第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その五
ドワーフ集落の大穴の淵には人間族の戦士たちがいる。ヤツらに近づくことで、よりこちらの予測の正しさが明らかになっていく。やはり、傭兵だ。『ラクタパクシャ』なのかについては、さすがに断じることは出来ないが―――どうでもいい。
民家に対して、無差別に火矢を放つ。その行為だけで、万死に値することだろう。訓練と高い統率が取れているこの殺戮者どもに、オレは容赦するつもりは一切ない。
気高き古竜アーレスの魔力と魂が宿る金色の左眼で、にやつきながら矢を放っている悪人どもを睨みつけるのだ。
「ゼファー!!歌ええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
金色に輝く竜の怒りが、渦巻く灼熱の火球となって放たれる!!『ターゲッティング』の呪いに導かれて、隊伍を組んで矢を放っていた傭兵どもの群れに竜の劫火が直撃する!!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンッッッ!!!
十五人ほどいた弓隊の中央で爆撃は発生して、彼らの全てを金色の劫火で焼き尽くす。火矢を放つために、油を用意していやがったのか……ヤツらの残骸さえも燃え始めていた。
……いい奇襲だが、さすがに派手すぎてはいるな。
大穴集落を襲撃している最中の傭兵どもも、そいつらと必死の戦いを繰り広げているドワーフの戦士たちも、上空の竜に気がついてしまった。それでいい。襲撃者どもの意識が、上空にも向けば、ドワーフの戦士たちは自分たちの集落を守りやすくなる。
今回は身を隠すのは止めだ。むしろ大いに目立つことで、ドワーフたちを援護してやるわけだ!!
「我が名は、ソルジェ・ストラウスッッ!!ガルーナ最後の竜騎士!!『自由同盟』の傭兵だあああああああああああああああッッッ!!!」
その叫びと共に、キュレネイとククルがゼファーの背から矢を撃ち放つ。大穴集落でドワーフの戦士を襲っていた襲撃者どもの体に突き刺さる!!
上空からの攻撃ってものには、ヒトはかなり弱いんだよ。襲撃者どもは自分たちがして来た得意の攻撃を受けて、怯むこととなる。
……とはいえ、ドワーフ集落の旗色は悪い。かなりやられちまっているな。襲撃者の練度は高い。戦術を頼らなければ。
「レイチェル!!踊ってこい!!」
「了解ですわ、リング・マスター!!」
オレの命令が無くとも、今にも戦場へと彼女は飛ぶところだったよ。しなやかな『人魚』が、砂塵舞う荒野の空へと身を投げる。
竜に注目している大穴周囲の弓兵たちは、ゼファーの翼跡に隠れるようにして飛んだレイチェル・ミルラを見逃していた。あの美しくしなやかな『人魚』の舞いを見られなかったことは、彼らの大きすぎる失態であった。
レイチェルは10メートルほどの高さを降下して、弓兵たちの目の前へと舞い降りる。大穴の淵を四つの方向から取り囲む、三つの弓隊のうちの一つにだ。その数は十五人。さっき、ゼファーが蹴散らしたのと同じ数。
訓練された傭兵どもは、その数におそらく戦術的な意味を隠している。レイチェルは、その弓兵の群れへと襲いかかっていた。『諸刃の戦輪』と共に、彼女は踊るのだ!!
