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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第四話    『ザシュガン砦の攻防』    その二十九


 単純なガキってのは、行動に迷いがないもんだ。ヒトの言葉を信じてくれる。手斧を振りかざし、オレに向かって斬りかかって来る。小さな歩幅で近づいて精度を上げた鋼を叩き込むんだ。


 悪くはない。確実な動きであるが―――それを捌いてしまえる手の技巧というのもある。小さく畳まれた動きは精度は高いが、素直過ぎる。そして……この子はまだドワーフの戦士としては筋力も体重もなさ過ぎた。


 手斧の突きをそのまま引き込むようにして、ブン投げちまうことは簡単じゃあるってことさ。


 しかし、オレも膝を使わなければならないほどには、『苦戦』してはいる。


「さっきに比べれば、いい動きになった。速い動きをする敵には、長い間合いを飛びかかるよりも、近づいてからプレッシャーを浴びせるようにしろ。ドワーフの体躯には、そういった戦術が他種族と戦う時は合う」


「……くそっ!!それでも、けっきょく、当たってねえじゃないかよッ!!」


「当然だ。速いだけじゃなく、力も強くて、技巧もある。そういう敵に挑むときは、攻撃なんて滅多と当たりはしないもんだ」


 理不尽なことだが、埋めきることの出来ない実力差ってものも、この世の中には存在しているものだ。


「どうあがいても、現状ではどうすることも出来ない程の、実力差がある。オレが本気だったら、お前は何度死んでいたことか……だが、幸いなことに。オレはお前を殺しはしない。圧倒的な強者に挑む経験値を、くれてやっているんだ。もっと工夫しろ」


「……トレーニングかよ、これ!!」


「そうだ!お前みたいなクソガキが気に入ったから、稽古をつけてやっている!」


「うるせえ!!クソガキって言うんじゃねえ!!オレには、ガディンっていう名前があるんだ!!『イルカルラ砂漠』で、百の敵を一人で叩き割った、英雄ガディンと同じ名前がなッ!!」


 ガディンはそう名乗ると、それからも何度も何度も襲いかかって来やがった。それらの攻撃の全てを、オレは問題無く回避していったよ。


 濁り湯のなかにいくら投げ飛ばしてやったところで、ガディンはあきらめなかった。湯を飲んじまって咳き込みながらも、鼻から湯を吸い込んじまって涙目になりながらも、とにかく、がむしゃらに暴れていた。


 ……野蛮なオレたちは、こうやって鋼を使って語り合うのもいいだろう。感情ってのは、理屈じゃどうにもこうにも、完全に制御してしまうことは不可能だからな。


 友を人間族に殺された悲しみと怒りを、オレにぶつけてくればいい。


 ガディンの怒りは、すぐに尽きてしまうほど、単純なものではなかった。二十分近くも、その攻撃は続き、やがて……熱さに茹でられた体は、ゆっくりとその場に崩れ落ちていた。


 湯泉のなかに両膝を屈した赤い顔は、口惜しさと疲労に満ちている。ギリギリという音が耳に聞こえてしまうほどの音を立てながら、ドワーフの強い歯が軋んでいる。


「……勝てねえ……ッ。今日はだけど……今日は、お前に勝てねえッ」


「そうだ。だが、お前は学んだ。ホンモノの戦士というものが、どれぐらい強い存在なのかをな……強さを学ぶことは、良いことだぞ。そうやって、ちょっとぐらいは強くなれる。今日、オレにつけられた稽古で得た力……いつか、お前の成すべき『正義』のために使え」


「……オレが取りたかった仇は……アンタが、殺しちまいやがったんだ。オレの正しいことは……もう無い」


「ククク!……人生ってのは、長い。お前も、もっと色々な者を失うことになるだろうし色々な縁から大切な者を得ることにもなる」


「……ボクシーやレゲンの代わりなんて、見つかるかよ」


「代わりを見つけるんじゃない。別の大切な者を手に入れるのだ。生きていれば、そうなる。かつて、お前がボクシーやレゲンと出会ったように、また他の誰かと出会うことになるのだ。そういうヤツらを、守るための力を蓄えろと言っている」


