学校生活
「で、不良たちを殴った後に学校に来たら校門の前で鷹浜先生が待ってて、説教食らったって訳だー。あっはっはっはーっ!」
「…………」
現在地、学校の屋上。
不良連中をぶっ飛ばしてきた後、コイツの言う通り俺は鷹浜に説教を食らった。ついでに反省文50ページを午後から書かされるおまけつき。午後からサボればさらに倍という釘差しつきだ。
そのせいか、フェンスを背にして食う三色弁当が美味いと思えん。気分的にだ。
「いやー、面白いよねーおーかみくんは。無事不良街道突っ走っているよねー!」
「……1つ、聞いていいか?」
「んっ? なーに?」
「お前、なんで友達でもないのに馴れ馴れしく俺に話しかけてんの? ぶっちゃけ怖いぞ」
そう、フェンスの上で足をバタバタさせながらカレーパン食ってる危ないコイツは俺の友達ではない。ちなみに、今日の朝の話をコイツに話した覚えもない、勝手に語り始めて、勝手に俺の朝のオチまで話し切っただけだ。
この名切零香という女子生徒は、俺の友人ではないのだ。
「えー、友達だよー? 友達いない人といない人が会えば、それは友達さー」
るるるー、と鼻歌を続けて言う。肩まで伸びるセミロングの髪が、少し揺れている。
「へー、なら同じ境遇の奴は他にもいるからそっち行け。俺はお前みたいな何考えてるのかわからんのとは気が合わん」
「やだなー、境遇は同じでも理由が違えばそれは類が違うじゃん?」
「類?」
「うん、私とおーかみくんはお互いに怖がられて一人ぼっちー」
よっ、と言ってフェンスから飛び降りて俺の隣に座り始める名切。腹が見えたぞ腹が。
「いいや、語弊があるだろそれ。俺は誤解、お前は本当に怖い、だ」
と、きょとんとしてすっとぼけた顔をしている名切に指を差して言ってやった。
この女、見た目は美人で普通に人気の出そうな見た目をしている。正直言って、同じクラスであろうと俺みたいなのでは会話する機会は来ないとも言えるほどにだ。
しかし、どうにもこの女はやばい。1年の頃、当時3年のうちの不良がちょっかいかけると、笑みを絶やさずハサミを肩に刺したり、報復に来た連中を全員叩きのめしたという事実を持っているのだ。
3年の連中は無論、そんな事実は口をつぐんで話さない。おかげでコイツは退学も停学もしていない。まあ、不良としてのメンツとかだろう。女に負けた、なんて噂を広められたくなかったのだろう。
だが、まあ実際噂は本当というのは俺たちの学校では周知の事実であるのは間違いないのであった。後者の全員ぶちのめしは見てないが、ハサミの方は実際その現場を見たし。
そんな訳で、コイツは絶賛みんなから怖がられているのであった。俺からもな。
「俺もお前にいつ刺されるか怖くてたまらねー。だから早くどっかいけ」
「むーっ、おーかみくんは意地悪だなー。大体、私がやったのはおーかみくんよりかわいげあるけどなー」
「無い。刺すなんて恐ろしい真似、誰がするか。刃物を使って戦う、って時点で頭キレてるとしか思えねーんだよ」
「殴るのも刺すのも痛いので一緒でしょー?」
「だからお前は怖い奴なんだよ。ケンカは人殺しじゃねーんだよ」
はあ、コイツと話してると余計に飯がまずくなる。こいつが普通の美少女なら良かったんだけどな。殴って蹴ってばっかの人生に彩りも出るってもんだよ。
「ふーん、おーかみくんの言う事はよくわからないなー。多分、他の人もよくわからないんじゃないかなー」
「別に、こんなん同意もらったって否定されたって人それぞれだろうだからしょうがねえよ。けど俺からすりゃ、どんな見た目の野郎でも平均して同じ威力のある刃物の方が怖いってだけだ」
「へー、どっちも怖いと思うけどねー」
「だから、人それぞれって言ったろーが。あとな、さっきからおーかみくんってなんだ。1年の頃はいつも君とか西都くんって言い方だったろ」
「えっへっへー、それはもう1年の付き合いなんだし、愛称で呼んでいかなきゃ友情深まってる感じしないでしょー?」
「深まってねーだろ。全然」
こうやって昼飯の時、屋上で食う時だけしかしゃべってねーし。
「えー深まってるけどなー。それともー、愛情深めちゃうー?」
「はっ、吊り橋効果期待でか? お前への恐怖を恋と誤認しないぞ俺は」
「んー、この意地悪おーかみくんはほんともー」
頬を膨らませて、ぷんぷんと怒る名切。あー可愛らしいのになー、コイツが危険人物じゃなきゃなー。
「あ、恐怖で思い出したけど。おーかみくんは知ってる? 最近多発している連続殺人事件」
「いーや、知らん。連続ボコられ事件なら知ってるが」
「それおーかみくんがやってるやつでしょー? 怖い人だなー、私も乱暴されちゃうなー」
いやーん、とか言って自分の身体を抱きしめているようなポーズする名切。さっきからコイツに俺がお前に対してどういう感情持ってるか伝えてるのになんてポジティブな奴だ。
「んなことしたら俺がお前に八つ裂きにされて別犯人説出るだろ。で、連続殺人事件がなんだよ、この辺りで起きてるとでもいいてーのか?」
「そうなんだよねー、おかげでヒソヒソとクラスの子たちから言われちゃうんだよねー。名切が犯人じゃないかー、って」
「そうか、まあ、自首しとけよ」
「あはははーっ! おーかみくんは慰めの言葉もかけないひどい人! というかおーかみくんも犯人扱いとはー!」
とか言いつつ、地面叩いて大爆笑する名切。なんだこいつ。
「ってのは流石に冗談だよ、悪かった。お前は怖い奴だが、流石にそんなんまではしないだろーしな」
「おやー、おーかみくんが優しい」
「優しいんじゃない、普通の考えだ。それに違うって言った瞬間、お前から離れて速効警察に電話する程度には怪しんでるぞ俺は」
「そっかなー、でも距離取らないでくれてるよねー?」
「げっ、忘れてた」
「わざわざ取らなくてもいいのに!」
とりあえず名切から距離を置いて、三色弁当を食いなおす。そぼろは多く残っている。
「で、連続殺人事件がどうしたんだよ。危ないから気を付けなよーってか?」
「そー、そういう感じー。何せ、被害者は6人で全員首が落とされて死んでるって言うんだからねー、チェンソーでも使ったのかもねー、ギュリギュリっと肉がまき散らしながらー、骨もゆーっくり切断してーってー」
「お前は飯時になんてこと想像させようとしてんだ……」
んなスプラッタなこと想像しながら飯食うこっちの気持ちになれってんだ。
と、名切がまだ手にもって食っているカレーパンを見て俺は一つアイディアを思いつく。
「……あ、ダメだからねー? 今思いついてること口に出さないでねー、絶対言わないでねー」
「おー、わかってるわかってる。ところでよー、今朝なー、地面に犬の――」
「あー! 聞かないからねー! おーかみくんは食べ物を食い物を粗末にさせようとする最低さんだー!」
「そりゃお互い様だってんだよ、このスプラッタ大好き女」
とまあ、軽く一矢報いてやったので笑みをこぼしながら、飯を食うのを再開した。あー、午後サボりてー…………。