第五話 『ドゥーニア姫の選択』 その四十九
ギュスターブの剣を見ていると、当然ながら血が踊る!!
負けてはいられない。
戦士の意地に衝動されて、オレはゼファーの背から飛び降りる。砂を踏み、衝撃を全身に奔らせるのだ。反動を使って、より速く走るためでもあるし―――体を戦闘態勢に持ち込むための儀式でもある。
衝撃で目を覚ませるのさ。戦いの場にいるということをな。
地を這う獣のように四つ脚だ。重心を低くする。速さと鋭さを体に宿すために。指先で砂を圧迫する……砂はすべるから、ちょっとは気をつけろと自分自身に言い聞かせた後で、オレは迫り来る『ガオルネイシャー/醜い砂漠の怪蟲』を目掛けて加速していた。
ゼファーとギュスターブが倒しちまったのは一匹だけだ。まだ二匹いる。あるいは、たったの二匹しかいないとも言える。背後に感じたからな、ラシードとアインウルフの気配をだ。
あの二人もまた戦士として力を見せようとしたがっているのだろうが……アインウルフは相変わらずか。武器など持ってもいないだろうに、戦場に飛び出しやがったな。オレはニヤリと微笑んで、そのまま『ガオルネイシャー/醜い砂漠の怪蟲』の一匹へと飛びかかる。
獣の速度で砂を蹴散らしながら走り、竜太刀を抜き放つ―――砂嵐に紛れて声たちが竜太刀を抜き放ち軽くなった背中へとぶつかる。
「……何を考えている、アインウルフ!?武器も持たずに!?」
「気が逸ってしまってな」
「私の背後にいろ!!」
「そうしよう。君が窮地のときには、援護する」
「犬死にはするなよ」
「もちろんだ」
ラシードとアインウルフのベテラン・コンビは、北からやって来る不細工なモンスターの対応をするつもりらしいが……カミラ・ブリーズがその方角には跳んでいたことを、オレは気づいている。
猟兵としての役目を果たすのさ。
こちらから命じられるまでもなく、モンスターと戦う。ラシードとアインウルフも強い戦士には違いないが―――猟兵こそが最強なのだ。
『ぎぎぎぎぎぎぎきききいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!』
砂嵐の叫び声を貫くように、蟲型モンスターの奇声が矢のように襲いかかってくる。無数の目玉に左右に開かれた大きなアゴ、不細工極まりない巨大な顔面が、オレを見つめていやがったよ。
モンスターの口からは粘着質の唾液が滝のようにこぼれていたな。光栄に思うことでもないが、オレを『美味しい肉』だと判断しているようだ。捕食者気取りの巨大なモンスターには腹が立つが……オレを恐れぬ原始的な殺意を感じられることは、一種の心地良さもある。
強くて巨大でどう猛なモンスターとの殺し合い。
ああ、なんて魅力的な時間なのだろうかと唇が歪み、狂暴さを宿す牙を見せつける。『ガオルネイシャー/醜い砂漠の怪蟲』はヒトの表情を理解するような繊細さを持っちゃいのだろう。そのムダに長い脚で砂地を蹴り上げると、空高くへと跳躍していた。
オレを上空から押し潰そうという考えをしているようだ。
悪くない。
これだけの砂嵐なら、上空へと飛べば姿を隠してしまうことは容易い。そういう戦術を何度も試みて、今までもこの『ガオルネイシャー/醜い砂漠の怪蟲』は何人もの『メイガーロフ人』や、この砂漠を歩き抜こうとした商人たちを食い殺してきたのだろう。
名前も知らない人々のために……オレはこの凶悪なモンスターを殺してやるべきだな。そう考えながら、獣の速さをさらに鋭く上昇させる。狙うのは一つだった。跳んだバケモノの腹の下をくぐりぬけるのさ。
ヤツはオレがそう動くとは考えてもいなかったのかもしれない。多くの獲物はヤツの跳躍にビビってしまうんだろう。体を固めて、動きを止める。そこにヤツは長い脚を大きく広げて落下していき、そのリーチに獲物を捕らえてしまう。
だが。
オレはそういう戦術では捕らえられないことを教えてやったのさ。空振りしたヤツはそのまま砂漠に落下する。大した痛みではないだろうが、オレを見失ったことで混乱をしていたようだ。
不気味な頭がくるりと動く。そいつを見ていた。オレはとっくの昔に振り返っている。砂に脚を埋めるようにしてブレーキをかけた。俊敏な山猿みたいに身を屈めながら歩法を使い、素早く方向転換しいる。
ヤツの背後を取ったのさ。
そのための加速だったし、それは成功した。
ヤツの不気味な頭がそれに気づいたようだ。おかしげな角度のままで固定し、長い後ろ脚で、オレを打ち払うかのように伸ばしてくる。鋭く巨大なトゲが無数に生えた脚だ。丸太のように巨大だったが、デカいくせに速いと来ていたよ。
オレは身を捻って、その突き出されてきた巨大な脚の一撃を回避する。オレの動きを予想していたのか、それとも、ただの原始的な反射の連鎖なのか、『ガオルネイシャー/醜い砂漠の怪蟲』は二発目の蹴りを叩き込もうとしていた。
長い脚が砂漠から持ち上がり、『く』の字に大きく曲がっていたよ。だが、それが伸びきることをオレは許すことはなかった。
ヤツのふところに入っているのだ。
一方的に攻撃されることばかりを選んでやるほど、ストラウスの剣鬼はやさしくはない。
竜太刀を振り抜いていた。
ギュスターブ・リコッドを超える速さと、ギュスターブ・リコッドの斬撃の威力を重量を込めてな!!
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