第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その十四
大穴集落での戦況はオレたちの有利に傾いて行く。オレたち地上に降りた猟兵は、ククルの指示に従い、目の前にいる傭兵どもだけに集中して排除することが出来た。
竜太刀が暴れ、呪われた鋼がギチギチと鳴きながら敵を裂き、フルスイングされた『戦鎌』の剛打は敵を打ち崩していく。
血霧と断末魔を浴びながら、猟兵たちはドワーフの戦士よりもはるかに多くの敵を屠るのだ。容赦することはない、オレたちは見ていた。女も子供も老人も、この傭兵どもは戦士の誇りを一欠片も見せることなく、ただ金のために鋼を振るい、命を奪った。
……怒りと憎しみが肉体を熱く燃やし、我々、三人の猟兵は殺戮の化身へと化ける。『パンジャール猟兵団』には、多くの亜人種がいるのだ。オレたちは、亜人種への無慈悲な殺戮に対して、心が張り裂けそうなほどの悲しみを得る。
……敵を追い詰めていくのが分かった。猟兵の怒りが込められた鋼は、傭兵どもの命など容易く破壊してしまうのだから。
ゼファーに乗ったククルも、指揮を執りながら冷静に弓使いとしての才能を発揮していたしな。体力が余っていそうな傭兵を見つけると、彼女の手は弓をしならせ、矢を放つ。正確無比な一撃となり、傭兵を一人ずつだが確実に仕留めてみせるのだ。
ゼファーも活躍している。頭上を飛んで、ククルに射線と指揮のための情報を与えてくれるだけでも十分な仕事ではあるが、大穴集落から逃れようと坂道を登って脱出しようとする傭兵どもの群れに、竜のブレスを浴びせることもあった。
『GHAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
歌と共に放たれた、暴れて狂う灼熱の劫火。それらに目の前の道ごと、傭兵どもが焼き払われてしまう。竜の焔の残酷な罰を浴びせられて、傭兵どもの逃亡は失速する。その失速につけ込むようにして、坂道を走ることに長けた短躯の戦士たちが追いつくのだ。
「た、たのむ!!」
「い、命だけは助けてくれ!!」
傭兵どもは鋼を投げ捨てて、返り血まみれのドワーフ戦士に訴える。しかし、同胞を殺されたドワーフには、全くもって通じることのない言葉であった。
……故郷を捨て去って世界を放浪する者が持つ軽薄さは、故郷を守るために生きた戦士には通じることはない。傭兵どもは戦いを金を稼ぐための手段としか考えていないが、土着の戦士たちにとっては『家族』を守る聖なる闘争なのである……。
「命乞いなど、聞く耳もたんわッ!!」
「蛇神ヴァールティーンさまに、冬ごもりの贄として捧げてやるわいッ!!」
「その血で、我らが集落への暴虐の対価を、支払うがいいッ!!」
ドワーフの戦斧が、竜に焼かれて火傷を負った傭兵どもに死を与えていった。復讐者の感情に、限度というものはない。残酷なほどに、故郷を焼かれた怒りは晴れるのだ。殺すことでのみ、屈辱は癒やされる。それだけが、オレたちの真実だ。
燃えて赤くなった妹の骨を、その手に抱いたあの日から。
あるいは、愛する夫と『家族』に等しい団員たちがいるサーカスを、若い兵隊どもに虐殺された時から。
我々は復讐者であり、それが達成される瞬間には、狂喜に血が踊り、肉が弾けるほどに力が満ちて足りてくる。
「……レイチェル、そろそろ敵にトドメを刺してやるとしよう!!突撃するぞッ!!」
「ええ!!リング・マスターッ!!私の目の前にいる全ての敵に、激痛の苦しみと、死を刻みつけてやりますわ!!」
復讐者の貌を見せつけつつ、踊り子は『諸刃の戦輪』を構え直しながら、美しい唇に冷酷な笑みを輝かせている。
彼女の過去と、彼女の母性と、彼女の愛が、復讐者であることを裏打ちし、無辜なる者を殺した悪人に対する冷酷さとなるのだ。獣のように流れる動きで、レイチェル・ミルラは突撃のための予備動作を取るために、その身を地に向けるように沈ませる。
「……二人をフォローするであります。なので、存分にどうぞ」
