夢の世界を解き放つ
3日の有余を終えて、最後のイベントが幕をあけた。
世界の崩壊である。
「イベントは発生させた。あとは結たちがうまく誘導してくれればうまくいくはずだよね。」
結からの返事を見た後は、怖くて掲示板は見れなかった。
どんな恨み言を言われても仕方ないことをした。
モンスターを排除して、食物の味は最悪になるように説明を書き直して、あらゆる便利機能を廃止して。
とにかく、その世界が地獄になるように意識して変更を施したのだ。
未練を一切残さないように。
「ここまでやって、うまくいかなかったらどうしよう。」
「大丈夫だよ。」
「戻ってきた人たちに、何か言われたりしたら。」
「責任なら、俺も持ってやるから。」
「何も起こらなかったら。」
「また違う方法を探すだけだ。だから、そういうのは後で考えろ。今は何も考えなくていいから。」
寝るように施されて、いつの間にか深い眠りについていた。
ようやく目が覚めた頃には、驚いたことに一日すぎてしまっていたことを知らされる。
「あれから、どうなったんですか?」
「戻ってきたよ。全員、記憶は無いらしい。」
刑事さんはそう言うと、こちらへ新聞記事を手渡す。
そこにはたしかに、行方不明者が帰還したとの朗報が執筆されていた。
突然目の前に現れた人もいたようで、世間では神隠しとも言われているようだ。
誰もが夢から覚めたのだ。
「お前が眠っている間に結とも会ってきた。あいつも何も覚えてないってさ。」
「そんな。」
行方不明者の記憶が無いのは、救いでもあった。
ゲームについてバレるのも、文句を言われるのも覚悟はしていたけど怖かったから。
だけど、ゲーム内で幸せを得た人もたしかにいたのだ。
結も、その一人だったのに。
「ゲーム世界で知りあってた恋人とは、もう会えないんでしょうか。」
「特定はできるかもしれないが、会ったとしてもまた恋に落ちるとは限らないからな。」
「そうですよね。」
また会おうって約束していた二人が、こんなことになるなんて。
もっと、詳しく話を聞いておくべきだった。
「犯人の方もどうしたもんだか。例の記憶もなければ証拠もないし、財産はゲームに投げ込んでるから大変そうだしな。」
刑事のぼやきも耳に入ること無く、私は結のことで頭がいっぱいになっていた。
その数日後、彼女との再会を果たす。
「心配させちゃってごめんね。」
「あれ、その人は。」
「それがビックリでさ!この間知りあったんだけど、この人も行方不明だったみたいで。いろいろ相談し合ってるんだけど。」
彼女の隣でほほ笑む彼の話を聞いて、杞憂だったんだなと苦笑いした。
「ねぇ、あのゲームは復活させないの?二人で協力プレイしようって話になってて。」
「もうやったくせに。」
「なに?」
「ううん。それよりゲームの話だっけ。あれもう遊べなくなっちゃったんだ。」
「ええー!?そんなぁ。」
「でも、また作ればいいじゃん。今度はその人の意見も取り入れて作るとかどう?」
「また一から作るの?」
「作りたいならね。」
あの世界は消えてしまったけれど、夢の世界なんてまたいくらでも作れる。また作ればいいんだ。
誰も用意してくれないのなら、自分の手で。
「今度は普通に楽しもうね!」
もちろん、ゲームとして。