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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その八十八


 『自由同盟』のスパイとしては、オレの仕事は失敗しているかもしれない。


 アイリス・パナージュ『お姉さん』は教えてくれたんだぜ?スパイってのは、『非公式な外交官』だってな。オレは、結果として『イルカルラ血盟団』の現在のリーダーであるドゥーニア姫に、『自由同盟』を信頼させることは出来なかった。


 ……『自由同盟』のスパイとしては、確実にこれは失敗したと言える行為になるだろうよ。アイリス・パナージュ『お姉さん』がここにいたら、叱られちまいそうだな。だが、すべきことはしている―――言い訳かもしれないが、時間が足りなかったことが大きい。


 信頼関係を数日で築くことは不可能だ。四日前のオレは、『メイガーロフ』という国があることさえ知らなかったんだからな……。


 信頼を作り上げるには、あまりにもオレたちに接点は少なかったか。


 勝利と言っていいところは、『パンジャール猟兵団』に対しては信頼してもらえていることだろう。両親の指輪を依頼料に寄越すぐらいには、『パンジャール猟兵団』は信頼を勝ち得ている。


 ナックスを助けてやったからかもしれないし、バルガス将軍と共に『ザシュガン砦』での戦いを行ったからかもしれない……ドゥーニア姫の与り知らないところで、オレたち猟兵はがんばっていたんだぜ、と主張してみたい。


 もちろん、今ではなく別の機会にな。


 ……今は、人生と命を賭けた選択に挑もうとしている姫君の覚悟に、敬意を表する時間であるべきか。


「……メイウェイと手を組む。そいつを断られたら、死を覚悟してでも、ヤツを殺すと来たか」


「そうだ。間違っていると思うか?」


「いいや。その覚悟は嫌いではない……帝国人と組むことは、どうしたって腹が立つが、君の覚悟を前にすれば、耐えられそうだ」


「私に感化されたと?」


「どうだろうな。君の覚悟を見ていると、オレの執着が持っている非合理的な部分が分かってな」


「ハハハ。そういうガンコなところは、戦士に特有なことなのだろう。バルガスにも似ている。不器用なのだ、男の戦士という連中は」


「かもしれないな。感情的なところで、動いてしまうことがある……」


「女もそう変わらん。私だってな、ソルジェ・ストラウス。かなり、追い詰められているんだぞ」


「だろうな。落ち着きがなく、目が泳いでしまうところがある」


「……人相を読むのか、月を見上げる占い師のようだ」


「素敵な響きだが、そういうものじゃない。どちらかといえば、戦闘のために培った技巧の結果だな」


「私は怯えているように見えるか?」


「自分の選択にビビらないようにしている、そんな印象を受けるよ」


「戦士の勘も、捨てたものじゃないな。たしかに、そうかもしれない……私は、ビビりそうだ!」


 そう言い切りながらも、砂漠の戦姫はニコリと笑ったよ。女戦士らしい、野生的な勢いを感じるな……そして、それでも野蛮さを覚えないのは、生来の気品が備わっているからだろう。


 若い彼女は、そう自分で言う通りにビビっていた。覚悟は決めているだろうし、メイウェイが彼女の提案を受け入れなければ、さっき言ったことを実行するに違いない。ビビっていようが、ビビっていまいが、彼女は最高の戦士の一人であることに変わりはない。


 最高の戦士は、命の使いどころというものを悟れるものだ。


 『メイガーロフ人』の誇りを示し、積年の敵であるメイウェイと決着をつける。彼女は選ぶだろう。状況次第でな。


 彼女が怯えているのは、おそらく自分の命についてではない。


「仲間の命を背負うことに、戸惑いがあるか」


「……そうだ。ある。当然だろう?……私は、唯一の道だと信じているが。果たして、それで正しいのか……これは、おそらくだが、誰にも分からないことだ」


「結果が全てを決めるさ。指導者の判断の是非というものは、そんなものだ」


「ああ、そうだろうな……だから、ちょっとだけ怯えて、戸惑ってはいる。だが、理性は動いているつもりだ」


「理性が告げるか、メイウェイと組み、アルノアの軍勢を打ち砕くか……メイウェイを討ち取り、自分たちの墓標を飾るか……それしか選択肢はないと」


「私には、そうだ。『自由同盟』に恭順する道もあるのかもしれない。だが、知らなすぎるんだ、『自由同盟』も、クラリス女王もな」


「それでも、オレたちは信じてくれるか」


「もちろん。信じるぞ、『パンジャール猟兵団』。あの黒い竜と共に、そなたたちは多くの『メイガーロフ』の民を救ってみせた。『大穴集落』でも、『ザシュガン砦』の戦いでもな……それに、『ラーシャール』でもか」


「ああ。オレたちは、君たちの仲間だよ。それを証明するための戦いを行う。これまでも……そして、今からだってな」


「協力してくれるわけだ」


「当然な。それで、どうする、ドゥーニア姫よ?……時間はそうかけられないぞ。メイウェイは、『ガッシャーラブル』にも退くつもりだ」


「アイツにとっては、もはや最後の砦だな。アルノアという男が、まともな軍人なら、このタイミングで『ガッシャーラブル』には攻め込まないだろうが……」


「欲深い男だ。アルノアは動く。メイウェイを殺して、自分の罪を正当化する。死人に弁護人がつかないことは、珍しくないことだ」


「メイウェイを殺して、太守の座を奪うか……」


「その過程で、亜人種も皆殺しにされるだろう。可能な限り多くを、殺そうとするさ。そいつがヤツの『正義』ともなる」


「亜人種と組んだメイウェイは『悪』で、亜人種を殺す自分は『正義』か。狂っているように感じるよ」


「『正義』ってものは政治でもあるからな」


「勝てば正しいか」


「負ければ間違いだ。オレたちは、力で証明する必要がある。自分たちの『正義』をな」


「アルノアを殺してな……だが、今は、メイウェイだ。ガルーナの竜騎士、ソルジェ・ストラウス卿よ」


「何かな、『イルカルラ血盟団』のドゥーニア姫よ」


「私を、竜で連れて行ってくれるか?……メイウェイの軍勢のもとに。アイツとハナシをつける必要がある。それとも……この作戦にはついて来られないか?」


「すでに雇われた。メイウェイの身柄は、最終的にはオレたちがもらう。それで、問題はない」


「分かった。私の勧誘が成功したら、それでいい。失敗したときのことは、考えないようにする」


「……ククク!たしかにな。始まる前から、負けることを考えるほど愚かなこともないからな」


「そういうことだ」




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