「…………うるせえよ。うるせえけど…………わかった。オレは、もっと……そうだ……強くならなきゃいけねえんだろ?……今みたいに弱いままじゃ、何にも出来やしないってことは……分かった……ッ」


「いい答えじゃないか。万人を納得させることが出来る答えだ」


「ハハハハ!!さすがは、私の孫だ!!客人を、ぶっ殺そうとしていやがるとはね!!」


 オレに対する襲撃について、豪快に笑い飛ばしつつ、ギィン婆さんがこの濁り湯の場にやって来ていたよ。


「……ギィン婆さんの孫か。なかなか、筋がいいぞ」


「そうだろうねえ。何せ、私の孫だからね」


「……婆ちゃん」


「ほら。おいで」


 ギィン婆さんが微笑みを浮かべながら、やさしげに両腕を広げた。孫を抱き寄せようとしている―――いいや、違うだろうな。ガディンのヤツは、死ぬほどイヤそうな顔をしているからだ。


 ……ドワーフの常識が、ワイルドな傾向を帯びていたとしても……客人に襲いかかったことを、単純に褒めるだけの文化など、ありはしないさ。


 空気を察しているのだ、ギィン婆さんの孫はな。


「……イヤだ。婆ちゃん、絶対にブン殴るに決まっているじゃんかよ……」


「いいや。殴らない。婆ちゃんは、やさしい。とくに、今日はいつもの三倍ぐらいはやさしいもんさね」


「絶対、嘘だろ」


 オレもそう思うが、祖母と孫のことに口出しするほど無粋じゃない。温泉の中で暴れ過ぎたせいで、体がちょっと熱っぽいからな。オレは湯から出て、あの滝みたいな冷水が出るシャワーのところに向かって、蛇口を捻っていた。


 熱くなりすぎていた体に、冷水の滝がとんでもなく心地よい……オレは冷えていく体から、熱がこもった息を吐き捨てながら、ドワーフたちの交流を見守っていた。


「大丈夫だよ。無様に負け散らかした、可愛い孫のことを殴ったりはしないから」


「……トゲがあるし。言葉に、隠し切れてないトゲが生えているからな」


「気のせいだ」


「……いいや。分かる。オレのこと、絶対に殴るんだ!!」


「……当たり前だ、このクソガキッッッ!!!私の客に……この大穴集落の客に、斧で斬りかかるとは、何事だいッッッ!!!」


「ほら、やっぱり、ブン殴る気だったんじゃないか!!」


「敵と恩人の区別もつかんような、クソみたいな頭は、ぶっ叩きもしなけりゃ、良くなるワケもないだろうがああッッッ!!!」


 ムチャクチャな教育方針だな。アホの頭を殴っても、大して良くならなかったのは、オレとか三人の兄貴どもで証明が済んでいるような気がしているよ。


 だが。悪いコトをしたガキには、罰が必要ってのは世界中で共通しているもんだ。叱るってのは、まあ、そういうことだよな。


「晩飯抜きか、一発、ブン殴られるか!!どちらか、選びなッッッ!!!」


「な、なんだよ、それ。どっちもイヤ過ぎるぞ……っ」


「おい、ガディン」


「……なんだよ、赤毛の人間族」


「メシを食わなきゃ強くはならんぞ。栄養を取らねば、体は作れん」


「……っ!!」


「決まりだな。婆さん、ブン殴ってやれ」


「ああ。可愛い孫だからねえ。はあ、まったく……ちょっとは、分別ってモンを、覚えやがれ、ガディンッッッ!!!」


 可愛い孫の顔面に、ドワーフの正拳突きが叩き込まれていたよ。ガディンが吹っ飛び、濁り湯のド真ん中に落ちて、水しぶきを上げていた。ドワーフらしい教育だとか、そんな印象を手にしながら、オレは頭上から落ちてくる滝みたいな冷水を、少しだけ口に含んだ。


 冷たい水が、体の内側まで冷やしてくれる……そろそろ、風呂を上がるとしようか。




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