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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その八十七


「聞かせてくれるか?……君が、どんなことを考えているのかな」


「私よりも戦歴の長い傭兵なんだ。理解しているだろうにな」


「君だって、浮かない顔をしているぜ」


「まあね。最良の道ではない。ただ唯一の道を歩くだけのことだ。ソルジェ・ストラウスよ。私は、ランドロウ・メイウェイと手を組もうと考えている」


「……やっぱりかよ!!」


 そう言い捨てながら睨みつける場所を探して、太陽を見上げていた。空に浮かぶのは巨大な熱源だ。見上げているだけで、さらに暑さが増していくな。顔面を走って落ちた汗が、イヤそうに歪んだ口の端っこにすべり込みやがった。


 塩の苦味を感じるな。クソ不味い感覚が、舌の動きまで固めてしまいそうだったよ。


「ソルジェさま……」


 心配するカミラがすぐそばにいた。ああ、いい年こいた経営者の取るべき態度じゃなかったということぐらい、ガルーナの野蛮人でも分かった。


 反省すべきだな。


 帝国人と組む嫌悪感―――アインウルフの時よりも、はるかに強い。何でだ?……アインウルフとは、直接、戦っているからだろうか?戦士としての実力を知っているからか?メイウェイについては、超がつくほど有能な軍人だと知っているじゃないか。


 それでも、このイヤな感覚は……体と心を縛りつけて来やがるんだ。


 ……だとしても、オレは冷静でいるべきだった。深呼吸して、無理やり落ち着いた気持ちになりながら、カミラを見る。心配そうな顔がそこにあった。アメジスト色の瞳は、どこか不安げに揺れているな。


 そうか。カミラにこそ無かったんだろう、メイウェイと手を組むという考え方なんてな。


「……大丈夫か?」


「は、はい。自分は、大丈夫っすよ……ソルジェさまは?」


「大丈夫だよ。オレは、どこかで予想をしていたからな……いいや。何度も、予想してはいたんだ。拒絶したいから、目を反らそうとしていただけだ」


「ソルジェさま……」


「そこまで帝国人と組むことが苦痛か、ソルジェ・ストラウス」


「当然そうだ」


「敵の敵と組む。悪くない手段だろうに」


「その論法でなら、君が組むのは『自由同盟』だっていいんじゃないか?」


「まあな。だが、決定的に違うことがある」


「『自由同盟』を、君は知らなすぎるということか……」


「よく分かっているな。そうだ。私は、あまりにも知らないのだ。『自由同盟』というヤツらが、どういうことをしたいのかな……」


「信頼は、言葉だけでは作れないか」


「行動がいるのだ。砂漠で信じられるのは、行動のみ。『パンジャール猟兵団』は『イルカルラ血盟団』と共に戦ったことがある……ルード王国のクラリス女王は、どんなヒトなのかも分からない」


「……メイウェイについては知り尽くしているわけだな、君は」


「痛いほどに。戦うことで理解していることもある。アイツを味方につけるための条件も私には見えている」


「……メイウェイの部下の安全を保証する?」


「そうだ。アイツはそれを条件にすれば、こちらに協力するはずだ。追い詰められているからな……それに、メイウェイの部下には『メイガーロフ』の民と家庭を持った者も少なからずいる」


「植民か」


「帝国化しようとした作戦もあるだろうが、混血など珍しいものではない。『メイガーロフ』は流れ者や逃走者によって創られた国でもある」


「……外から来た者を受け入れる文化があったわけだ」


「それに、メイウェイはそれほど『メイガーロフ』の民に嫌われているわけでもない」


「知っているよ。いい為政者でもあるらしい。亜人種にとっても、フェアな男のようだ。帝国人らしくはないが……」


「バルガスがいた頃には、アイツを組むことは難しかった。バルガスの『イルカルラ血盟団』は、あくまでも『メイガーロフ武国』の軍隊の継承者だった」


「君の『イルカルラ血盟団』は違うと?」


「確実にな。私は『メイガーロフ武国』の軍人ではない。それだけでも、全くもって大きな違いになる。私が目指すのは、『メイガーロフ武国』の再建ではなく、帝国の勢力をこの土地から追い出すことのみだ」


「ガミン王の時代のように、巨人族優遇の時代を創る気はないわけだ」


「もちろん。帝国は追い出し、私たち『メイガーロフ』人の手に主権を取り戻す。だが……メイウェイが創った『種族の平等』は継承する……私たちに出来なかったことを敵が成し遂げたことには腹が立つが、現実は受け入れなければな」


 ガミン王の時代よりも、メイウェイの支配下にあった数年間は多くの種族にとってフェアな時代だった。


 ……この国を駆け回ってみても、メイウェイを悪く言う者はいなかったことをオレは知っていた。


「ソルジェ・ストラウス。私たちも追い詰められているのだ。宿敵に頼ることは屈辱なのだが、『自由同盟』は他人過ぎて本音が読めず……アルノアの軍は強大だ」


「メイウェイの軍勢を利用すべきではあるな、戦力が君には足りない」


「『メイガーロフ』の全ての種族が結集したとしても、『イルカルラ血盟団』の総戦力は知れているのだ。アイツとその部下たちの戦力は欲しい。戦後にお前がメイウェイを『自由同盟』に連れて行ってくれるのであれば、なおのこと気楽に手を組めそうだ」


「オレの報酬が、君に決心させたか」


「皮肉なことにな。そなたが望んだ道とは異なるのかもしれないが、私は、その選択が最良だと判断している」


「で、でも……あちらが組んでくれるんすかね……?」


 カミラの指摘に対して、ドゥーニア姫は砂漠の戦姫らしい貌を見せることで応えた。獣のように鋭い瞳、鋭い犬歯を見せつけた微笑みは、戦士の質を強く反映させる輝きを放っていたな。


 彼女はすでに腹を決めている。


 メイウェイに対して、頼みに行くのではないのさ。無理やりに、力尽くで、勝ち取りに行く気だった。


「組まないと言えば、戦って殺すのみ。メイウェイの老兵は体力不足だろう。このタイミングで『イルカルラ血盟団』に攻撃されたら、連中は、かつての強さを発揮することは出来ない。協力関係を結べなければ、我々はアルノアに滅ぼされるのだ……旧敵メイウェイを討ち取って、最後の一花を咲かすという意地を見せるのもいい」


「脅すわけか。命がけで。手を組まなければ、メイウェイとその部下も、確実に殺すと言うわけだな」


「『イルカルラ血盟団』らしい行動のつもりだよ。私は、決して軟弱さを理由にして、メイウェイとの同盟を結ぼうとしているわけではない。勝利し、生き残り、私たちが主権を取り戻すための唯一の道だから選ぼうとしている。そのためなら、敵とだって組む」




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