第五話 『ドゥーニア姫の選択』 その二十七
色々と複雑な仕組みがなければ、ヒトは自由な選択をする権利を手にすること叶わないものだ。メイウェイも立場と自分の心と差に苦しんではいたようだな。
どこか言い訳めいた言葉に聞こえたし、まさに言い訳そのものでもあるだろう。マルケス・アインウルフは、誇らしい顔をしてはいない。苦しみがある。自分でも完全な納得が可能な言葉でもないのだろう。
「……無様かもしれないし、必死すぎるかもしれない。エレガントという発想からは遠いものだろう。だが、私の今の素直な言葉さ」
「分かっているつもりだ。過去を全て清算することは出来ないが、お前たちが仲間となってくれることの有益さは理解している」
「ああ。貢献することが出来るハズだ。だから、ソルジェ・ストラウスよ。約束をくれるか?」
「そうだな。メイウェイの命を助けられるように尽力する。これを約束するのが精一杯だが、十分か?」
「十分だ。私に勝利した男の言葉を、私は軽んじるつもりはない」
「ククク!……そうかよ。じゃあ、作戦会議をするとしようじゃないか」
「ああ。メイウェイは行方不明となったか……ギュスターブ。地図を広げてくれるか?」
「……なあ、アインウルフ。オレに命令するなよ、捕虜のくせによ」
「ハハハ。そうだったな。すまない、ギュスターブ。どうも君には友情を感じるからだろうね。ついつい馴れ馴れしく接してしまう」
「……構わん。お前が仲間になるというのなら、地図の一つぐらい広げてやる。だが、裏切るなよ」
「裏切らないさ。ドワーフの剣が怖いわけではなく、私は、自分の本質からの言葉を、もうこれ以上は無視することは出来そうにないのだからな」
「よく分からないが、ちょっとだけ信じてやる」
ギュスターブ・リコッドはそうつぶやきながら、背中の雑嚢入れからロールされた羊皮紙を取り出した。
テーブルのホコリを武骨なドワーフの手が払い除けると、そこに羊皮紙を広げてくれる。かつて羊さんの革だったそいつには、精緻な筆記で注意書きが走り、色彩豊かな山岳と赤い砂漠が描かれていた。
『メイガーロフ』の地図だ。『イルカルラ砂漠』と、『ガッシャーラブル』もある。それに、オアシスの湖が描かれた『ラーシャール』に、『ザシュガン砦』まで、そこには記されていた。
精密さを捨てた、広い地図だったな。
アインウルフの瞳がオレを見てきやがるから、オレの指は『ザシュガン砦』を指していた。
「……メイウェイは、この『ザシュガン砦』の戦場で行方不明になったとされている」
「難攻不落の砦の一つか」
「『イルカルラ血盟団』は、代替わりを促す意味も込めて、バルガス将軍率いる決死隊を送り込んだ。『ザシュガン砦』を掌握し、『ラーシャール』から南下して来るメイウェイの帝国軍を待ち受けていた」
「おお。そういう流れは好きだぜ!どうなったんだ、その戦?」
ドワーフの血が騒いでしまうんだろうな。戦士は、どうしたって戦のハナシが好きな生き物でもある。ギュスターブが子供みたいな顔になっているから、オレの唇は動き続けていた。
「南下してきた帝国軍に特攻を仕掛けた」
「ははは!そうじゃなくちゃな!」
「オレたち『パンジャール猟兵団』は、その特攻をゼファーと戦術を作って援護した」
「見事な援護だったぞ」
「ん?ラシード、アンタもそこにいたのか?」
「……そうだな。いたよ。死に損なったが、ストラウス卿に新しい生き方と戦場を用意してもらっている」
「なるほどな。オレたち『グラーセス王国』の戦士も、似たようなもんだった。アンタとは、やっぱり仲良くやれそうだ」
ドワーフ族は拳を握りしめると、巨人族の戦士の眼前に突き出した。ラシードは、その若者の動作に少しながらの抵抗を覚える年齢ではあったようだが、同じように丸めた拳をギュスターブの拳にゆっくりとぶつけていた。
「ラシードさんとギュスターブさん、仲良しっすね」
男たちが友情を深めている姿を見て、カミラは何だか嬉しそうだったよ。アインウルフも、この空気を嫌う様子はないが……やはり、集中しているのは部下の行方のほうらしい。
もったいぶっていてもしょうがないから、オレは作戦会議を進めることを選ぶ。
「メイウェイたちはそれなりの痛手を負ったはずだが、それでも勝敗だけ見れば、ヤツらの勝利だった。バルガス将軍は戦死して、『ザシュガン砦』を帝国軍は再び掌握し直しちまった。メイウェイは、その後で行方不明になったと、帝国軍は伝えている」
「戦闘中かその直後の混沌につけ込んだか。それなりの組織力が必要だろう……やはり、そうなればアルノア伯爵の仕業としか私には考えられない」
「その考えには、オレたち全員が賛成することが可能だ。問題は、アルノア伯爵が死体を明らかにしなかったことだ」
「隠れているんだろう。一時的にアルノア伯爵はメイウェイを確保したが、メイウェイは自力か仲間の助力により、その窮地を脱した―――メイウェイを捕らえた実行犯は、騎馬兵だろう。若手から成る騎馬兵隊……それが、メイウェイを裏切り、アルノア伯爵についていた」
「そう考える理由は?」
「メイウェイは私同様に騎馬に乗った状態で指揮を放つことを好む。待ち受けている少数の敵を攻めるなら、左右に広く展開して、自分は本陣の中央に騎兵で潜む。メイウェイはそれをする。そうなった状態では、メイウェイを拉致することが出来るのは周囲の騎兵たちだけだ」
「古株の騎兵は、メイウェイを裏切らないという論法を使うわけか」
「ああ。ベテランたちはメイウェイを裏切らないだろう。裏切るとすれば、名誉と切り離されたとふてくされていそうな若手の騎兵たちだ」
……事実、アルノア・シャトーではそういう若い騎兵たちに出会った。メイウェイや古株たちとは、若い帝国人の騎兵たちは考えがかなり異なっているようだ。
現場に行かずに、これだけ現実で得た情報に酷似した予想をするか。アインウルフならば、元・部下であるメイウェイの動きを予想してくれそうだな。情報を共有すれば、メイウェイを確保することが可能になるかもしれん。
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