序章 複雑な地下監獄<プリンズブレイク>
今日は親戚のお兄さんが久しぶりにくる日だ。もう五年くらい会っていないけど、私のこと覚えているかな。
ピンポーン。チャイムの音が玄関のほうから聴こえた。
「椋奈<むくな>~楼二さんきたわよー」
―――――時は西暦8000光年。宇宙には地球と良く似た惑星【アテラス】があった。
地球とまったく同じ文化のこの星。
一つだけ違うのは彼等は私達を見ることが出来ないってことくらい。
「アテラスNEWSです。人類が住んでいるかもしれない新しい惑星が発見されました」
部屋のテレビを消して、階段をかけ下りる。
「ムクちゃん、久しぶりだね」
楼二さんがにっこり、昔と変わらない爽やかな印象だ。
「久しぶり楼二兄さん!」
―――隣にいる茶髪の女性は誰だろう。親戚にこんな派手美人いたかな。
「楼二さん、隣のモデルみたいに綺麗な人って……」
親戚の誰かがあか抜けたとか、親戚の誰かがニューハーフになったとか、女装ドッキリまたは友人の一人とかならいいんだけど。
「紹介するね。彼女は僕の婚約者で明後日の月曜日<マンデルデー>に結婚式をするんだ」
「……そうなんですか!?」
鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。それはピシャリと電流のごとく、私の頭に落ちた。
「楼二、婚姻届けって式の前に出すものだった?」
「ピクシィによると式の後でも大丈夫だって」
あ、テレビでお馴染みの雑誌。―――本当に結婚するんだ。
「どうしたんだよ姉ちゃん」
弟の彩紋<あやふみ>がクリスマスケーキを食べながらこちらを見ている。
「なんでもないよ」
「ふーん」
せっかく久しぶりにお兄さんと話そうと思ったけど、話すことが浮かばない。
それに婚約者の人もあんまり話しかけたらいい気しないだろうから。
私はご飯を早く食べて、二人が帰るまで部屋にいた。
結婚式の前日、両親は仕事なので、冬休み中の私と彩紋で教会にいく。白無垢の花嫁を立てるように黒無地の服にした。
「白無垢に黒無地、うまいと思わない?」
「つまんねーこと言ってないでさっさといこーぜ」
「それでは―――」
結婚式が始まり、しばらくして、指輪交換のときがきた。
さよなら私の初恋―――――
ドガアアアアアアアアア。
耳をつんざくような地鳴り、なにかの崩れた音がした。
会場は無事だが、周りでなにがおきたというのだろう。
窓から外を観ると、どことなく荒んでいて、いつもと違う町並みだ。
見知らぬ騎士のような男達は、会場を制圧した。
「おおっこいつらがアテラス星人か……俺等とよく似てやがるぜ」
私は彩紋の手を引いて、結婚式で神父のいる教卓のような場所の裏に隠れ、場をやりすごす。
一瞬で会場は荒らされ、他の人は無事のようだが新郎神父の姿が消えている。
嘘でしょ―――楼二さんとついでにその婚約者さんが、わけのわからない武装集団に拐われてしまった。
「あ、おい姉ちゃん!どこいくんだよ」
「私、楼二さんを助けに行く!」
「は?……ちょ待てよ」
「止めないで……愛の為なら人間なんでもできるんだから!!」
――なんか今の私かっこよくね?
「……敵の場所しってんの?」
「あ」
「つーかここどこ?」
私は窓の左をみるが、いつもの景色だ。しかし右をみると、なんだか外星がへばりついている。
私たちは一旦家に帰って、NEWSを観ることにした。
「たった今入りましたNEWSです。惑星ダークブルーム・エンゲージがアテラス星と連結しました!」
なっなんだってー!
