36 片付けを始めましょう
ディストが1歳になった時、ディスカは毎日1通ディストに向けた手紙を書くことにした。
ディスカの予想では早々にジェストは後妻を迎え、新しい母親が出来るはずなのだが。
万が一、ジェストが独り身のままだった時のことを考えて。万が一、新しい母親がディストを愛さなかった時のことを考えて。
ディストが少しでも寂しくないように手紙を書いた。
この手紙はエディに託そうと思う。
手紙の内容は、近況を尋ねる文だったり、ディストを愛していることを伝える文だったりした。
少しでも多く、ディストを愛していたことが伝わると良いと思った。
少しでも多く、ディストの悲しみを消してやれれば良いと望んだ。
それから、少しずつ物を片付けていった。
元々物に執着の無いディスカは、迷いなく己の物を捨てていく。
ドレスに、髪飾り、装飾品。売れるものは売り払うことにしたけれど、裕福な家の者が物を売りに出すのは下手な憶測を呼ぶために捨てることにした。
一通り捨てると、ディスカはひとまず満足した。
「奥様、それらも処分してしまうのですか?」
ディスカを手伝いつつ控えていたエディは、ディスカがそれなりに愛用していた品々を見て眉をひそめた。
「ええ。いらないでしょう?もう」
期限はもう迫っていた。
出来うる限り早く、不要な物は片してしまう必要があった。
妻が使う部屋は決まっているために、ディスカがいなくなった後を埋める後妻はこの部屋を使うはずだ。となると、ディスカの私物が邪魔になることは分かっていた。
そして、それをディスカ以外の誰かが捨ててしまうことは無いと理解していた。
「大事な、思い出では無いですか」
「そうね。……エディ、何か必要なものがあったら持っていっても構わないわよ」
「……いつも付けている、髪飾りを」
「これ?」
ディスカは手探りで髪飾りを触った。
硬い、石の感触。
それは新婚旅行でジェストに貰った真珠の髪飾りだ。
「これはダメよ、エディ。墓まで持っていくのだから」
「そうですね」
エディはさして残念そうでもなく頷いた。
では、と言ってたいして価値もなさそうな物を数個、持って行った。
「……奥様の物をこうして持っているのは、不敬ではありませんかね?」
「さあ。どうかしらね」
エディが持っていったものは、ディスカが特別愛用していた物でもなければ、価値のある物でもない。となれば、いらぬ憶測も呼ばないだろう。
どこにでも売っていそうな物なのだから。
エディはそんな無価値な物を、さも宝物のようにポケットに仕舞い込んだ。
さて、次に片付けるものは。
大分すっきりとした部屋の前でディスカは一度立ち上がる。
手を伸ばそうとして、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。
「ディストかしら?」
「恐らくは」
「じゃあ、今日はこの辺にしておきましょう」
「はい」




