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雪の華

私の中で生まれた一人の清寧、コージ・ライアンの少年時代です。

まだ、きらきらとかがやいていた、彼のかけらを見つけてください。

「全寮制男子校」


 最後まで反対したママを押し切ってパパは僕を自分の母校のシュタイン男子校に突っ込んだ。全寮制の11歳から18歳までの学校だ。


 ママに会えるのが夏休みとクリスマスだけになる。パパは僕がママと仲がいいのが気に入らない。ママを孤立させたいんだ。パパもママも言わないけど、僕は知っている。パパには愛人がいるんだって事。


 僕は8年もの檻になる校舎を見上げた。古くてダッサイ。いまどき教会のある学校だなんてね。固いカラーと灰色の囚人服、いや、制服を着て門をくぐる。僕の後ろで門が閉まったとき、絶対逃げ出してやると思ったよ。


 礼拝堂に集められた僕達1年生は、周りをぐるっと上級生に囲まれて縮こまっているようだ。18歳なんてもう大人だよ、うっすらひげ生やしてるような奴もいる。ぼくはぶっきらぼうな態度を露にして校長やシスターの話を聞き流していた。


 ふと、視線を感じた。2、3人後ろの奴が僕をじっと見てる。僕はわざとハンカチを落として拾う振りをして振り返った。緑の瞳が愉快そうに僕を見ている。目が合うとウィンクしてきた。気になる。やがて1年生30人の名前が順番に呼ばれ、そいつが「クリス・モーガン」って名前だってわかった。うんざりするような長い説教の後、「聖歌隊員は前へ」という号令。1年生のトップをきってそいつが前に出た。へぇ、聖歌隊ねぇ。


 僕はママとは教会に行くけど、僕自身は教会は好きじゃない。だから賛美歌が流れてきても歌う気にはならない。いきおい、みんなの歌を鑑賞してしまうことになるんだけど、耳を疑ってしまうほどクリスの声は澄んで高かった。


教室でクリスは僕の隣の席に座った。

「クリスだよ。君の事、なんて呼べばいい?」緑の瞳がくりくりして聞く。

「コージでいいよ。君、歌がうまいんだね。」僕の答えにクリスはにっこりして言った。

「遺伝だよ。うち、両親が音楽家なんだ。物心付いた時から歌ってた気がする。ピアノよりもバイオリンよりも僕には歌が一番性にあってるとおもうんだ。声変わりのことを考えるとぞっとするよ。」両親に期待された優等生か。僕は心の中であざ笑った。僕とは大違いだ。

「コージはすごく、かわいいね。」

「かわいぃ?」思わず大声が出た。何人かがこちらを振り向く。

「あは、だって思ったことがそのまま眼に出るんだもん。今、僕のこと、『なんだ、優等生め』って思ったでしょ。」思わず頬がカッとなった。

「でも、コージの瞳は綺麗だ。」机にひじを突き僕の顔を覗き込む。僕はそっぽを向くのも子どもっぽく思えてどうにもできなかった。


同じクラスで一ヶ月も過ごす頃、僕とクリスは親友になっていた。不思議なことに僕の眼を見て心を言い当てるのはクリスだけだったし、彼は音楽以外の教科はまるで関心がなくて僕に頼りっきりだった。僕?僕はこつこつする勉強は嫌いだったから、授業で一度聞いた事は忘れない一発屋タイプなんだ。体育だけは唯一、クリスと僕が張り合える授業で、走っても泳いでも不思議なくらい競った。