殺意に嗤う『人魚』の舞踏は圧倒的である。
疾風のように速く、迅雷のようにジグザグな軌道にステップを踏みながら―――呪いの鋼による斬撃で、弓兵を斬り裂いていく。悲鳴が上がり、血潮が砂塵を赤く汚す。
傭兵どもは、目の前に現れた美女に混乱していた。
「な、なんだ、この女ぁ!?」
「ムチャクチャ速ええぞッ!!」
「弓を捨てろ、剣で――――」
レイチェルは、剣を抜き放とうとしていた傭兵の顔面を蹴りつける。そのまま足蹴にしながら宙へと舞う。空へと帰還した彼女は、イルカのように遊ぶように回転しつつ、『諸刃の戦輪』を投げ放った。
ギチギチと呪いにうごめく、その戦輪たちが傭兵どもに襲いかかる!!弓で受け止めようとしたが、『諸刃の戦輪』を木製の弓で受け止めようとするのは、あまりにも無謀なことだ。
弓を一瞬のうちに切断し、勢いが減ることもなく傭兵どもの体に呪いの鋼は深々と打ち込まれていた。致命的な深さにそれらは達している。崩れ落ちる傭兵どもに対して、レイチェルはさらに体術で挑む。
長い蹴りは鞭のような軌道で走り、武骨な傭兵の頭を打ち据えた。男の体が、あまりにも軽々と蹴り飛ばされる。
見た目こそ人間族の女。長身で鍛えられてはいるが、細身の女だ。それほどの威力を体術が生み出すとは、傭兵どもは想像をすることが出来ない。宙に舞った仲間を見て、認識を変えようと考えたはずだが―――経験値で固められた既成概念は変わらない。
経験とズレた戦闘能力を発揮しているレイチェルを見て、戸惑ってしまう。経験深い戦士であるがゆえの混乱だな。その混乱に乗じたレイチェルの強烈な蹴りの技巧が、もう一人の傭兵の頭と首を破壊しながら、蹴り飛ばしていた。
「ば、バケモノ……っ!?」
「くそ!!」
それでも弓を捨て、剣を抜く。抜いてしまう。接近戦で対応しようとしてしまうのだ。大きな間違いだった。
ヤツらが弓を捨てた瞬間、レイチェルは後転を二、三度繰り返しながら後方遠くへと飛んで行く。その動作だけで、10メートルは間合いを開けられた傭兵どもは、レイチェルを追いかけようと走り―――その背中に、呪いの鋼を受けてしまうのだ。
「がはうッ!?」
「ぎゃはあッ!!」
『諸刃の戦輪』は、凶悪な呪いで動く恐ろしい鋼だ。投擲されれば、投げられた時の速度と同じか、あるいはそれ以上の勢いで使い手の元へと戻って来ようとする。受け止めることが出来なければ、即座に八つ裂きになるが。
その呪いの鋼と使い手の間に戦士がいれば?……呪いの鋼は問答無用でその肉体へと突き立てられるのだ。
二人の哀れな傭兵どもが、呪いの鋼に刻まれながら大地へと膝を折って倒れ込む。
背後からの攻撃に対し、傭兵どもはさらに混乱した。敵に囲まれているのかと、背後に意識を集中してしまうが―――その瞬間にレイチェルはつけ込むよ。
彼女は再び前に出る。
突撃しながら、長い脚から放つ蹴りで、一人、二人と混乱する傭兵どもの頭を打ち、そのまま主目掛けて再三の飛翔をした『諸刃の戦輪』を受け止めていた。彼女の両手は、再び呪いの鋼を受け止めた。
ギチギチと鳴き、血まみれのまま動く『諸刃の戦輪』を指に絡めたまま、レイチェルはもはや壊滅状態にある弓隊の排除を開始するのだ。
「あっちは、援護する間も無さそうでありますな」
「レイチェルさん、あ、あんなに強いんですか!?……『人魚』って、ムチャクチャ強いんですね……っ」
「ああ。『人魚』の身体能力は桁違いだよ。だから、オレたちは三つ目の弓隊を仕留めるぞ!!」
「あいつらで、弓隊は最後でありますからな」
「行きましょう!!」
「ゼファー!!」
『らじゃー!!とつげきだー!!』
ゼファーは翼と共に背骨を唸らせて、最後の弓隊へと向かうのだ。
「竜が、来るぞおおおおおおおッ!!」
「一斉射撃で、射落としてやれッ!!」
「構ええええええええええええッ!!」
戦争屋の傭兵どもは、かなり練度が高いようだな。完全な連携を取り、整然とした隊伍を組み上げて、オレたち目掛けて弓を向ける。
「このまま行くぞ!!オレが『風』で守る!!ゼファーの劫火を、『風』で踊らせろ!!」
「了解であります!!」
「いつでも、行けます、ソルジェ兄さん!!」
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