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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その四十六


 強者に挑む時には戦士という存在は、『それ』を行うものだ。ゼファーは好奇心とプライドに衝動されて、その偉大な血脈の証である黒い背中を一瞬だけ震わせていた。強敵に一秒でも早く挑み、勝利したいという戦士ならではの感情がその現象を呼んでいる。


 武者ぶるいというものだ。


 ゼファーは集中しているから、自分の身体がそれを起こしたことに気づかない。オレも指摘することはないのだ。今は沈黙を使って集中力を研ぎ澄ませる時間だ。赤茶色いく濁った砂嵐の奥に……オレたちの得物はいる。


 『メイガーロフ』の太守であるメイウェイ大佐がな。『彼女』がメイウェイと行動を共にしていない可能性は少ないだろう。他に行くべき場所は、どこにもないさ。今は体中に油でもかけられた気持ちになっている。


 粘りつきながら絡んでくるのさ、罪悪感ってのはな……。


 仲間殺しの罪が、そしてその呪いが彼女を義務感に縛るだろう。殺した男が潔白であった可能性に対して、自分の献身で補償してみたくなるのが戦士という生き物だ。とくにマジメな人物はそうなのさ。


 信じているんだよ。


 君は、マジメな戦士だということをな……君のとなりにメイウェイはいる。そのおかげで、メイウェイは死から免れることになるだろう―――集中すればいい。オレたちは、ただ竜と竜騎士としての任務を全うすれば良いだけのことになる。


 金色の眼と青色の目に力を込めて、砂に濁った空を見た。風を見ているんだ。竜騎士には風が見える……とくに、砂なんかが飛んでくれている空は、いつもの何倍も分かりやすいものだ。


 ……ゼファーも感覚と経験値を練り合わせている。体の奥底に流れる竜としての誇りが、あの暴れる風を支配したいと考えているんだよ。竜は、力だけで風を統べることはしない。洗練された空の王者は、風と共に踊ることを望む。


 風を知り尽くしてこその竜だからな……まあ、全くの力の行使なしに攻略させてくれるような風じゃないのも事実だ。


 轟々と唸る空。まるで地崩れしているみたいだな。


「……空で聞く砂嵐の音は、いつもより大きく感じないか、ラシード?」


「……ああ。おそらく地上と違って横と上からだけではなく、下からも風の叫ぶ音が聞こえるからだろう」


「地上じゃ、もっとマシなわけだ」


「ここまでの音じゃなかったな……空というのは、じつに興味深い場所だ。素晴らしい馬の背に比類するほど居心地が良さそうな場所だ」


「そういう言い方してると、サー・ストラウスが機嫌を悪くするんじゃないか?」


「彼は集中しているさ―――愛しい竜と共に、課題に挑むのだから」


 馬術の大天才には共感できるトコロがあるようだ。そう。気にならない。竜至上主義者である竜騎士に、馬の背と同等という言葉を使われたとしてもな。


 他の男ならばともかく、アインウルフは別腹でもあるからだ。馬術の大天才は、その言葉を最良の褒め言葉としてしか使わないことを分かっている。


 ……砂を避けるためにローブのフードをかぶり、オレの腕のあいだにいるカミラも沈黙を貫く。集中させてくれているんだ。レディーの気遣いだぞ、ゼファー。ガルーナの竜と竜騎士は、それに応じて素晴らしい仕事をしなければならん。


 集中し、得物に喰らいつく獣の貌になりながら―――オレはゼファーに合図を送った。ブーツの内側でゼファーの肌を叩き、言葉ではなく動きで伝える。


 飛び込むべき『風の切れ目』はそこにある。激しく唸る反時計回りの風に向かい、ゼファーは翼を使って生み出した飛翔を捧げるのだ。リエルの放った矢のように、この軌道は風を躱しながら飛ぶ。


 空がやかましく叫び、轟々という怒りの歌で世界を打ち据えようとしていた。砂漠の砂が舞い上がり……空の光を遮り、薄闇のなかに深い紅茶の色をした世界作る。そいつに向かい飛ぶ。


 殴りつけるような風。


 抉るように突き上げてくる風。


 唐突さを持って斬り裂くように荒れる風。


 オレとゼファーは感覚と経験を総動員しながら、『風の切れ目』を進むのだ。ここならば、激しく渦巻く暴風が上下に分かれている。不自然なほどに穏やかな飛翔となったことに、ゼファーの背にいる男たちは何かを言っていた。


 驚きの声だろうな。


 唸りを上げる砂嵐に突撃している最中なのに……世界が紅茶の底に落っこちてしまったみたいに濁ってしまった空を飛んでいるというのに―――ガルーナの伝統が創った竜騎士と竜の飛翔は風に妨げられることはない。


「……ゼファー。『風の切れ目』には入れた。次は……」


『……うん!あばれるかぜにのる!!』


 気合いと共に羽ばたきは一つ。


 それだけでゼファーの成長してきた翼は『風の切れ目』から、乱流を描く暴風の無慈悲な場所へと飛び込んだ。


 ゼファーの体が九十度近く傾いていた。ギュスターブが悲鳴を上げた気がするが、ドワーフの魔力が暴風に吹き飛ばされた気配はないから心配することはない。あの強いグラーセス・マーヤ・ドワーフの指をつかって、必死にしがみついてくれているのさ。


 揺れる。


 揺さぶられる。


 砂混じりの叫びをあげる風のせいで、悲鳴も言葉も消え去っていた。騒音の極地であるからこそ、何故だか得られる孤独もある……集中力はさらに深まり、赤茶色の混濁の中でゼファーは強く翼を広げ続けた。


 オレには見えている。


 オレには理解が及ぶ。


 ゼファーは見つけたのさ。この風に乗るための、『イルカルラ砂漠』の砂嵐の原理を悟っている。


 オレも見つけていた。ゼファーの感覚よりも、ストラウス家の伝統が残した経験値が少しだけ早くに風を識らせてくれたからな。


 ……邪魔はしない。ただ呼吸を合わせて、重心の移動も融け合わせる。何の合図も要らなかった。吹き飛ばされるような爆風に、下から叩きつけられる瞬間……オレたちは揺さぶられてはいたが、砂嵐が生み出す風の道へと乗っていた。


 吹き飛ばされたのも計算のうち。吹き飛ばされるために翼を広げてもいたのだから。狙いの通りの風に乗り、オレとゼファーは竜騎士と竜だけが深く感じられる勝利の道へと飛び込んでいた。

 


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