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第一話

 見渡す限りに広がる、太陽に焼かれて干乾びた大地。乾き切った黄色い砂しか存在しない、砂漠と呼ばれるこの世の地獄。

 草木の一本も、ネズミの一匹も、竜の一体もいない。ついでに空には雲ひとつない。灼熱の太陽が容赦なく熱を放っていた。


「熱い……熱い……水……」


 そんな場所を、一人の男が歩いていた。

 茶の短髪に黒い瞳。顔立ちに少し幼さを残しているところから、年齢は二十より少し前といったところだろうか。だが、顎にまばらに生える無精ヒゲが、彼の外見年齢を高く見せていた。着古して少しボロボロになった着衣といい、あまり外見に頓着しない性格なのだろう。

 容姿や服装に関しては、少しみすぼらしいだけで特におかしいところは無いのだが、彼には決定的におかしなところがあった。それは、彼の背負っているものである。

 それは、身の丈もある大剣だった。

 柄に巻かれた布は汚れてボロボロだが、その刀身は鈍い青で、曇りのひとつもない。見目は素晴らしい大剣だ。

 だが、悲しいかな、このまま町に入れば、彼は頭がおかしい人として道行く人に見られることになるだろう。この世界に、剣士などただの一人もいないはずなのだから。







 天井に申し訳程度に備え付けられた照明が、淡い青で室内を照らす。その部屋はあまり広くなく、薄暗いためにさらに狭く見えるが、そこには数人の男女がいることが分かる。男女は皆一様に、椅子に座り、壁に設置された薄く板状に切り出された魔石に手を当てる。その手から流された魔力を用いて魔石を起動させ、そこに表示される文字列を眺めていた。


「キシュナル砂漠、地点210、342にて、タイプCの捕食行動を確認」


 その中の一人の女性が、魔石に映し出された文字を読み上げる。

 その声に、黙って壁に寄りかかっていたオレンジの髪の女が顔を上げた。


「210の314って、砂漠のど真ん中じゃないの。そんなところにいるなんてどんなバカ……って、まさか」

「住民コード、RK3240d。……彼、ですね」


 オレンジの女は溜息をついて、諦めたように部屋の中央に向かう。そこには、円形の舞台が鎮座していた。直径は、大人が両腕を真横に開いた程度。淡く青色に発光していることから、これが魔石で出来ていると分かる。その表面には、何かの記号が規則正しく刻まれていた。

 女は、舞台に上がるための階段に足をかけたところで止まる。


「そういえば、なんで私が行かなきゃいけないの。タイプCくらいなら、相手に出来る人いくらでもいるでしょ」

「いえ、それが……所長がどうしてもフェイリンさんにと」


 その言葉を聞いて、フェイリンと呼ばれた女の顔が僅かに怒りに歪む。

 何故か、所長はあの男関連の仕事をフェイリンに回したがる。フェイリンとしては、いい加減うんざりしているのだが、いくら訴えても止めてくれない。一体、何の嫌がらせなのだろう。


「……あのおっさん、何考えてるんだか」

「さあ、あの人の考えを読める人は、なかなかいないかと」

「まあ、いいわ。あんまり暇で腕が鈍ってもいけないし、いい暇潰しができたと思うことにするわ」


 怒りを諦念に変えて、フェイリンは再び階段を登る。

 そして、舞台の中央に立つと、ゆっくりと目を閉じた。


「転移石使用許可申請。……使用許可、下りました」


 その声に呼応するかのように、フェイリンの下にある石の舞台が青い光を増していく。刻まれた記号の一つ一つが、火の灯ったように青に染まる。

 そして、全ての記号が青に染まったとき、舞台の上に立つフェイリンが、小さく口を開いた。


「――――足、爪、翼。およそ全ての運ぶもの」


 青の中に異質な、緑の光がフェイリンの身体を包む。


「――――く移せ」


 次の瞬間、緑の光が爆発して閃光となり、部屋の中を蹂躙する。そして光が消えた後に、フェイリンの姿は舞台の上に無かった。

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