クラスメイトも、教師も、「天才肌の変人」が二人いると思ってる節がある。男ばかり30人なんてすごくつまらないと思ったけど、なかなかそうでもないもんだね。




「クリスマス休暇」


クリスマス休暇を前にしてあわただしい。僕は食堂に飾られた巨大なクリ

スマスツリーを見上げて憂鬱になった。今年はなんて言おう。ママのいない

家には帰りたくないっていってしまおうか。そうしたらあのオバさん、なん

ていうだろう。パパ、なんで再婚なんかしたんだろう・・・。


クリスも休暇は帰らない。彼は確かおばあさんと二人暮しだったはず。彼と

ふたりで、誰もいない図書館や礼拝堂を探検しようか。そして舎監の先生に

つかまって、二人で罰掃除だ。明るい結末が思いつかない。


「ライアン、校長先生の所へいきなさい」いきなり、担任のグリーン先生が

僕を呼ぶ。きっとパパからの苦情だ。絶対に家に帰ったりするもんか。


校長室は重厚なドアで、パパの書斎のドアをちょっと思い出させる。ノック

をすると「入りなさい」と先生の声がする。僕は中に入って入り口でぺこり

とお辞儀をした。

「コージ・ライアン、君のお父さんから、クリスマス休暇に絶対に帰宅させ

て欲しいという内容の手紙があった。君は去年、学校に残ったのだったね。」

「僕は夏休みまで帰らないつもりです。それは変える気はありません。先生

から父に話してはいただけないでしょうか」僕はこぶしを握り締めてぶっき

らぼうに言って校長先生を睨みつけた。先生は椅子をまわし、僕のほうに来

て一緒にソファに座るように進めた。


「コージ、少し話をしよう。君は一昨年お母さんを亡くされたんだったね。」

「はい、そして父は半年もしないうちに愛人だった女を正妻にしました。」

「今は君のお母さんでもあるだろう」「僕は絶対認めません。」「逃げてば

かりでは関係はよくはなりはしないよ。君が亡くなったお母さんを大切に思

っていることはよく分かったが。」とりつくしまのない僕の答えに先生は少

し困っているようだった。「僕はあの女がいる場所で絶対クリスマスなんか

迎えたくありません。先生、これは絶対変えませんからもう何も言わないで

ください」僕はソファーから立ち上がると、そそくさと校長室を出た。


ママは、僕の死んだママは僕にそっくりだった。蜂蜜色の髪、大きなバイオ

レットの瞳。よく歌を歌いながら僕のおやつを作ってくれたっけ。僕はその

そばでクリームをなめながらくだらない冗談を言ってはママを笑わせていた

んだ。ママが自殺したなんて今でも信じられない。でも、あのクソババァが

我が物顔にうちに乗り込んできたんだ。「コージ、これからは私がママよ」

なんて、信じられないこと言って。


僕は嫌な思いを振り切るように、2,3度頭をぶんぶんふって、休暇中の相棒

になりそうなクリスを探し始めた。多分、礼拝堂だろう。


クリスの両親は音楽家だ。この時期は書入れ時ってやつで、家に帰らない。

だからしけったおばあさんと過ごすよりはと、学校に残っている。両親のお

かげかクリスは声がいい。学校の聖歌隊にも入ってる。でもあいつは一人で

歌うほうが好きなのを僕は知っている。

学校が休み前でバタバタしているようなとき、一人で礼拝堂に行って思いっ

きり歌うのが好きなんだ。それもシスターがきいたら赤面しそうなイヤラシ

イ曲を。


礼拝堂に入るときれいな伸びのあるボーイソプラノがマドンナを歌っていた。

今日はまともだね。

「ハイ、クリス。今年のクリスマスは何する?」僕が声をかけるとクリスは

振り返ってニヤリと笑った。「脱走」栗色の真直ぐな髪と緑の瞳がきらきら

輝いてる。「脱走か・・・いいなぁ」「一晩中どっかの教会のミサで時間つ

ぶそう」「えー、教会のミサかよぉ」「凍死したいならその辺でもとめない

よ」

たしかに僕らの年ではいくらなんでも深夜営業の店に入るわけにはいかない。

