める。その通りだが、それがどうした?」


「率直に言う。手を組め、ランドロウ・メイウェイ。私たち『新生イルカルラ血盟団』とな。もしも、断るのであれば、私たちが貴様らを襲撃する。北と南から挟撃して、一人残らず、あの世行きだ」



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