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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第四話    『ザシュガン砦の攻防』    その十八


 大穴集落の損害を見れば、助勢を頼むという言葉がどれだけ現実的でないのかを思い知らされる。疲れ果てた戦士たちに、未だに燃えている家屋……そこらに転がるドワーフの女や子供の死体……。


「……そうじゃな。ワシらは、かなりやられちまってはいる」


「ああ。かなりだな。深刻なダメージに見えるよ」


「……そうだ。実際のところ、ワシらが今夜、『イルカルラ血盟団』のために割ける戦力は、ストラウス殿のために集まる勇士を見込んでも、150……ケガ人が多すぎる。すぐには動けないのが実情だ」


「……150でも、貸してくれるのか?」


「もちろん貸す。命を救われたのだ、ストラウス殿が死ねと言うのなら、可能な限りの戦士を派遣してやれる―――だが、150では、どうにもなりそうにないか?」


「……ふむ。戦略の立て方次第ではあるが、その150人も、健康体というわけではあるまい」


「戦い抜いておるからな。人間族への怒りや憎しみが原動力になるが……体力的に完璧とは、さすがに言いがたいものがある」


「……ああ。そうだろうな。オレとて、無為に人死にを出したいワケじゃない」


 疲れ果てた戦士を、これから大急ぎで移動させて……どれだけの働きを期待出来るものか。ドワーフは頑健な戦士ではあるが、この戦いで、彼らは死力を出し尽くしている。


 ……ならば、どうしたものかな。こういう時は、賢いヤツに頼るとしよう。


「おい。キュレネイ」


「イエス。何でありますか、団長?」


 水筒の水を頭からかけながら、返り血を落としていたキュレネイ・ザトーがオレのそばにやって来る。

 水色の髪が濡れている―――と、思っていたら、キュレネイは犬みたいにプルプルと首を振り、水気をその美しい髪から払い除けていた。少しだけ、オレにかかったが、まあ気にすることでもない。


 今は、その賢さに頼りたいところだ。


「……ドワーフたちは協力してくれる気になってはいるが……体力的には、とっくの昔に限界を迎えている。オレも、今は、頭に血が上っているせいか、ただのアホな野蛮人のせいなのか、少し考えがまとまらん。何か、いい案はないか?」


 ザックリとした質問だなと、訊きながら思ってしまったよ。しかし、頭に血が上っている蛮族の考えよりも、キュレネイ・ザトーの賢さが反映された思考の方が、より良い答えを紡ぎ出すはずだ。


 キュレネイに、思いっきり頼ることにした。


 キュレネイは無表情のまま、オレの顔を見つめてくる。ルビー色の大きな瞳が、じーっと、オレのことを捉えて放してくれない……40秒ぐらい続き、ドワーフの長老が心配をし始めた。


「おい。ストラウス殿よ、この娘はどうした?大丈夫か?まったく、動かんぞ……?」


「……心配するな長老、キュレネイは、こういうタイプの熟考を行う乙女なんだよ」


「そ、そうか……それならば、良いのだがな……」


 さらに20秒ほどが経過して、オレもさすがにキュレネイのことが心配になり始めてしまった頃、無表情の美少女フェイスが動き始めた。


「……ふむ。出来たであります」


「何か、思いついたようじゃな」


「……そうか。どういう案だ、キュレネイ?」


「団長、この集落のドワーフたちが、長距離の移動に耐えられないほど疲れているのであれば……別に、ここから『ザシュガン砦』にまで向かわなくても良いであります」


「……どうするんだ?」


「二つの作戦があるであります」


「二つか。どんなのだ?」


「一つ目は、この大穴集落のドワーフ族と、メイウェイのあいだにある信頼関係を使う策であります」


「我々と、メイウェイのあいだの信頼関係か……」


 メイウェイは名君らしいからな。その政治的手腕や人気は、もはや認めるしかない。


「イエス。メイウェイは、『ラクタパクシャ』退治に対して、熱心なようであります。なので、この集落が『ラクタパクシャ』に襲撃されたことを伝えて、捕虜を取ったことを告げれば、捕虜を引き取るためにも兵士を寄越すでしょう」


「……そうだな。だしかに、そうすれば、『ザシュガン砦』の戦力は減るわけだな」


「イエス。ついでに、支援物資でもくれるかもしれないであります」


「……我らは、メイウェイの施しなど受けんぞッ!!」


「そういう形が、ドワーフの誇りに反するというのなら……メイウェイが必要としている捕虜と情報を渡す代わりに、物資を受け取ればいい。捕虜で買い物するんだよ」


「……おお。なるほど。そいつは、たしかに我々の美学に反することはないな!!」


 やはり、賢い者に頼るべきだな。


 押してダメなら、引いてみろ。そういう種類の発想をすることは、アホな蛮族であるオレには時に難しいときがあるもんだよ。せいぜい、人質と物資を交換すればいいとか言い出して、蛮族っぷりを晒すのがやっとだぜ。


「それならば、我らもストラウス殿の願いの通りに働くことが出来るな!!」


「ああ、『ザシュガン砦』の警備が、かなり減る。捕虜を受け取るためにも、ドワーフの戦士を警戒するためにも、彼らはそれなりの兵士の数で、ここに来る」


「イエス。ついでに要求する物資を、大きなモノにしておけば、輸送用に馬や兵士をこちらに引き寄せることになるであります」


「そういうモンで、欲しいのがあるのか?」


「……酒じゃな。ワインを樽で寄越せと持ちかけてみるとしよう」


「いい品だな」


「ああ。火をつけられて、酒蔵も幾つか焼け落ちてしまっている……酒は、ワシらにはどうしても要るからのう」


「自然な要求で、こちらの作為がバレにくいと思うであります」


 さすがは、キュレネイだ。サクサクとアイデアが出て来てくれる。さて。一つ目の作戦ってのは理解した。良さそうだな。なら、もう一つの作戦ってのも聞きたくなって来るところだ。


「それで、キュレネイ。もう一つの案というのは、何なんだ?」


「……これは、ドワーフの誇りを曲げてもらわなければならないところであります」


「……うむ?どんな作戦じゃ、水色の髪の不思議な娘よ?」


「『イルカルラ血盟団』に、退路をあげるのです」


「……退路、じゃと?」


「イエス。メイウェイはラーシャールにいるであります。そこを迂回して、『イルカルラ血盟団』は南の『ザシュガン砦』を攻める。しかし、そうなれば、南下して来たメイウェイとその軍に、バルガス将軍と『イルカルラ血盟団』の戦士は退路を断たれる」


「ああ。だが、もしも、大穴集落のドワーフたちが、テリトリーに『イルカルラ血盟団』が侵入することを許してくれるのなら―――」


「―――彼らには、メイウェイも考えていない退路が確保出来る。深夜の戦い。メイウェイも、予想外の動きをされたら、おそらく対応に遅れが出るハズであります」


「混乱を招くには、十分なことだ……問題は……」


「……無いぞ。恩人が、そうして欲しいというのならば。血盟団の戦士たちの生き残りぐらいなら、いくらでも匿ってやるとしよう!!……戦場に駆けつけてやれん、情けない我らの、せめてもの恩返しとしてな!!」




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