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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第五話    『ドゥーニア姫の選択』    その十一


 カミラが目を白黒させていた。気持ちは分かるがな。オレたちは、あの戦場の当事者であり、誰よりも状況を知っているはずだ。中年商人から語られたのは、オレたちが知っている事実とは離れている言葉である。


「メイウェイ大佐が、行方不明?……オッサン、そいつは本当かい?」


「噂だからね。本当か嘘かまでは分からない。しかし、軍隊はそういう認識をしているようだよ」


「……死んだっていうハナシまであるのか?」


「ある。戦場で行方不明になったんだ。敵に殺されていても、おかしくはない」


「もしも、そうだとしたら」


「大変なことだね。経済は混乱するかもしれない……大佐は、この『メイガーロフ』の太守だからね。政治的なトップでもあるし、軍のトップでもある。でも、ワシらからすれば、最も肝心なことは、経済活動の停滞だよ」


「王が死んだようなものだからな」


「そうなるね。帝国の商売ってのは、基本的に緻密な法律で支配されている。税法も細かくて厳しいしね。大佐は、経済活動を支えるために、商人たちに優遇措置を取ってくれてもいた。でも、そいつは短期間の免許制さ」


「更新期日が近いか」


「そう。大佐が存命のあいだは、申請すれば更新してもらえると安心していた。でも、今は不透明だね。太守が変わるのなら、特例の優遇措置なんて、消えてなくなるかもしれないんだよ」


 ガックリと商人は肩を落としていた。


「焼き串をバカ食いして、ワシも本国に戻ろうと思う。ここに来るまでの旅費も、かなりのものだったから、もう少し稼いでからにしようと粘っていたけど、もう限界だ」


「そうか。なかなか、シビアな状況なんだな」


「戦も近そうだから、特需があるかなとも踏んでいたけど……『メイガーロフ』の市民は戦の前にも、財布の紐が緩むってことはないみたいだと学んだよ」


「いい授業料だったな」


「高すぎるけどね」


「勉強になったよ。ありがとうな。ウールの玉を一つ売ってくれ」


「あいよ。銀貨1枚でいいよ。さっさと売り払って、荷を軽くして本国に逃げようと思うから、大安売りさ」


「そういう言葉を使うときは、安売りになっていないことも多いんだがな」


「……鋭いね」


「買うよ。二個ほどな」


「お買い上げ、ありがとうございます!」


 商人は営業スマイルを浮かべ、オレは銀貨2枚と球体になった羊の毛糸を購入してみた。マントのほつれでも縫うときに使うとするさ。


 ……カミラが物言いたげな顔をしていることに気がついたが、オレは人差し指を彼女の愛らしい口もとに当てた。


「ちょっと、街を見て回ろうぜ?」


「は、はい」


「……ふむ。情報を、多角的に得たいものだな」


 ラシードはマジメだな。そして、それほど慌ててもいない。戦場からの情報伝達に乱れが出ることも少なくはない。勝利と敗北を間違って伝えた連絡要員がいれば、色々と惨劇が起きることもある。


 ヒトという生き物は必ず、ミスをしでかす生き物だ。混沌とした戦場からの情報など、正確に伝わるものでもない。


 オレたちは何人もの商人たちから情報を得ようと試みた。


 事実に近い情報を探したかったというわけでもないが、街に広まっている噂のソースが何処なのかは気になってはいた。


 判明したのは、兵士からの発表だ。早馬を伝えることで、戦場からでも情報は逐次、更新される……深夜の戦いが終わってから、もう十分に時間は経った。そろそろ間違った噂は駆逐される時間帯だと思うのだがな。


 そうだというのに、暗い顔をした兵士たちは商人にメイウェイの行方不明情報しか伝えることはなかった。


「……伝達ミスということでは、ないのかもしれないな、ストラウス卿」


「そうかもしれないな」


「ええ?で、でも、自分たちは、メイウェイを倒してないっすよね?」


「知らぬ間に殺していたという可能性も、ゼロじゃないがな」


 ゼファーによる爆撃は、メイウェイを避けるという考えは一切なかった。狙ったわけではないが、ゼファーの火球が着弾した場所に、メイウェイがたまたまいたら?……オレたちはメイウェイを殺したことになる。


「どう思う?ラシード?」


「……可能性はあるだろうが、メイウェイは、そんなに容易く死ぬような男ではないというのが、私の個人的な意見だ」


「なら、そうなんだと思うことにする」


「いいのか?」


「直接、戦って来た男の言葉だぞ?それを信じずに、何を信じるというんだ」


「……でも。この状況は、一体どういうことなんすかね……?」


「メイウェイは戦場で行方不明になったのかもしれないな」


「私も、そう考えている」


「え?それは、どういうことっすか?」


「帝国の中にも、メイウェイを追放しようとする連中がいるからな」


「……っ!『アルノア査察団』!」


「アルノア伯爵の騎士たちの中でも、上位のエリートどもはアルノア・シャトーにはいなかった。実力のある、それなりの数の戦力が、どこかで何かをしていたのさ」


「戦場は混沌としている。暗殺や拉致を試みるには、これほど適している環境もないだろう」


「アルノアは、メイウェイを戦場で暗殺したか拉致した……?」


「その行為を、『イルカルラ血盟団』のせいにすれば?……アルノアには、新たな太守の座が転がり込んでくるかもしれないな」


「権力欲に駆られた男は、どんなことでもするものだ。まして、メイウェイは皇帝や帝国の上層部とは仲が悪かった男だからね。彼が死んでも、ろくに捜査はされないかもしれない」


「な、なんだか、陰謀ってカンジっすね……っ!」


「帝国人同士が内輪モメするだけなら、歓迎なんだがな……」


「ストラウス卿、これからどう動く?」


「個人での情報収集では限界があるな。この街での有力な情報源のもとに向かう」


「……まさか、あそこかね?」


「ラシードは行かない方がいい場所かもしれないな」


「それって、あそこっすね?」


「『太陽の目』たちの拠点、『カムラン寺院』だ。彼らは、公的にはメイウェイの政権とパイプを持っている。本音はともかく、表向きは協力関係にある。そして、そこら中をうろついているほどに、数も多い」


 組織力がある。情報源としては、理想的な存在といえる。接触してみるべきだ、長老たちの一人である、ホーアンにな。




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