西の狼
類は友を呼ぶ。
俺はこのことわざに異を唱えたくなっているお年頃。そう、初々しくも4月から高校2年生になっている。
名前は西都 狼真。かっこよくも幼くもない、引き立て役にもってこいな高校生的な見た目からは想像もつかない、強すぎそうな名前だなとよく笑われていた。
それはいい、別に自分の名前にしちゃ仰々しすぎるなと中学辺りで思っていたし。小学校の時はかっこよくて好きだったが。今思うとやや恥ずかしい。
で、俺が類は友を呼ぶ、略して類友に異を唱えたい理由は1つ。今のところ、同類と思える人間と一緒に遊んだりしてないのだ。
なぜなら、今俺の前に来るような連中は――
「ヒャッハー! 死ねや西都ぉー!」
「そのモブ面を血で塗りたくって隠してやるよぉー!」
「俺の百鬼木刀の威力で全身粉砕骨折にしてやんよぉー!」
こういう、俺が生まれてすらいない時代にいたような連中ばかりが集まってくるからだ……!
「もう、いい加減にしろぼけぇぇぇっ!」
「ハラパンッ!?」
「フェイスナッコッ!?」
「アッパァッ!?」
俺が食らわせた動作を口に出しながら、不良どもは倒れた。くっそ、何が悲しくてこの21世紀に河原で不良どもを殴らないといけないんだ!
「いい加減、俺の目の前に現れるのは止めろ! まるで俺が――――この町で有名な不良みたいじゃねーか!」
「じ、事実じゃねえか……」
「常に黒の穴あきグローブをつけた、学ラン野郎――」
「別名、黒拳の西狼…………」
「「「そう、四天王の1人、西都狼真ぁ!」」」
「誰が四天王だぁ!」
「ぐはっ! 星が見える!」
仲良くハモッて言いやがって……! 間違って蹴りを食らわせちまった!
大体、俺は毎日つけてなんかいない。たまにつけるぐらいだ! 大体、四天王ってあと3人誰だよ!
「ひいい、倒れた相手にも容赦なく蹴りを入れる凶悪さ!」
「死にかけた相手にも容赦なく牙を突き立てる狼の如く……や、やべえ……」
「うーん、目が回るよーかーちゃーん」
「お前ら本当に不良か! お前らの界隈の方がもっとヤバいの多いだろ!」
あー、殴ったこっちも気分悪くなる! せめて虚勢張ったまま倒れるぐらいになってから喧嘩を売ってこいってんだ、全く。
俺はアホ三人組を放って、学校へ行く。くそっ、今日も遅刻かよ。
ったくよー、中学の頃からこれだ。
偉そうにいじめてた野郎をちょーっと小突いただけで、報復だのなんだのしてきたのを返り討ちにしてやったら勝手に調子乗ってる扱いしやがって。おまけにさっきの変な異名までつけられてる始末だ! ほっとけば何にもしねー奴だって気づけよあの不良軍団は。第一、今時なんであんなに不良ばっかいるんだ、ブームか!
黒い穴あきグローブつけてんのも、中学の頃に3000円もしたのを買って着けずに置いとくのも勿体ないと思っているだけだし……。別に格好いいからとかそういう子供じみたことはもちろん考えてない。
ええい、ともかく学校だ学校。毎度毎度遅刻すると鷹浜の奴がうっさいしな……。
「おい、貴様」
「ああ? なんだよ!」
またか、また不良か!
ああいいよクソが、どうせ遅刻確定だし、全員ぶっ飛ばして快適に学校行ってやるよ……と思ったが、振り向いたらいたやつは、スーツをつけてグラサンつけた顎鬚のガタイがいい男だった。どうも、不良とは関係なさそうだ。
「あ、あー……すみません。てっきり嫌いな知り合いかと……」
「この女を知らないか」
「え?」
そういって見せてきたのは、長い紺色髪の美少女。日本人、っぽいがちょっと違う気もする。
なんにせよ、見たことなんてない。だが、こういう暴力とは無縁な美少女とはお近づきになりてーと思う。無理だろうが。
「いや、見たことないです」
「……本当か」
「ええ、俺的にも残念っす」
「そうか」
と言うと、俺に背を向けてスタスタと歩いていった。少しムッと来たが、こっちも最初は無礼な真似したし、お相子か。
しかし、人探しか。写真に載ってた子の服、見たことないがなんか貴族とか王族とかそんな感じの服だったし、偉い王女様だったりしたのかもな。
「……なんて、んな非常識なことありえねーわな。さっさと学校行く――」
「見つけたぜ西狼……!」
「ここであったが百年目だぜぇ……!」
「ぶっ殺してやるよぉ……!」
1人、2人、3人……ええい、交差点の脇からまだ出てきやがる。
人が学校行こうとしたら、またワラワラと出てきやがってぇ……! てめぇら学校行けよ……!
「ああいいよいいよ、出てきたらぶん殴って快適に学校行くってさっき決めたばっかだしなぁ……! 全員ぶん殴って終わらせてやらぁっ!」
「えっ! ちょ、まっ……!」
「待つかぁぁぁっ!」
こうして、めんどくさい第2ラウンドが開始された。