父は宇宙管理局の局員なので電話でたずねる。しかし父はペーペーなので星家<せいか>機密は知らん。の一点張り。
やっぱ私が乗り込むしかないでしょ。マーウッド映画のヒロインを気取りながら、玄関を出ようとする。
「いたっ」
小指を玄関ドアにぶつけてしまった。かっこつけたはいいけど、私はパンピーだし仕方ないよね。
―――――どうにかならないかな。
《人間よ……力がほしいか?》
「誰!?」
耳に……いや、頭に直接話しかけてくる。
《我は邪なる創造神・イディオ》
「あーもう誰でもいいから力ちょうだい。従兄のお兄さんが拐われて大変なの!」
《くれてやっても良いが……我が願いを叶えよ》
「……神様なら願いくらい自分で叶えたら?」
神にできないことなんてないでしょ。
《ダークブルームの神を倒せ》
「え!?……ダークブルームってあの星のことだよね。なんで?」
「誓約により神は神を倒せぬ」
「わかったやられるかわからないけど頑張るから力ちょうだい!お兄さん助けたら返すから」
◆
私は力を貰って、ダークブルーム・エンゲラデス星?に散歩感覚でわたり、城があったので裏口から入ることにした。
「貴様!どこのものだ!!」
門番が現れた!! どうしよう!!
「……!?これは失礼いたしました!!」
いきなり門番が態度を改めて、私を城の中へ通してくれた。どういう風の吹き回しなんだろう。
「うわっ姫様ああああああ!」
――――姫様!?なんか執事やメイドが私を見るやいなやどっと端に押し寄せた。
私の顔をみないように、深々と頭を下げている。いったい何がどうなっつ?
◆
「会いたかったぞ我が娘よおおおおおおおお!!」
私はどうやら顔が行方不明のお姫様に似ているようで、姫の父だという王と王子が私を娘と勘違いして、その再開に感動している。
これは、ラッキーだ!城に楽々入れた上に向かう所敵なし。これで楼二さんを助けられる!
「王様~」
この女性、なんか楼二さんの婚約者に似ている。
「あの……」
「げっ」
あからさまに嫌そうな顔をしている。話をするために玉座の間を出て通路に出る。
「あなた楼二さんと結婚式をしていた人ですよね」
「そうよ」
「なんで敵国にいるんですか」
あのとき拐われていたけど、普通は地下監獄に捕えられているはずじゃない。
「王様ってお金持ってるし、そこそこ顔もいいから~」
――――は?
「私、彼とは結婚しないわ!」
彼女は脱兎のごとく逃げた。
――――王様がなによ。そう簡単に別れるって、なにより楼二さんを弄び切り捨てるなんて許せない。
決めた―――私、楼二さんを助けることと、あの人に痛い目を見せてやる。
とにかく私はそこらの使用人さんに地下監獄の場所を聞くことにした。
「ちょっと」
「ひぃ!?」
彼はビビっている。私彼になにかしただろうか?
「地下監獄に行きたいのだけど鍵はどこにあるのかしら?」
王女になったつもりでた
ずねる。
「ししし執事長がご存じかと!!」
彼は半泣きで逃げ出した。もしかして王女は使用人達をイビってたのだろうか。
さっそく執事長とやらに会いにいくことにした。で、その人がどこにいるのかわからないのでやはりそこらに歩いている人にたずねる。
―――
「なにかご用でしょうか王女殿下」
銀髪美形青年が涼やかな顔で問う。
「地下監獄に行きたいのだけど、鍵を渡してもらえる?」
「かしこまりました」
――――意外と簡単に渡してもらえた。
誰もいないことを確認して地下を探し、監獄らしき場所を見つけた。
「王女!?」
「なぜこちらに!?」
牢番に怪しまれて、言い訳を考えていると、二人は互いの顔を見合わせ青ざめた。
「ばっか、殿下は囚人をいたぶりに来たにきまってんだろ」
「暇潰しに拷問か……こええ……」
小声で話しているけど丸聞こえだ。とりあえず私が本物の王女じゃなくてよかったね。
「どどどうぞ!」
「こここれも!」
私にカンテラを手渡し、二人はささっと扉を開ける。
それにしても暗いなあ。私はエルイーデイで明るい灯りにしか慣れないから。
目をこらしながら楼二さんを探し進む。
「楼二さんいますか~?」
「椋奈ちゃん!?」
名前を呼ばれた。この声は――――
「楼二さん!!」
「どうしてここに、その格好は?」
私は楼二さんを牢からだして、詳しい話をした。まずは私が彼を助けにきた事を伝える。
「……そうだったんだ。危険な真似をさせてしまってごめん」
「いいえ、私が来たかったんです!」
婚約者の女については後々知ることになる筈なので伏せておく。
それと私が婚約者と会ったことは伏せて、普通に聞くべきことをきく。
「どうして楼二さんと彼女を拐ったのに彼女はここにいないんですか?」
男女でわけているならともかくこの牢にいるのは彼だけだ。
つまりダークブルームエンゲージ星の奴等は新郎神父の二人だけを狙った?
