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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その三十八


 ギュスターブ・リコッドは番犬か用心棒みたいに鼻息を荒くしたまま、オレたちの先頭へと踊り出る。アインウルフは追い抜かされてしまうが、その程度のことで気を悪くしたりはしなかった。


「あっちだぞ」


「ん。わかった」


 アインウルフのアゴをしゃくった動きを道しるべにして、ギュスターブは砂埃の積もった室内を歩く。床に敷き詰められている日干しレンガを揺らしながら、ドワーフの戦士は乾燥しきって朽ちかけたドアの前に立った。


 ギュスターブはそのドアに数秒感の警戒と調査を行った後で、罠が無いと悟ったあとでドアノブを捻っていた。ドアが開き、狭くて急な地下への階段がオレたちの目の前に現れる。


 陰気な地下への道は、どこか動物の巣に似ていた。形状といい、狭さといい、そして嗅覚が感じとる空気に融けたその感覚も、獣を想像するにふさわしいものだった。


「……血の臭いが濃くなったぜ」


 ドワーフの鼻を揺らしながら、ギュスターブは語る。その言葉にはオレもカミラも同意するし、ラシードとアインウルフもそうらしい。


「ああ。ようやく、血の臭いが分かった」


「……若さかね?それとも、訓練の差だろうか」


「どっちもだろう!いいか、アインウルフ。オレたちドワーフは、帝国人より鼻が利くんだよ!」


「知っているよ」


「それならいい!さあて、地下に行こうぜ!この古い階段を降りてさ!」


 ギュスターブは軽快な歩調をつかい、地下へと向かう階段を駆け下りていく。あまりにも無警戒過ぎる点は、ちょっと考えものだと思うが……たしかに罠はないし、生きた者の気配はどこにもないんだからな。


 オレは友の背中を追いかけて、その狭い階段に屈めた蛮族の体を押し込むようにして進んでいく。地下にはわずかな湿気があるようだ。靴底が踏む砂埃が、わずかに固まっているからな……おそらく、『メイガーロフ』の建築技術によって作られた井戸が地下にはある。


 食料や医薬品があれば、それを使い尽くすまでの時間はここに引きこもっておくことは可能ってわけだ。


 ……地下空間の予測を立てながら、オレは地の底へとつづくような穴を降りていく。人間族のオレでも小さいと感じるのだから、巨人族にとってはさぞや狭かろう。蛇の穴にでも潜るような気持ちになる。


 ちらりと背後を見てみると、蛇神ヴァールティーンを信仰する巨人族は、かなり狭苦しそうにしながらも、ちゃんとついて来ていたよ。


 オレの顔面は知りたがりの表情にでもなっていたのか、ラシードはすぐ肩をすくめる動作を歩行に組み込んでいた。


「……私たちだって、これぐらいの穴なら通れる。『メイガーロフ』の王家は、巨人族なんだからな」


「王家サイズってことか、ここは」


「語弊はあるが……たんに地下への階段を狭く造っていたのだろう。王族は、自分の領域とは関わらない建築的な問題になど、強い興味はわきはしない」


「地下に降りるのは下々の仕事というわけか」


 まあ、それはそうか。地下には物資ぐらいしかないだろうしな。


 オレはラシードのことは心配しないことにして、ギュスターブの後を追いかけて軽やかな足運びを使っていたよ。


 階段は地下へと突き当たる。その空間は、湿気と血の臭いが空気に漂う場所だった。壁を見ると、赤レンガのすき間を這うように黒いカビが走っている。チーズのカタマリでも保管しておくには、悪い場所じゃなさそうだ。


「地下はそこそこ広いな。木箱だらけだが……」


 ギュスターブは砂埃と黒カビがまとわりついた木箱に、ふーっと大きく息を吹きかける。砂埃が舞い上がる……木箱の表面には『金』という単語が焼き印で記されていた。


「豪華な荷物らしい」


「……実際のところは、それほど大量の金がここにあるということはなかった。ちなみにだが、この中にあったものは私たちが回収している」


「『メイガーロフ』王家の資産を、奪ったか」


「軍資金に使ったよ。『メイガーロフ武国』との戦いは、一筋縄では行かなかったからね……ちょっとでも資金が必要だったのさ」


「つまり、ここにあるのは、やっぱり空箱か」


 鋼と語れる民は、金とも語り合えるようだ。やっぱり、という言葉を使えることが羨ましい。オレは金はおろか、鋼と対話することさえ出来ない。


「……ここにある木箱は大半が空になっているだろう。食料を入れるためのスペースとしては使ってはいない」


「つまらない地下ダンジョンだな。『グラーセス王国』の地下は、もっと魅力的なものだがなあ……」


「宝探しが目的ではないんだぞ、ギュスターブ」


「ん。そうだった、つい地下に戻ると、グラーセス・マーヤ・ドワーフの血が騒いじまうんだろうな」


「優先すべきは、この血の臭いを追いかけることだ……もっとも、そう遠くにはないようだがな……」


 血の臭いは空箱となった木箱の表面を叩きながらも、終着点にたどり着こうとしていたよ。


 狭くてジメッとする空間の奥に、血の臭いが始まる場所がある……そいつもまた古びた扉に区切られたいた。


「この先だな」


「オレが、先頭でいいな?……ここにも、罠は無さそうだ」


「そうだな。オレの魔眼にも映らない」


「それなら、お墨付きをいただいたってカンジだ。よーし、開けるぞ!」




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