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第7話 介入

突然あたりに響いた大音声にいささかも怯むことなく、

低い姿勢を維持したカレンが強く地面を蹴る。


「…タイムラグクロス!」


裂帛の気合いと共に輝く長剣が振りかぶられたかと思うと、

突如として消失した。

--否。

剣筋のあまりの早さに、視覚処理が追いついていないのだ。


今度こそ死ぬ、と覚悟を決めたその刹那。


「そこまでと言ったはずです…!アローストーム!」


先ほどの野太い声とは対照的な、

あたかも澄んだ水のように清冽な声が奔った。

その直後、突如として出現した無数の光の矢が、

濁流のようにカレンに襲いかかる。


それでもカレンは眉ひとつ動かさず、

発動待機中だったと思われる「タイムラグクロス」を即座に解放。

そのまま襲い来る矢に振り向け、その全てを撃ち落とす。


「な、なんだ…」


「すごい、です……」


レベルが違いすぎる…

呆然と顔を見合わせる俺たちの前に、現れた人影は二つ。


長弓を携えた儚げな雰囲気の女性に、

お約束なほど筋骨隆々の坊主男だった。

油断なくカレンを睨む女性の耳は長く、髪はプラチナプロンド。

ファンタジーには定番のエルフ族だろう。


「SSR:アイシャ クラス:スナイパー LV:??」


美しき闖入者もまた、SSRだった。

筋骨隆々の男が、先ほど叫んだ声の主で、アイシャのマスターらしい。


矢を撃ち落としたカレンは、それ以上俺たちとの距離は詰めようとしない。

後ろで刀を収めて見守っていたサクヤも、ふたたび抜刀し、

カレンの援護をする構えを見せていた。


パートナーキャラに戦闘を任せきっていたクリムゾンの2人もそれぞれ抜剣し、

ちょうど4対4で向き合う形となる。


「おいおい、邪魔すんじゃねぇよ」


細目の男が、先ほどとは打って変わり、真剣な表情で吐き捨てる。

小柄な方が、マッチョ男の右上あたりに燦然と輝く白い紋章を指差した。


「おい、あのマーク…白の騎士団だ」


「なんだと…またPKの邪魔に来たってのか。正義の味方気取りのクソ野郎どもが」


マッチョ男が憮然とした表情で応じる。


「おいおい、クソ野郎はどっちかといえば…いや絶対にお前らだろうが」


マスターに追従するようにアイシャも頷く。


「クソ野郎どころか、ゴミカス短ピー包ピー童ピー野郎ですわ」


あの…なんかいま、検閲プログラムによる修正音声が入ったような…?

気品のある顔立ちに似合わず、恐るべき口の悪さのようだ。

ニアはといえば…目をぱちくりさせている。

どうやら、悪口の意味はわからなかったようで、なぜか一安心する。


「相変わらず口が悪いな…アイシャよ」


「マスターの背中を見て育つといいますので」


悪びれる様子もなく取り澄ました顔のアイシャに、苦笑いするマッチョ男。

とはいえそんな2人の間に、絶大な信頼関係があるということは、

初対面の俺にもなんとなくわかった。


「まぁそれはそれとして、クリムゾンのお二人さんよ。お互いここは剣を引こうじゃないか」


マッチョ男は両手を軽くひらひらさせ、戦意がないことを示す。


「そっちはSSR1にゴミレアと初心者、こっちが有利だってのに引くと思うか?」


細身の男は強気な返答を返すが、

すでに先ほどまでの余裕の笑みは消し飛んでいる。

それほどまでに、マッチョ男とアイシャの放つ闘気は並々ならぬものがあった。


「ほぅ…では、この白の騎士団序列第4位にして人事部長、小野寺隆文と一戦交えると?」


穏やかだったマッチョの語気が、急速に低くなり、

さながら嵐の前の暗雲が立ち込めるような気配を放ち始めた。

というか…小野寺隆文って…本名?


「やべぇ、こいつ、有名な社会人プレイヤーだよ……この前うちの幹部も何人か殺られたっていう…」


小柄な男は、小野寺の名乗りを聞いた瞬間逃げ腰になり、

相方を小突いて離脱しようとする。


「こっちにはカレンとサクヤがいるんだぞ!そう簡単にやられるかよ!」


細めの男は虚勢を張り続けるが、戦意の喪失はすでに明らかだった。

刀を構えたサクヤが、おどけたような口調で後を引き取る。


「わらわとしては死ぬまで戦っても構わぬが」


「ロストしたらどうすんだよ…俺とカレンは逃げるぞ!」


小柄な男はそう言うや否や踵を返し、一目散に駆けていく。


「……」


一瞬だけ軽蔑するような視線をその背後に向けながら、

いつの間にか長剣を収めていたカレンも後を追って走り去った。


「どうする、マスター。そなたと心中するなど悪趣味もいいところじゃが…

奴隷同然の我が身なれば、そう願われては拒む術もない」


完全に確信犯の域に達しているからかいに、

余裕を失った細目の男は吐き捨てるように言葉を返す。


「……ここは引いてやる」


それでも小柄な男よりは骨があるのか、背中を向けることなく、

剣を構えたままじりじりと後退してゆく。

サクヤも、マスターを庇いつつも優雅さを損なうことなく、

それでいて一分の隙もなく距離をとりつつあった。


「お主、なかなかの男ぶりであったぞ。わらわも守ってもらいたいものじゃ」


最後になぜか、俺に向かって流し目を送ってくるサクヤ。

思わずドキっとしてしまった俺に、

冷たい視線が突き刺さる。

ニアが、じとっとした目で睨んでいた。


「リョウキさん、やっぱりああいう女性が好きなんですか…」


「いや、そういうわけじゃ…」


しどろもどろになる俺に、突然メガトン級の衝撃が襲った。


「おうおうニイちゃん、確かにいい男ぶりだったぜ!ガッハッハ!」


白の騎士団のなんとか部長、小野寺…さんが、俺の背中をバシンバシン叩いたのだ。

みるみる俺のHPゲージが減っていき、危うく赤くなる寸前で、

小野寺さんが慌てて手を止める。


「あ、すまんすまん。ニイちゃんは中立扱いだから攻撃判定になっちまうか」


「相変わらずの脳筋ですこと」


謝る小野寺さんを、冷たい目で見据えつつ罵るアイシャ。

うーん、これは新しい境地が開けるかも…

などとその美しい横顔に思わず見惚れかけると、

再び冷たい視線が突き刺さる。

ニアが、先ほどよりもっとじっとりした目で睨んでいた。


「リョウキさん、美人なら誰でも好きなんですか…」


「いや、そういうわけじゃ…」


--それが、俺たちと白の騎士団の出会いだった。

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