第五話 『ドゥーニア姫の選択』 その六十八
『がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
砂を蹴散らしながらゼファーは苛烈な突撃を喰らわせるのだ、帝国兵どもは砂の遮蔽を突破してきたゼファーに成す術はない。
竜の牙が壮絶な速さで帝国兵へと噛みついた!偵察兵の軽装の革鎧などで、竜の力に抗うことは不可能だ。
避けなければならなかったのだが、崩れた砂丘に脚を呑まれている状態では、どうすることも出来ないさ。
ゼファーは敵兵を一瞬で噛み裂きながら、次の瞬間には振り上げた蹴り爪で槍を持つ兵士に竜の体重がどれほどの威力を宿しているのかを教えていたよ。
「ひゃぐ――――」
絶命の言葉は短く、大きな声でもない。戦場での死など、じつに軽薄なものでしかないのだ。死を飾りたければ、偉大な戦士として強さを発揮するほかないんだよ。
……舞い落ちる酸化鉄の赤色が混じった砂の帳のなかで、ゼファーの巨体は荒々しく躍動する。敵へと向かう竜のあぎと、空気を打ちつけて爆音を立てる尻尾の動き。蹴爪は振り上げられ、翼でも敵兵を砂地へと叩き伏せる。
竜の舞いは力に満ちていて、理想的な破壊の踊りとなり、爆撃を生き残った帝国兵たちを蹴散らして行く。
ああ、もちろん『ドージェ』もがんばるぜ?
……ゼファーの背から飛び降りていたオレも敵目掛けて走っていた。隠れたつもりはないのだが、ゼファーの動きがあまりにも圧倒的だったからな。
オレの存在は自動的にゼファーの影に隠れてしまっていたよ。こちらの姿に気がついたのは、爆撃に焼かれた馬の死体から這いずり出て来たばかりの兵士だけだ。
「け、剣士もいるぞ!!竜に乗っていた、蛮族の剣士だあッ!!」
仲間にオレの襲撃を告げるために叫びつつも、そいつは剣を抜き放つ。目の前に迫ったオレに、兵士は斬撃を入れてくる―――悪くない太刀筋だ。練度を感じさせる剣であったが、竜太刀の威力を受け止めるには実力不足じゃある。
ガギキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンッッッ!!!
ぶつかり合う鋼が火花を残す……睨みつける帝国兵の視線を浴びながら、オレはそのまま竜太刀を押し当てて帝国兵士の体勢を崩してやるのさ。悪くない腕だが……今は少しばかり忙しい。剣術の競り合いを楽しんでいるわけにもいかん。
「はあ!!」
「ぐう!?」
竜太刀を振り抜き、帝国兵の手から剣を奪い取る。宙へと飛んだ鋼を、コイツはすぐにあきらめていた。いい判断だ。砂地で崩れてしまった体勢では逃げるためのステップを踏めないことも承知していたよ。
腰裏に忍ばせていたナイフを引き抜き、オレへ飛びつこうと試みる。いい判断だがな、竜太刀は、その技巧も戦術も、一刀のもとに斬り裂く。
ザギュシャアアアアアアアアッッッ!!!
革に編み込まれた薄い鉄のプレートを一瞬で断ち斬りながら、組み付いて来ようとしていた帝国人の胴体を深々と竜太刀の斬撃で破壊する。
……斬られた体は動きを止める。筋肉も骨格も断ち斬られたそいつは、体を連動させることなど出来やしない……トドメを刺してやりたくなった。技巧と鍛錬へのリスペクトを示したい。
体を反転させながら、竜太刀で断首の軌道を描いていた。頸動脈を裂く一撃……胴体だけからでなく、ヤツは首からも出血を始める。首と胴体からの大量出血だ、一瞬で意識を失えるだろう。死の安らぎも、すぐに来るさ。
リスペクトのために3秒費やして、オレは次の獲物を目掛けて走り込む。敵兵は合流しようとしていた。崩れた砂丘に巻き込まれながらも、基本的な戦術を実行しようとしている。悪くない練度と集中力だ。
三人の敵は剣を抜き放つ者が二人と、弓を構えた者が一人。ゼファーのことを矢で射ようとしていたのだろうが、オレへと目標を変えてくれた。それでいいのさ。『ドージェ』として、ゼファーがムダな傷を負うことは好まん。
「連携するぞ!一斉にかかれ!!」
「おう!!」
「やれ!!」
連携するなら無言ですべきじゃあるが、確実な連携を取れるという意味では評価できるところもあるな。
剣を構えた帝国兵どもが、左右からオレに迫り―――その背後にいた弓兵は、絞りきった弓から勢いよく矢を放ちやがる。飛来する矢を竜太刀で叩き落とす。弓兵のヤツは嗤っていやがったな。
オレが矢を打ち払う動きを使ってしまったせいで、剣士どもに対応できんとでも考えたのだろうが……飛び道具が自分たちだけにしかないと考えるのは浅はかだ。矢を打ち払いながら、太ももに備え付けていたナイフを抜いている。
逆手に握ったそのナイフを、左側から走り込んでくる剣士に投げた。猟兵相手に真っ直ぐと駆け込むことのリスクだな。身を躍らせながら、隠すようにして投げたナイフは、ヤツ自身の加速も手伝って、勢いよくその腹へと突き刺さる。
「ぐううッッ」
痛みと衝撃のせいで、せっかく合わせていた突撃の連携が崩れてしまったな。3歩もムダに、してしまった。そのおかげで、一対一で右から来たヤツと戦える。
「くそ!!」
苦々しそうに貌を歪ませ、吼えるように開いた口の奥に欠けた前歯を剣士は見せた。斬撃を打ち込んでくるが、さっきのヤツよりはるかに軽い。体重も軽い剣士だ。偵察兵には向くが―――戦闘用の体躯とは言いがたい。
力を入れる―――フリをしたのさ。ヤツは全力で刃の競り合いに備えて前掛かりになり、オレにその勢いをすかされて前のめりに崩れる。力尽くばかりが剣術ではない。崩れたそいつの腹を斬り裂きながら前進する。
弓兵に復讐してやりたくなっていたからな。弓兵は接近するオレに向けて弓を構えて矢を放とうとしていたが、仲間の動きを見すぎていたせいで動きが遅れていた。
「ひい――――」
竜太刀が解き放たれる寸前の矢を打ち壊し、ヤツの左手首も斬り裂いた。逃げようと後に崩れ落ちる弓兵に、オレは沈み込みながらの突きを放ち、竜太刀の先端を突き立てていた。
須弥山の技巧さ。シアン・ヴァティに比べると劣るが、威力だけなら十二分にある突きの一撃だ。敵兵の胸を穿ちながら、手首を踊らせ、竜太刀の刃でそいつの傷を広げてやるように上に向かって乱暴に竜太刀を暴れさせる。
それで十分だ。
振り返りながら、腹にナイフを突き立てたまま、こちらに向かって歩いて来る敵を見た。褒めてやりたくなるが、すみやかな死を与えてやるほうがこのアゴ髭が似合う男にとっては幸福なことだろう。
鋼を放つ。ろくに動けない兵士に、死の安らぎを与えていたよ。返り血の雨を突破して、オレはゼファーに向けた走っていた。ゼファーの援護ではない。すでにこの爆破された砂丘は制圧済みだ。
作戦を実行するためだ。オレたちは、アルノアの軍勢とメイウェイの軍勢を衝突させてやらなければならんのだからな。
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