第五話 『ドゥーニア姫の選択』 その十二
オレたちはラシードをアジトに連れ戻ると、ラシードにアジトにいる猟兵たちに情報を伝えてもらうことを指示した後、カミラの『コウモリ』の力で『カムラン寺院』に近づいていった。
『カムラン寺院』の周辺には、帝国軍の兵士たちの姿は、ほとんどない。任務のない兵士たちは兵舎に戻って待機しているのだろう。自分たちのトップが戦死したか、あるいは戦場で行方不明になったのなら……何か大きな行動を取る可能性がある。
一般的には捜索隊の編成とかな。
……ある程度の人員は、捜索隊として出発しているのかもしれないが、『ガッシャーラブル』周辺の山賊たちは、オレたちの工作のせいで活性化しているように見えているはずだし、『自由同盟』からのプレッシャーもあるわけだ。
今後の命令に備えて、ムダな戦力を動かさない―――そういう判断のもとに、兵士たちは兵舎で体力回復のために休んでいるのさ。おそらくだが、外れてはいないだろうよ。
……街並みは静かになっている。朝よりもな。だが、その裏には緊張感が走っているのだ。商人たちは、ますますこの土地から離れたがっているようだし、その手続きの増加は兵士や役人たちの仕事量を増やすことに直結する。
帝国人たちは、かなり神経質になり、疲れているて、重要ではない仕事を放棄しているのだろう……そういう推察をオレは頭に浮かべていた。
何が言いたいかと言うと、『ガッシャーラブル』に駐屯している帝国軍は、『カムラン寺院』を現在のところ攻撃目標とはしていない、ということさ。
『自由同盟』の軍勢が堂々と南下でもしない限りは、攻撃するようなことは起きないと見てもいい。仕事が忙しくなってくれば、まっさきに警備の数を減らすのだからな。優先順位が低いっていうことだ。
メイウェイは、『太陽の目』の連中を仲間にしたくてしょうがなかったのかもしれないな。おそらくは、ラシードたち『イルカルラ血盟団』に対する抑止力として使うために。
……彼らの間にある蜜月は、お互いの利益になっていた。だが、ホーアンは『メイガーロフ』から帝国軍を追い出すという考えには、賛成している―――バルガス将軍が『死んだ』ことになった今、『太陽の目』と『イルカルラ血盟団』の間のわだかまりも消えた。
オレたちにとって好ましい同盟の誕生かと期待していたのだが、どうにも、ややこしい状況になっているかもしれないな。
『……ソルジェさま、どこから入ります?』
『昨日の採風塔から入ろう。今は、見張りがいないようだ』
『そうっすね。僧兵さんたちも、会議しているのかもしれませんね』
『考えられることだ』
『コウモリ』はパタパタと小さな羽音を立てながら、『カムラン寺院』の採風塔へと侵入する。風といっしょに塔のなかを降りていき、その入り口でオレたちはヒトの姿へと戻っていた。
「……じゃあ、行くぞ」
「はい。ホーアンさんを、探すんですね?」
「あるいはメケイロだな。ホーアンよりは、ヒマだろうしな」
「寺院の方にいるんでしょうかね?」
「魔力が集まっているから、あそこにいるさ」
夫婦二人で『カムラン寺院』へと近づいてみる。僧兵たちが、神妙な顔で警備に立っている。だが、オレたちの接近に気づいた後も、排除するような素振りは見せない。
メイウェイ行方不明の情報が、色々と彼らにストレスを与えているのかもしれないな。次の太守が、メイウェイのように亜人種に優しいとは限らない。
帝国からすれば、『太陽の目』の戦士たちは差別対象である亜人種の巨人族であり、イース教ではなく、蛇神を信じる異教徒ということだ。
どちらかの理由一つでも、排除される可能性がある。
ヒトってのは、じつに排他的な存在だからな。
『ガッシャーラブル』は、帝国に組み込まれてしまってはいたが、メイウェイのおかげで亜人種たちにも暮らしやすさが残っていた。どこまで、それが変わることになるのか、分かったものではない。
……オレたちに有利な判断をしていくてくれると助かるんだがな。
『自由同盟』と手を組んで、帝国と戦おう!……そんな形になっていたら、何とも楽なのだが。まあ、世の中、あまり期待し過ぎると怖い。
ガッカリした時の心のダメージは大きいからな。あまり、希望的観測ってのは行わないようにしている。とくに、軍事関係ではな……悪意により選択されるのが、戦や軍事というものだし、悪い予感がよく当たることがらでもある。
……考えても、キリがないな。
オレは目が合った僧兵に近づいていく。
「よう、元気か?」
「……何かようかな、客人……?」
「長老の一人、ホーアンはいるか?」
「ホーアンさまの客か?」
「そうなるな。赤毛のガルーナ人が来たと伝えれば、すぐに通してくれるんじゃないかと思うぜ」
「……そうか。だが、今、長老衆は集まって会議をなさっている。それは部外者は誰一人として近づくことは許されてはいない」
「……なら、僧兵のメケイロがいるだろう?……アイツを呼んでくれ」
「ホーアンさまの護衛のメケイロか……」
「オレがホーアンの知り合いだっていうのは、本当の話だって信じてくれたかい?メケイロのことまで知っているなんて、一度も会ったことのないヤツには、どう考えたって不可能なことだろう?」
「そうだな」
僧兵は目をつむり、十秒ほど考えていた。
そして、ゆっくりと目を開くと、語り始める。
「……わかった。しばらく、ここで待っていてもらえるか、客人?」
「メケイロを呼んでくれるか?」
「ああ。彼のことを呼んで来よう」
「そうしてくれ」
僧兵は駆け足になって、この場から立ち去る。『カムラン寺院』のなかへと駆けていった。
コッソリと侵入して、長老どもの会議を盗み聞きしてやろうか―――そんなことを頭のなかで考えていると、僧兵と、そいつに連れられたメケイロの姿が近づいてくる。
「……お前か」
「そうだ。オレだよ、メケイロ」
「……こっちに来てくれ。オレの部屋で話すとしよう。外では、あまり話せないようなこともするんだろう?」
「そういうことだ」
ハナシの早いヤツは好きだ。巨人族ってのは、賢いからか、そういう男が多い傾向があるような気がしている。
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