「彼女はとらえられたとき、王から気に入られてね……」
「……」
彼女なら金目当てで王にこびてた。なんて言えない。
「でもエイリアン映画みたいに多くの人がキャトられなくてよかったよ」
「あ、何かひどいこととかされてませんか?」
楼二さんに怪我なんてさせたら拷問より怖い目にあわせてやるんだから!
「ううん、牢にいれられたくらいで拷問とかはないよ」
ひとまず彼に怪我がなくてよかったと思う。
「とりあえずはそれとなく拐った理由をたずねます。我が儘王女みたいなのでイケメンな楼二さんを気に入ったからお婿さんにするわ。というノリでいきます」
いつになくまともに頭が働いた。作戦なんて頭を使うような老獪めいて狡猾で難しい事は私には浮かばない。
イマジネーションも豊かではないので普通に誰でも考え付くような月並みな事をやる。
●
「いいんじゃないか、テラネス星人との結婚も新地的だ」
「うむ、好きにするがよい」
なんとか楼二さんが安全でいられるようにこぎつけられた。
婚約者の女は多くの女に混じって王の膝の上にいる。たしかに王の顔はよくいるデブ王と違ってまあまあいい。
しかし、楼二さんにはああいう玉座とか社長イスは似合わないと思う。
司書とか植物博士とか癒し系が彼の優しいイメージにピッタリだ。
「次はどうやってここを抜け出すかだけど」
「そうですね、私頭悪いんでコンヤクシャさんを王から助ける方法も浮かびません……」
周りの目に気を付けながら私はじっと座っていた。
すると機械音がしたので、誰かからメールがきたんだとバッグからタブレットをとりだした。
「あ、彩紋からの連絡が……今どこで何してるんだ?」
「彩くんに言わないで来たの?」
楼二さんはまさかと驚いている。
「はい。すぐにここへ来ましたから」
「それじゃあ君がすごく心配しているだろうな……」
楼二さんを助けることで頭がいっぱいで彩紋の事をすっかり忘れていた。
でも彩紋が楼二さんみたいに拐われていたならともかく普通に家にいるんだから今は考えなくても問題ないだろう。
「問題はないことをメールしたので、今は脱出を考えましょうか」
私は楼二さん救出ミッションはクリアしたので、もう家に帰りたい。
しかし一応私はこの星へ久々に帰還した王女と認識されており、安易に星から出られないと思う。
「脱出したら彼女を探さないといけない。どこにいるんだろう」
「それは脱出してから考えましょうよ」
元婚約者を見捨てたい気持ちはともかく楼二さんは彼女が好きなんだから王の膝元にいるなんてショッキングなこと彼に言えるわけない。
「とりあえず明日から頑張ろう」
楼二さんが就寝したのを確認し、私は部屋に戻る。
「おい」
「あ、イディオ」
私に力をくれた創造神とかいう変な男だ。
「目的は意外と早く叶ったようだが、いつになったら奴を倒しにいくんだ?」
「ああ……星神をぶったおす約束なんだっけ?」
彼に言われるまで忘れていたが、その敵の神とやらがどこにいるのかわからないので倒しにいくことはできない。
「奴はあの高い塔の最上階にある神殿の間にいる。なぜ奴を倒せないかというと塔に入れないからなのだ」
「なるほど、つまり塔に入れれば貴方が宿敵を倒すこともできるんじゃない?」
どう考えても私が塔に入れても神を倒すことは無理だ。
□共通2 邪悪な神はどちらか?
