最後の一日
「今日で最後か……」
逃れられない運命によって決められた最後の日を迎えた僕は今更ながら後悔していた。
「長いようで短かったな、まだ心残りがたくさんある」
しかし、それらの心残りは1日ですべてを片づけるにはあまりにも難しく時間は残酷に刻まれ続ける。
「せめて最後くらいは自分らしく行こう」
最後の最後になるまでこの境地に至れなかった自分は時間を無駄にしてしまった。
だが、今からでも遅くない。そう……
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そこまで読んだ彼女はすぐにつまらなそうに言う。
「何が最後の一日よ……どうせただのGWの最終日って落ちでしょ……」
「うぐぅ……」
図星である。彼女は何でもお見通しである。
僕が考えた小説と呼ぶのも失礼な文字の羅列のいわゆる落ちの部分はいつもすぐに見破られてしまう。
「だいたい、短絡的なのよ、今日こんなのを読まされれば誰だってGWの事だってわかっちゃうわ。やるならせめてもっと違うタイミングに例えば年末だとか、締切の日とか……
どっちにしてもあんまりおもしろくない落ちだけど……」
「ぐはぁ……」
そして彼女はいつも厳しい。
「あのさぁ、私も暇じゃないの。他にも見てほしいって言う人はいくらでもいるの。せめて、その人達と同レベル……いや、アドバイスすれば面白くなるものを持ってきてよ」
「……」
「あ~もう、落ち込んでる暇あったら次の作品を書きなさい!
次は私を驚かせる物を用意しなさいよ!」
その時窓の外がピカッと光りゴロゴロ!と大きな音が鳴る。
そして、部屋は真っ暗になってしまう。
「ちょっと!雷!?真っ暗で何も見えないわ……懐中電灯か何かない?」
「ちょっとまって。確かこっちに……」
僕はライターをつけ、台所の奥へと向かう。彼女は気づいていないだろう、これが僕の仕掛けだとは。僕は準備を整え彼女の方へと向かう
「ハッピーバースデー!薫!」
僕は誕生日ケーキを彼女、薫に持っていく。
「えっ!?えっ?」
彼女は困惑している。30本の蝋燭が揺らめくケーキ。
そう、今日は薫の誕生日。彼女に気づかれないように1か月前から準備を始め。勘の鋭い彼女に気づかれないように作品を読んでもらうという口実で呼びだしたのだ。
さすがの彼女もこの考えには至らなかったらしく驚いた表情を見せているのがわかる。
「どうして……」
「君を驚かせようと思って準備したんだ」
「どうして……私の誕生日をあなたが知ってるの!今日が初対面のあなたが!!」
薫は一気におびえた表情を見せる。そして逃げようと走り出す。しかし、真っ暗な部屋では逃げることはかなわない。
「君は僕と初対面だと思っているけど実は違う。僕の父親は君の書いた批判記事のせいで自殺したんだよ……」
「いや~!」
そうして、彼女の最後の一日は幕を閉じた。
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「どうですか!?今回は自信作なんですが!」
「微妙ですね。なぜ薫さんは自分の誕生日に彼の家に行ったのかという点が説明できていません。雷の描写も勘のいい人なら気づいてしまうはずですし……ところで……」
「ええ、わかってますよ」
僕がこの物語を書いたのは彼女の誕生日を祝うためである。もちろん物語の落ちとは違い僕と彼女は本当に付き合っている。そして……
「誕生日おめでとうございます。そして、一生幸せにします!僕と結婚してください!」
これが僕にとっての独身最後の一日