でも「脱走」は魅力的な言葉だった。


ふたを開けてみればクリスマス休暇に残ったのは最年少が僕たち二人なだけ

で上級生を含めれば15名にもなった。クリスが真剣な目をして言う。「トーマ

スがいる・・・・」トーマスは5年生。15歳だ。プラチナブロンドがふわりと

柔らかな輪郭を縁取り、ブルーの憂いを含んだ瞳。人柄は温厚で、誰にでも

やさしい。この学校の人気NO1だ。


クリスは真剣にトーマスに恋をしていた。僕はそんなクリスを応援していた

けど、どこかに、もやもやしたものがあるのも隠せなかった。僕もトーマス

に恋をしてるのかな・・・。僕は普通に女の子のことも気になるんだけど。


クリスマスのミサが終わって寮に戻ると早速脱走の話だ。部屋は6人部屋だ

けど、今は二人きり。脱走用に防寒具をいろいろそろえていると、クリスが

いきなり「僕、今日脱走するの止めるよ。5年生の部屋に行ってみる」とと

んでもないことを言い出した。5年生はトーマスただ一人のはずだ。「いい、

僕は脱走する」一緒に行きたい気持ちと、行きたくない気持ちがぐちゃぐち

ゃになって、僕はぶっきらぼうに言った。


クリスを置いて部屋を出る。高い塀をよじのぼり、向こう側へ降りる。

夕方から振り出した雪がさくさく音を立てる。ゆっくりと繁華街のほうへ

足を向ける。クリスマスの夜だけあって、どこも静謐としている。小さく

声を出してみると、闇に解けてしまいそうだった。街で一番大きな教会へ

いってみた。信者がみなそれぞれに祈りをささげている。僕はクリスが失

敗しますように、なんてことを祈ってみた。そのまま夜を過ごす。時々、

眠くて意識がなくなるんだけど、ふっと目が覚めては、ミサが行われたり

賛美歌が歌われたりしてた。夢の中の出来事みたいだった。


翌朝、僕は眠い目をこすりながら学校に戻った。門はもう開いていた。

一晩起きて考え付いたことがあった。僕はトーマスじゃなくて、クリスが

好きだって事だ。





「足跡」


トーマスが歩いていく。それをクリスは目で追っている。そのクリスを僕は

追っていた。


クリスマスの日、5年生の寝室に行ったクリスは見事上級生の罠にはま

って結局7年生の部屋でドンちゃん騒ぎのおさんどんをやらされたらしい。

まぁ、他にも罠にかかった奴がいるというのだから、不幸中の幸いという

べきか・・・。当のトーマスは8年生に担ぎ出されて不在だったらしいから

不幸というべきなのかも。


僕はクリスマス以来、自分とクリスの関係のことを何度も考えてみた。

僕がトーマスに対して感じているようなあこがれじゃない。街の本屋の

かわいいサリーに対する気持ちにどちらかと言うと似ている。キスしてみ

たいとか・・・・。


それって変態かな・・・・。


風がクリスの栗色の髪をなびかせる。サラサラして日にすける。ちょっと

しかめた緑の瞳がきれいだ。7年生から仕入れたという春歌を気持ちよさそ

うにうたってる。やめてくれよ、そんな歌うのは。僕の気が変になりそうだ。


雪の中を僕たちは歩く。クリスのつけた足跡を僕がたどる。

クリスがこける。僕もこける、二人で雪まみれになって笑う。長いまつげに

雪がついてるよ、クリス。僕はそっとその雪を払う。ドキドキする。


「コージ、お前の目、本当にきれいだな」僕を見上げてクリスがいう。

そんな風に見ないでくれよ、本当にキスしたくなる。

手を伸ばして掴む。一緒に立ち上がる。このまま手を離したくない。

一瞬戸惑う・・・・。


クリス、僕の気持ち、きっといつまでも知らないんだろう・・・・

読んでいただいてありがとうございました。実は、このあとに長大な連作があるのですwwwこのお話と、その間をつなぐお話をかいて、その次のステップ(これも途中の話なんですが)に進めたらと思います。

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