旅行
「ねえ?せっかくだし今度の連休どこか行こうよ!」
ナナコが俺を誘ってくる。
ゴールデンウィークに旅行か……しばらく行った記憶が無い。
せっかくの休日にわざわざ疲れに行くようなもんだと思って、ずっと家にいるか久し振りに帰ってきた友達と騒ぐのが毎年の恒例行事だった。
「そうだな、じゃあ行くか!」
「やったあ!」
無論かわいい彼女の頼みならば例えどんなに疲れようと行くに決まっている。
彼女との初めての旅行の機会をみすみす逃すバカはいないだろう。
ネットで良さそうな旅行のプランを探す。
秘密裏に検索条件に混浴の温泉有りを入れたのは男として当然だと思う。
「あっ!このプランがいい!」
ナナコはとある観光プランを指さした。2泊3日のそれは値段も手ごろで俺としてもなかなか魅力的なプランだった。何より美味しい食事とおふろ(当然混浴)は良い。
「じゃあこれにしようか」
俺はすぐにそのプランを予約した。
旅行はとても楽しいものとなった。ゴールデンウィークだけあって混んでいたものの、彼女とならば待ち時間も楽しいものだ。
そして温泉宿ではナナコの浴衣姿を拝むことができた、温泉の方は客が多すぎて貸し切りで混浴というわけにいかず残念ながら一緒に入ることはできなかったが……
食事はとても美味しくちょっと食べ過ぎてしまった。
2日目は主に観光をして回った。おしゃべりをしながら、ツーショットの写真を撮ったり。知り合いへのお土産を買うついでにナナコとお揃いの品を買ったりした。1日歩き回って疲れたのかナナコは宿に着くなり寝てしまいせっかく個室にお風呂があったのにもかかわらず結局混浴は果たせず……無念
3日目はイチゴ狩りを楽しんだナナコはイチゴが好きなのでこのプランのメインともいえるだろう。ここぞとばかりにあ~んをしてやった。
帰りのバスではナナコがウトウトして俺の肩に寄りかかってきた。そのかわいい横顔を見られただけでもこの旅行は大成功だといえるだろう。
「旅行楽しかったね~」
旅行の写真を見ながらナナコと話をする。今年のゴールデンウィークはとても楽しかった。
今まで家でだらだらと過ごしてしまったこれまでの人生を今更ながら後悔するが、よく考えればナナコと出会ったのは今年なのだ1人で旅行なんて馬鹿げた事をするくらいなら家でゴロゴロしてた方がマシだろう。まあ、俺にはナナコがいるからそんな話はどうでもいい、すごく喜んでくれたし、これからもたまにどこかに旅行に行こう。俺は上機嫌なせいか揺れるナナコの尻尾を見ながら決意した。
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「いや~今年は儲かりましたね!」
ゴールデンウィーク明けのとある旅行代理店では例年の数倍以上の利益が出たお祝いをしていた。
「技術が発達したせいでゴールデンウィークでも旅行に出かける人が減ってたもんな」
「そうですね、立体映像なんかのおかげで部屋にいても世界中を旅行したつもりになれますし、食べ物とかもお取り寄せできちゃう時代ですもん、正直旅行なんてわざわざ行くのは物好き位ですよ」
「それを言い出したら俺たちの生活が危なくなるだろ。まあ今年は例年の数倍の利益が出たから大丈夫だが」
「まったく、バーチャル彼女さまさまですよ」
『バーチャルシリーズ第7弾 キツネっこの彼女七弧』
人工知能と各種センサーを使用し、持ち主の嗜好の情報を読み取り、理想の彼女に変身するというこの装置は日本中でブームとなっていた。
「本当に男って単純ですね」
「純粋って言ってやれよ」
なお、このバーチャル彼女シリーズの本当の目的はおねだりによって持ち主にさまざまな物を買わせる事にある。開発者はこの装置を使った宣伝による広告料によって巨額の利益を得たという。
「というかなんでキツネっこなんでしょう?製作者の好みですかね?」
「人を化かすのが上手いからじゃないか?」