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第11話 激闘

「とはいえ…隙がない」


もはや足こそ竦んでいないものの、圧倒的な闘気を放つ巨体を前に、

迂闊に飛び込むことはできなかった。


「来ないのならば、こちらから行くぞッ!」


そう言うや否や、小野寺さんが戦斧を大きく振りかぶる。

ギガンテスの二つ名に相応しい、戦神のごとき凄まじい気迫。

次の瞬間、恐るべき超高速で巨大な戦斧が振り下ろされた。


ぞくっ、と鳥肌が立ち、俺は本能的に右ステップで飛び退く。


「…あっぶねぇ…」


ほんの一瞬まで俺の身体が在ったまさにその空間を、

斧から生じた衝撃波がなぎ払い、

その先にある練兵場の壁に着弾する。

もうもうと煙を上げたそこは、それはもうゴッリゴリに抉れていた。


「久々に見たな、あの衝撃波」


「あれでスキルじゃないってんだからびびるよ」


騎士達が感嘆の声を漏らす。

おいおい、通常攻撃でこの威力とは、反則級じゃないか。

ふと気がつけば、MAXだったはずのHPバーが、

5分の1ほど削れている。


「…避けてこれかよ」


「言い忘れていたが、君が死んでもデュエル終了だ。その場合は、無論失格だがな」


余裕綽々、といった表情の小野寺さんが、再び斧を引き戻す。

もう一度衝撃波を放つつもりだ。

先ほどの回避は半ば、というかほとんど完全に偶然の産物。

もう一度そんな幸運に賭けるほど、俺もド素人じゃない。


「ブースト!」


覚悟を決めて、加速スキルを発動。

恐怖を押さえ込みながら、巨漢に向かって距離を詰める。


「いいぞ、リョウキくん!それでこそだ」


心底嬉しそうに吼えると、小野寺さんは上げかけた戦斧を下ろす。

そして斜め右下に斧を構え直した。

その刃先から、バチバチと青白い電撃が迸りはじめる。


「あの構えは…雷神の槌を使うつもり?かなり本気ですね」


そんなアイシャの呟きを耳が拾った気がしたが、

ここで足を止めても的になるだけだ。

雷神の槌だか打ち出の小槌だか知らないが、

双剣スキルの方が発動は早いはずだ。


加えて、小野寺さんのあの巨躯は、近接戦闘においてはかえって枷になるはず。

一気に踏み込み、両腕を交差させるようにして構えた双剣を、

渾身の力を込めて振り下ろそうとしたのその瞬間。

ありえないほどの近さに、突如として斧が現れる。


「なっ…!」


既に放った双剣の連撃が、けたたましい金属音と共に斧に弾き返される。

その反動をまともに食らった俺は、数メートルほど吹き飛ばされていた。

俺の攻撃があと少しでも遅ければ、斧をまともに受けて今頃死んでいただろう。


いくら実力差があるといえど、彼我の距離を見誤ったはずはない。

とすれば、答えはひとつ。


「斧が…伸びたのか?」


「オーノー!って感じだろ、斧だけに」


突然の親父ギャグが発動する。

…先ほどのカウンターに沸いていた会場が、しんと静まりかえった。


「…お前ら、覚えとけよ」


ドスの効いた小野寺さんの声に遅れること数秒。

不自然なほどの笑いが一斉に練兵場を包んだ。


「おおおおおもしれぇええ!!小野寺さんの斧ギャグ最高っす!」


「ナイスミドル!抱いて!」


とりあえず、騎士団でもダジャレが評価されていないことは、よくわかった…。


「如意棒かよ…」


と俺が思わずぼやくと、小野寺さんはアメリカ人のようにチッチッチ、と指を振る。


「いや、俺の如意棒はもっとすg」


「小野寺ッ!」


その瞬間、団長アストライアから絶対零度の喝が飛ぶ。

一瞬で小野寺さんは口を閉じ、黙って斧を構えなおした。

もちろん、他の騎士団員たちも、電源が切れたように静かになる。


「あの、如意棒って…?」


沈黙の中、突如響き渡るニアの声。