この場で冷静であることを、団長であるオレに命令づけられているキュレネイ・ザトーは健気なセリフと共に、オレたちの背後へと回り込んでくれるのさ。
「ああ。頼むぜ、キュレネイ!!」
「イエス。団長、レイチェル、後ろは任せて、いざ突撃するであります」
「ええ!!」
「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
乱戦でのかけ声は、奇襲攻撃の精度を下げることにはつながるが、疲れ始めている傭兵どもを相手にした時、奇襲の威力がいくら下がろうとも、全くもって問題はない。
むしろ、敵の意識をオレとレイチェルに惹きつけることも目的だ。オレたちは、まだ頑健に戦える。空元気と好機に反応した爆発的な集中力で、体力的にはかなりのムリをしながら暴れているドワーフたちに比べて、はるかに余裕があった。
この突撃は、敵を大きく間引くためのものであるが―――それと同時に、仲間であるドワーフたちを守る術でもあるのさ。
彼らは体力を失い、見た目以上に撃たれ弱くなっている。攻撃に全てを費やした結果、守りのことなんて考えられなくなってもいるからな。
オレたちが、ドワーフの戦士たちの『盾』になることで、その失われた防御力の代わりとなってやるわけだ。
だからこそ、歌を放つ!!
戦場に相応しい蛮勇の猛りを使い、敵の目を惹きつけて……正面から正々堂々と突撃していくのだ!!
騎士道ってのは、こういう行為のことなのだ!!オレは、ガルーナの竜騎士と、それらを最も多く育てた賢き偉大な古竜、アーレスによりそう学んでいる!!勇敢さは、己のためにあるわけではない。仲間と『家族』を守るために、その力は存在しているのだ。
竜太刀と共に、突撃を敢行する!!
武装した熟練の戦士たちが、血なまぐさい吐息を口から垂れながら、オレとレイチェルの突撃に備えて守りを固める。それは、一人や二人じゃないが……考えることはしない。
もしも、ムチャな数であるのなら、キュレネイも止めるだろうし……上空から戦場を把握しているククル・ストレガも止めるさ。
そういう制御役は、この二人に任せている。だから、オレもレイチェルも迷うことなく、ただ目の前にいる敵を目掛けて、全力で襲いかかるだけでいいのだ!!
鋼を振り下ろし、受け止められる!!
ガギキイイイイイインンンッッッ!!!
火花が煌めき、鋼が歌う。いい力だ。その長剣も業物である。だからこそ、戦士としての本能が、唇に喜びを浮かばせて……血潮はより深い闘争本能に燃えるというものだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
猛獣みたいに歌いながら、竜太刀を力尽くで押し込み、そいつの鋼を打ち負かす!!崩した構えに差し込むようにして、竜太刀の先端をそいつの腕の間に入れて、ノド元を深く一閃、切り裂けば終わりとなるのさ。
ノドを失い、絶命の声をも禁じられたそいつに、オレは左手で打撃を叩き込み、後ろ向きに倒した。次の獲物と目が合って、一瞬の戸惑いと恐怖に顔を歪めつつ、ヤツはこちらを目掛けて走り込んで来るのだ。
「竜騎士いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!」
ああ、悪くない。勇敢さを、自分が生きるために使うことも、また一つの正しさだ。ヤツは鋭く踏み込みながら、曲刀を振り上げるようにしてオレの首を狙って来やがった。
いい動きだが、竜太刀の剛打でその曲刀ごと、ヤツの片腕を叩き斬り、返す刀を用いて、そいつの側頭部に鋼の一撃を浴びせて、全てを終わりにするわけだ。
……そこから先は、隣りで踊るように敵を斬り裂くレイチェルと並び、前に踏み込みながら敵を斬って、斬って、斬りまくった。敵の血と一つに融け合うような、戦場の一部と成り果てるような感覚に酔いしれながら、オレたちは『パンジャール猟兵団』の強さを鋼でもってこの地に示すのだ。
読んで下さった『あなた』の感想、評価をお待ちしております。
もしも、猟兵たちの『突撃』を気に入って下さったなら、ブックマークをお願いいたします。




