第三話 『イルカルラに熱き血は捧げられ……』 その三十四
……マジメな男は嘘が嫌いだろうからな。オレはうなずいてやることにした。
「ああ。知っていたよ。劣勢に立たされたゲリラ組織ってのを、幾つも見て来た。何度もそういう連中に雇われたよ。安い金でも、帝国軍と戦えるのなら、昔のオレはそれで満足だったから」
「……志を変えたか?」
「……純粋さを失ってね。大人になったんだろう。昔は、感情のままに暴れ回っていただけだったが……今は、どうやれば帝国を倒せるのかが、分かったのさ」
「『自由同盟』が、ストラウス卿の答えというわけか」
「ああ。そうだな。『自由同盟』の力なら、この器ならば、帝国にだって勝てる力が集まるようになるさ」
「……亜人種を集めてか」
「亜人種だけではない。人間族もだ。その両者のあいだに、分け隔てる壁などない。オレは、それを証明したガルーナ王に仕えた竜騎士の一人だ。弱いオレたちは、集まるしかない。自分たちだけで戦っていても、成せることは少ないぞ、将軍」
「……私の特攻を止めたいか」
「アンタたちの、だな。一人で逝くわけじゃないだろ?」
「……不本意だがな。敵に打撃を与えなければならない。我々、老兵たちの命を捧げて、次世代の勝ちにつなげるためにはな」
「どこでやるつもりだ?」
やるなと言っても聞いてはくれなさそうだからな。ちょっとアプローチを変えてみたよ。バルガス将軍は、素直に答えてくれた。
「『ザシュガン砦』だ」
「……砂漠ではない場所か」
『イルカルラ血盟団』は砂漠を防御に使う戦術を得意としていたはずだが?
「砂漠での戦いを捨てるのか?」
「……ああ。砂の無い、しかし乾いた荒れ野だ」
「どうしてそこなんだ?……敵の守りが固いだろ?」
……だから、かもしれないが。そうではない可能性もある。敵の最強の砦に、疲弊した戦士たちで挑むとはな……。
特攻ってのは、決して効率のいい勝負ではないってことを、オレは自分でも他人でも、散々、見て来たんだがな。オレの倍は生きていそうな、このバルガス将軍も、知っていると思うんだが。
「なあ、バルガス将軍。どうせ特攻を仕掛けるというのなら、もっといい場所があるんじゃないか?」
「……『イルカルラ血盟団』は、この半年、ずっと砂漠で戦い続けて来た」
「……っ!」
「その意味が、分かるか、ストラウス卿よ?」
分かる……と断言するぐらいの自信は湧いていたよ。オレだって、この土地の地理ぐらいは把握し始めている。
カミラは、きょとんとしながら、あの可愛い『吸血鬼』の首を左に傾けていた。金色のポニーテールが肩に付きそうになるほどにね。
「どういう意味っすか、ソルジェさま?」
「バルガス将軍は、ずっと戦術を温存していたのさ。『ザシュガン砦』を攻めるための戦術を持ちながら、自分たちの特攻を叩き込む最善の状況を作ろうと、今まであえて避けて来た……違うか?」
将軍はやはりゆっくりとした落ち着いた動きで、うなずいていた。
「……そうだ。我々は、『ザシュガン砦』を落とすための策を残していた。その確率は低いものではあるが……砂漠に敵軍を誘導しつつ、その隙を突けば……それなりの損害を与えることも出来るだろう」
「……自分たちの命を使う戦術だっていうのに、なんとも落ち着いているんだな」
「砂漠の戦士というものは、合理的なものだ……私は、自分の命に対する執着は、それほどない。最後に、メイウェイと刺し違えてでもして倒すことが出来たなら、悪くない結末なのだがな」
「メイウェイの居場所を知っているのか?」
「……『ラーシャール』に出ている。我々と……そして、『ラクタパクシャ』どもを追いかけようとして、戦力を分散している。我々を舐めている……というよりも、『ラクタパクシャ』について放置しておきたくないようだ」
「……ヤツらを、どう考える?」
「どうとは、何だ、ストラウス卿よ?」
「……どんな集団だという認識をしているんだ?」
「……ふむ。人間族が中心となって結成された山賊団だ。性格は、極めて残忍。主に国外出身の流れ者や、帝国軍の脱走兵から成っているようだ」
「『イルカルラ血盟団』と接触したことはあるか?」
「……今のところは、戦いになったことは少ない。ヤツらは、かなり素早く……そして、獲物の情報に詳しすぎるからな」
「獲物情報に詳しいか……」
オレが納得したといった貌になるのを、カミラは、じーっと見つめていた。純朴そうな瞳が、どういうことですか、ソルジェさま?……って訊いているように感じたし、事実そうだったよ。
「つまり、『ラクタパクシャ』は帝国軍の一部と内通しているってことだ」
「ええ!?……敵同士なんじゃないんすか!?」
「……メイウェイの存在を、快く思わぬヤツらもいるのだよ、お嬢さん」
「……快く思わぬヤツら……っすか…………ロビンとかいうヒトも、言っていたっすね。帝国軍の敵は……帝国軍」
「そうさ。お嬢さん、メイウェイには敵がいるのだ。帝国軍の内部にな。それが、『ラクタパクシャ』に情報を提供しているのだろう」
「効率的に商隊を襲いすぎていることが、その証拠だと考えているんだな」
「私たちは、そう考えているよ。君は、違うのかね?」
「……いいや。バレていると思うが、オレも同じ考えだ」
『ラクタパクシャ』は、『アルトーレ』が陥落した直後から、激しく暴れているんだったな……。
メイウェイからすれば、『アルトーレ』にいるクラリス陛下のことも警戒しなくてはならない状況だ。山賊どもからすれば、荒れた状況につけ込む隙は見えてくる時期ではあるが……。
一見、『ラクタパクシャ』が暴れ出したタイミングは、戦況に乗した『自然な行動』にも見えるが、メイウェイに負担を与えてやりたいかのようなタイミングでもあるのさ。
戦場を支配するのは、いつだって合理的な悪意に基づいた策略―――ガルフ・コルテスの哲学を継承するオレたち『パンジャール猟兵団』の猟兵としては、どうにも悪意の影を嗅ぎ取ってしまう。
「……『ラクタパクシャ』と、我々、『イルカルラ血盟団』……同時に対応しようとすれば、いくらメイウェイと言えども隙は出て来る」
「そこを突くのか?」
「そうだ」
短いが決意に満ちた答えだった。バルガス将軍の穏やかな瞳の奥には、決意の意志が燃えているのが見える。何一つ、迷いは無いらしい……。
……こういう戦士に、死なれたくはないんだがな……政治ってのを考えると、彼では『メイガーロフ』の器になることは出来そうにないのも事実。彼は、間違ったことをおそらくしてはいない。だが、機運というものには見放された存在だ。
「……メイウェイを倒したいか」
「……ああ。私の人生における、最後の仕事になる」
「……刺し違えることが出来れば、本望か」
「……メイウェイのことが、嫌いなんすね……」
「……違うよ、お嬢さん」
「え?」
「私は、メイウェイを買ってはいるんだ。いい男だよ。もしも、同じ側で戦えたなら、私は彼と友人にもなれただろう」
「……友人にもなれたか。ずいぶんと高評価だな」
「実力がある。私よりも、軍事的な才能も、政治屋としても有能だ……だが、有能な敵をこの世に残したまま、あの世に逝くつもりはない」
「……バルガス将軍。本当に、マジメな男だよ、アンタは」
「褒め言葉だと受け取っておこう」
「ああ。紛う事なき、褒め言葉だよ」
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