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第15話 パートナー

作戦はこうだ。

自己バフとアイテムで可能な限り素早さを上げたニアが囮になり、

わずかの間ヴォルテクスを引きつける。

その隙に俺が背後から接近しつつヴォルテクスの上に飛び乗り、加速スキルで連続ジャンプ。

後は弱点と思しき目を突いて突いて突きまくる!


うまくいくかどうかは紙一重だ。

それでも、互いを信じると決めた俺たちならば、何とかなるかもしれない。

いや、何とかしてみせる。


決意を胸に、俺はヴォルテクスの脚の間に向かって突進した。

釣られて追いかけようとするヴォルテクスの顔に、氷魔法がヒットする。

放ったのはもちろんニアだ。


サポートメインとはいえ、キャスターはいわゆる魔法職。

初級程度ならば、攻撃魔法も使えるようになっていた。

成長しているのは俺だけではない。


さほどの威力がないとはいえ、弱点属性の魔法を嫌ったのか、

ヴォルテクスのターゲットが俺からニアへと移る。

…チャンス到来と言えるが、残された時間は少ない。

再びあのブレスが放たれたら、ニアが持ちこたえられるかどうかはかなり怪しい。


強化バフの恩恵を存分に活かしながら、軽やかな足取りでニアが跳ね、

ここぞというタイミングで氷魔法を放ち、ヴォルテクスを翻弄した。

一見すればさながら妖精のダンスのような優雅さだが、

それは薄氷の上を歩くようなギリギリの賭けであることを知っている。


ニアが決死の覚悟で頑張ってくれている間に、

無事にヴォルテクスの四肢を潜り抜け、背後に回りこむことに成功した。


「もう少しだけ頑張ってくれよ…ニア!」


言葉には出さず、胸の中だけでそう叫ぶ。


「ダブルブースト!」


連続発動する加速スキルを発射台代わりに、俺は全力でジャンプする。

ちょうどヴォルテクスの尾の付け根のあたりに着地する瞬間、

再び加速スキルを発動。

タイミングを一瞬でも誤れば振り落とされて終わる。


「…ジャスト!」


自分でも驚くほどの最適なタイミングでスキル発動に成功し、

俺はさらなる高みへと翔ぶ。

次の瞬間、無事にヴォルテクスの背中へと舞い降りる。

…あと一歩だ!


その刹那、ヴォルテクスが大きく頭を振りかぶり、

次の瞬間には再び怒濤の如き爆炎が吐き出される。


「…早すぎる!ノーチャージで打てるのか?!」


予想より早いブレス攻撃に、背筋が凍りついた。

ニア…死なないでくれ!


ヴォルテクスの背にしがみつきながら、なす術もなくニアを見つめる他ない。

一瞬だけ、視線が交差する。


「(だいじょうぶ)」


その小さな唇は、確かにそう言った気がした。


目前に迫ったブレスに、ニアが氷魔法を正確に三連射。

そのうちの二発は、あらかじめ詠唱済みの状態で杖に封じていたのだろう。

塵も積もれば…の原理で、正確な等距離を保って放たれた三発の魔法は、

ブレスの炎を的確に減殺。

ちょうどニア1人分がなんとかすり抜けるだけの空間を作り出すことに成功していた。


思わず止めていた息を、深々と吐き出す。


「…よかった」


ニアはと見れば、俺に向かってVサイン。

いい笑顔だ。


「やるじゃないか」


賞賛の視線を送りつつ、俺もヴォルテクスの背を強く蹴る。

ニアが作ってくれたこのチャンス、逃すわけにはいかない。


残りわずかになった加速スキルを惜しむことなく発動し、

ヴォルテクスの頭へと翔ぶ。

これまでの着地点よりもさらに狭いその一点へと、意識を集中する。


「ウオォォォォッ!」


叫んだとて飛距離が伸びるわけでもないが、声を止められない。

幸いにしてブレスの反動か、ヴォルテクスの頭はほとんど動かなかった。

…届く!

俺のつま先が竜の鱗を捉えたその瞬間。


一際高く吼えたヴォルテクスが、再びブレスを放っていた。

先ほどよりも遥かに炎の量が多く、あたり一面を焼き尽くすほどの大火炎。


発動の瞬間、ヴォルテクスの頭が激しく揺れる。

かろうじて角につかまるのが精一杯で、襲い来る炎の前で立ちすくむニアに、

何もしてやることができない。


「ニアァァッッ!!!」


俺は絶叫し、角から手を離すと同時に、鞘に収まってた双剣を抜いた。

ブレス発動後の硬直により、無防備になったヴォルテクスの目へと、力いっぱい突き立てる。

狂ったように、何度も何度も。

刺して刺して刺して刺しまくる。


…足らない、こんなもんじゃ全然足らないんだよ!

自分のものとは思えない、悪鬼の如き絶叫が、どこか他人の声のように響いている。

ヴォルテクスのHPゲージがみるみる減っていき、苦悶の声を上げるが、

それでも俺の剣は止まらなかった。


溢れ出る憎悪と怒りを、そのまま剣に込めて、

あらん限りの力で刺し続ける。


気がつけば、いつの間にかHPの尽きたヴォルテクスが消滅しており、

俺は何もない地面を突き刺していることに気づいた。

我に返り、やっとのことで手を止める。

剣を握りしめる力が強すぎたせいか、手の感覚がなくなっていた。


目の前には、ブレスの残り火ともうもうとした煙が漂っている。

視界が悪すぎて、ニアがどうなったかわからない。


「ニア、ニアァァッ!」


とっくに喉は枯れている。

それでも、声を振り絞るように叫びながら、その姿を探す。


「大丈夫か!」


駆け寄ってくる小野寺さんとアイシャの姿も見える。

…守ってくれるんじゃ、なかったのかよ。

そんな恨みが一瞬だけ浮かんでくるが、今はニアを探すのが先だ。


息切れに構わず走り続け、ちょうどニアのいた辺りにたどり着く。

一際濃い煙が燻る中、微かな煌めきが漏れ出していることに気づいた。


「まさか、消滅エフェクトじゃ…」


黒塗りの絶望感に襲われながらも、必死で煙を払う、その先に。


呆然とニアが座り込んでいた。

…生きている、生きていてくれた!


ニアの身体を取り囲むように、虹色の輝く円陣が回転していた。

円陣から放たれる赤い光が、あたかも絶対防御の膜のように、

ブレスの残り火と煙からニアを護っている。


「あれは…絆スキル?まさか本当に実装されているとは…」


感嘆したように呟く小野寺さんの声を聞き流し、

俺はただまっすぐにニアの元へ駆け寄る。

ニアはまだ呆然として、座り込んだまま一歩も動かない。

目があった。

その瞬間、円陣が消失し、ニアの体がぐらり、と傾く。


こんな時、俺はどうすればいいか知っている。

今度こそは、ためらいも照れもなく。

大切な人を、抱きしめた。

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