「殿下、本日は礼拝の日です」
私は執事長につれられ、あの塔にある神殿までやってこられた。
「えっと奉っている神は……」
「貴女がこちらにこられるのは、たしか今日が初めてでしたね?」
自星の神を知らないのを王女が信仰心の薄い人だからで済んで助かった。
というか、彼の名前はなんだっただろう。
知り合いみたいだし、さすがに名前を聞いたら怪しまれる。
「シャドア、僕が説明しておくよ」
神官らしき男が爽やかに現れる。
「ああ、まかせた」
執事長は一礼して去っていく。
「お初にお目にかかります。私はルミス、神官長を勤めています」
随分と若く見えるけど他の星の人は寿命が長いから結構年いってるのかも。
「セレイネ様、どうなさいました?」
「ええと、私は何をすればいいのかしら」
姫がここに来たことがないなら、やり方を知らなくてもおかしくないはず。
「ご心配はいりません。お話を聞いて、お祈りをするだけですから」
私は神がもたらしたこの星の歴史を彼が語るのを聞くことになる。
「ルヴミュード神は創造神カミュレットによりダークブルームを賜りました」
つまり星を作った神に管理を任されたということかな。
「ある日、カミュレットと相対するイディオという神はダークブルームを呪いにかけました」
―――イディオってやっぱり悪い神なんだ。邪神でもいいとか言ったから仕方ないよね。
「呪いにかかった王は恋人達を引き裂くようになったのです」
もしかして、楼二さん達の結婚式がぶち壊しになったのは呪いのせい?
(イディオありがとう!)
□珍妙な三つ巴
ドガアアアアアア―――!
「なに!?」
いきなり耳をつんざくような音がして私は慌てた。
「なんだ……?」
向こうが大爆発した様子が塔の窓穴から見える。
「報告いたします。たったいま未確認の惑星と衝突した模様」
今時は星同士が互いを認識すれば回路が繋がって、拒否しないかぎり移動が可能だ。
宇宙の星達は長い年月をかく27つに合成された。だから異動はコンビニへいくようなもの。
「……どうしたら」
今生きている惑星は無数の星がよせ集められている。
まだ27の惑星に淘汰されていなかった星が大きくなってようやく出現したようだ。
□エンゲラデスの王子
「いやはや、申し訳ありません」
「なあに、ここでまみえたのも何かの縁よ」
惑星エンゲラデスの第一王子 プリーズド=ブーゲンピリヤが招かれた。
「多くの民が邂逅する前に尽きてきましたから、私の代で貴殿方に巡り会えた奇跡に感謝いたします」
永らく宇宙で孤立した星として彼等は旅をしていたそうで、ようやく連星できたと喜んでいる。
宇宙にはチリ星はあれど生命体がいるほど大きいものは纏まってしまったからだ。
「レクトムール、年も近いようだ。同じ王子としてエンゲラデスの王子を丁重に案内せい」
王に命じられたのは私の兄ということになっている彼だ。
「はい、父上」
「ところで、ダークブルーム陛下そちらの美しい姫君は……」
エンゲラデスの王子が私を見た。
白い肌と薄い色素の髪、ファーのついた服から察するに寒い星なんだろう。
「我が娘、セレイネだ」
私は姫らしく軽く頭を下げる。
この星の作法とか姫のマナーなんてわからないからイメージだ。
「セレイネ姫、私と結婚してください」
「え?」
「無礼は承知ですが、貴女に一目で心を奪われました」
「ほう仕方あるまい。セレイネは美しいからな」
「ごめんなさい私には決めた方がいるの」
「そうですか……でも諦めませんから」
エンゲラデスの王子はまるで物語の登場人物のようにかっこいい。
ただし私ではなくセレイネ姫に惚れただけなので告白されてもなんとも思わない。