純粋無垢なその疑問に、誰も答えられない。


小野寺さんが咳払いした。


「仕切り直しだ、リョウキくん。いざ!いざ!」


再び斧を右下に構え、左手でクイクイ、と挑発を放ってくる。


「やっちまえ!小野寺さん!」


「リョウキ青年もなかなかがんばるじゃねぇか!」


「どっちもいいぞ!」


練兵場を覆った気まずさを振り払うように、

そして、ニアの質問を誤魔化すかのように、突如として飛び交う声援。


「小野寺は、後で腕立て1万回だな」


そう呟く団長の声が聞こえた気がした。


「あの、ところで如意棒って…」


意外にしつこいニアに、アイシャが諭す。


「後でリョウキくんに聞きなさい」


や、やめろ…一瞬気が遠くなる。


それはともかく、だ。

先ほどの斧が伸びる技は、刃先から放たれていた電撃とは関係がないはずだ。

あの電撃こそが、その由来から考えてもトールハンマーの能力だろう。


とすれば、あの斧が伸びる技は、トールハンマーとは異なるカウンタータイプのスキルか。

発動音声はなかったから、ひょっとするとあの武器固有の能力かもしれない。


つまり、直前まで2つの技のどちらで迎撃されるかはわからないということだ。

あるいはもっと別の技を持っているかもしれない。

さりとて距離を取れば、あの衝撃波が飛んでくる。

引くも地獄、進むも地獄とはこのことだ。


「どうした、そんな程度であの子を守れるのか?」


小野寺さんの挑発に、かっと怒りがこみ上げ、睨み返そうとした瞬間-


『お前自身を見せてみろ』


戦う前の小野寺さんの言葉が浮かぶ。

…どうする。考えろ、考えるんだ。


焦りの緊張の中で、俺は必死に脳みそを回転させる。

どうすれば勝てる?こんな相手に?

勝てっこない…勝てるわけがない。

そう思った時だ。

ふと、目の前に光が見えたような気がした。


別に勝たなくてもいいんだ…

そう、思い出せ。


『一撃でも俺に入れられたら、デュエル終了だ』


無意識に勝とうとしていた。

でもそれが絶対に不可能だともわかっていた。

その発想が、俺を絶望に陥れていたのだ。


でも違った。

勝つのではなく、一撃を入れさえすればいい。

それならば、チャンスはある。


「見せてやろうじゃないか…俺の戦い方を」


双剣を握り直し、腰だめに構える。

まずは深呼吸。


「…」


俺の変化を感じ取ったのか、小野寺さんの表情が一変する。

もはや無駄口はたたかず、獲物を睨み据えるライオンのような気配だ。


「ブースト!…からの、さらにブースト!」


加速スキルを連続発動し、先ほどよりもさらに早く距離を詰める。


「…安易な」


そう呟く小野寺さんの手元から、斧の柄が瞬時に伸びる。

加速スキルが発動中の俺は、自ら斧に飛び込んでいくような形になる。

避けられない。…が、賭けには勝った。


「違う…避けないのさ」


最初から避けるつもりなど毛頭ない。

斧の柄が俺の体に当たる瞬間、


「ツインソードスラッシュ!」


バカのひとつ覚えのように、双剣スキルを発動。

スキル発動の恩恵による加速効果で、斧の柄を脇と体に挟むような形で俺の体が加速する。

もちろん、小野寺さんのカウンターは成功判定だ。

だから、俺のHPは凄まじい勢いで減っていく。

しかしそれは、計算済みのこと。


「届けぇぇぇぇッ!」


HPバーの色が赤くなり、残すところほんの数ミリとなった瞬間、


「Hit」


赤い文字が、小野寺さんの頭上に浮かんだ。

次の瞬間、俺のHPはゼロになり、画面が一瞬で真紅に転じる。

力尽き、倒れこむ俺の視界の中ほどに、「デュエル終了」のウィンドウが点滅していた。

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